第3話

きいてない!
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2020/07/13 17:27

受付で名前を伝えると、豪勢な装飾のエレベーターへと案内され、落ち着かないまま目的の部屋へと通された。

そこに居たのは日本で私の面接をしてくれた事務所の社長さんと、もうひとり。

見覚えがある。ありすぎる。
だぼだぼなパーカーを着て体のラインが隠れてしまっているけれど、ガタイの良さやスタイルの良さははっきりと伝わってくる。
なにより、その特徴的な瞳があまりに魅力的すぎて、彼の存在感を改めて全身で感じた。

エスクプス
あ、初めまして。君があなたさん?
あなた

──ぅ、あ、そ、そうです…!初めまして…!

エスクプス
大丈夫?ちゃんと息吸えてる?
屈託のない笑顔で笑う彼は、紛れもなく、seventeenの統括リーダー、エスクプス。
緊張と興奮でパニックになり、上手く声の出せない私を心配しつつも優しく見つめている。

本物だ……私の脳内はそれしか考えられない。
だって、だって目の前に、私服のエスクプスが…煌びやかな衣装を身にまとっていない状態でも十分にかっこよく、そして画面越しに見るより身体が大きい。

固まってしまうのも無理ない、彼は君たちの大ファンだから、と社長がフォローを入れてくれた。それに対して、エスクプスは天使のように優しく笑ってくれる。


(ん?あれ、なんか違和感…)

少しずつ落ち着きを取り戻し始めた私は、なんだかさっきから会話に違和感があることに気がつく。
まだ韓国語は勉強中で完璧には理解できていないけれど、確実におかしな点がある。

…社長はさっきから、私の事を《男の子》と表現している?

ディノと同い年の私をウリマンネと言い、エスクプスは可愛い弟が増えるようで嬉しい、と返している。多分。

…いやいやいや、そんなまさか。
確かに私は女子にしては可愛い声ではないし、肩幅もあるし、髪だってショートカットだし、胸も…平均よりは…いくらか小ぶりなほうだけれど。

だとしても、さすがに私を男の子のアイドルとしてデビューさせる気なんてそんなこと、ドラマでしか聞いた事がない。
エスクプス
じゃあ、早速今日からメンバーと同じ宿舎で生活してもらうから、案内するね!
エスクプスの笑顔が眩しい。

呆気に取られていると、私の持ってきたキャリーバッグを手に取り、さ、早く行こう、と先陣を切って歩き出した。



──あとで社長から長文のメッセージが届いた。

『そうそう、伝え忘れていたけれど、君には男性アイドルとして性別を偽ってデビューしてもらうから、そのつもりでね。
今はまだ練習生の扱いだから、彼らと共に生活をしてアイドルとしての心構えを学ぶといいよ。
彼らに性別のことを話すか話さないかは君が判断していいからね!あ、面倒事だけは起こさないようによろしく頼むよ。』


いや、いやいやいやいやいや…

きいてないよ!!!!!!!!!

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