部屋に戻ってきたエスクプスの隣にはジョンハンがいて、開口一番こう言われた。
驚きはしたけれど、エスクプスの表情を見れば、いろいろと察することができる。話し合いって、もしかして私のデビューに関することだろうか。
──韓国に来てもう1ヶ月以上経った。
馴染めるわけがないと思っていたメンバーたちとの生活もすっかり日常になり、自分自身、たまに性別を忘れてしまうほど自然に男の子として振舞っている。
考えなかった…というよりかは、考えないようにしていたのかもしれない。
私、このままで本当にアイドルとしてデビューできるんだろうか。
実力も伴わないまま、知名度だけ少しずつ上がっていって。これじゃただ、SEVENTEENの人気を利用しているだけの"調子乗ってるヤツ"だ。
動画を見て私のファンだと言ってくれる人を見る度、嬉しい反面、これからどうなるんだろうという気持ちが膨れ上がっていた。
そして今私の目の前には、真剣な顔をしたエスクプスと、私の事情を知ったジョンハンがいる。
きっと、私の人生が、今大きく動こうとしている。
心臓がうるさい。
口から飛び出てきそうだ。
何を言われるんだろう?宿舎から出ていって欲しい?日本に帰った方がいい?
こういうとき、ネガティブなことしか想像できない自分が嫌だけど、あとはなにも思い浮かばない。
エスクプスのくちびるが、ゆっくりと開かれる。
全く意味が理解できなくて目を丸くさせたまま硬直していると、ジョンハンはいたずらが成功したように楽しそうに笑った。
信じられない。
夢かもしれない。
考えないわけがなかった。もし、SEVENTEENのみんなと一緒に活動できたら、どれほど楽しいだろうって。
でも、そんなこと100%ありえないから、絶対にそんな都合のいいこと考えないようにしていた。
(そんなの、答えは1つに決まってる。)
私じゃ力不足かもしれない。
みんなに迷惑をかけるかもしれない。
だけどそれでも、私は、この奇跡にしがみつきたい。
力強く答えたつもりだったけれど、その声は涙で裏返った。
足から力が抜けて、みっともなく地面に膝を着く。涙が、あふれて、あふれて止まらない。
こんなに幸せだと、人間泣けてくるんだな。
嗚咽で喋れない私を、エスクプスとジョンハンは優しく抱きしめてくれた。
そのぬくもりはとても暖かくて、涙は止まる所かとめどなくあふれ続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!