第19話

カミングアウト
553
2020/08/05 07:46
次の日、エスクプスと一緒に社長の元へ行った。

前日に泣き腫らしたパンパンの目で社長の前に立つと、肩をぽんと叩かれ、頑張ってね、と笑顔で言われた。
どうやらエスクプスの読み通り、最初からすべては社長の狙い通りだったらしい。何枚も上手だ…永遠に敵う気がしない。

社長には快諾してもらえたけれど、やらなくちゃいけないことはまだまだたくさんある。

まず、メンバーのみんながどう思ってるかだ。

そして、あとの大きな問題は…性別について。




その夜早速メンバー達が集められた。
いつもスタジオや宿舎で、ラフな姿で集まることが多かったけれど、今日は全く雰囲気がちがう。
会社の会議室に集まってもらい、前に私とエスクプス、そしてジョンハンが立つ。

それは異常な光景だったと思う。どう見たって普段とはちがう姿にメンバー達は真剣な顔をしていた。
エスクプス
今日は大切な話があってみんなに集まってもらった。
……えーと、ごめん、すごい深刻な空気出しちゃってるけど、そういう話じゃないから肩の力抜いて欲しいんだけど…
エスクプスの言葉に、メンバーたちの表情がふっと明るくなる。
ジョシュア
わかった、リラックスして聞くよ。
…話があるのは、多分あなたかな?
あなた

そうです…!

さっきまで眉を潜めていたジョシュアが、いつもの紳士的な笑顔を私に向けた。
それをみて、他のメンバーたちも気づき始めたようだ。
ホシ
えっなに?なに?なんの話?
ねぇなんでみんな解った感じになってるの?
ウォヌ
ホシヤ静かにしてw

1人だけ状況が読めないホシとウォヌのやり取りを横目で見ながら、私は大きく息を吸った。
あなた

…今日は、みんなにお願い…というか、僕の話を聞いてもらいたくて、無理を言って集まってもらいました!

息が詰まりそうになる。
落ち着け、落ち着け私。

ぐっ、と握りしめた拳を胸に当てる。
大丈夫、がんばれ、これからもっと頑張らないといけないんだから、負けるな。

緊張で押しつぶされそうな小さな胸で、思い切り空気をすいこむ。



あなた

僕を、SEVENTEENのメンバーに入れて下さい!!!!





肺に残った空気を思い切り吐き出して、言い放った。

しん、と一瞬にして空気が止まる。

ぎゅ、と瞑った目を、開くことが出来ない。
こわい、みんな、一体どんな反応を──





ミンギュ
喜んで!!!やったー本当に?!
ドギョム
うわーーー嬉しい!!!これからもよろしくね、あなた!!!
バーノン
ワァーすごい、弟が増えるのか
ディノ
同い年嬉しい!一緒に2人でご飯食べような!あなた!
ウジ
おめでとう、待ってたよ
ホシ
ヤハーーー!!!!!えー?!!!!話ってそれだったの?!!めでたいじゃんすごい!!!
えーーすごいな、こんなことあるんだ?!
スングァン
多分ヒョン以外のみんなはなんとなく思ってたと思うよw
ディエイト
うん、俺もなんとなくそうかなーって思ってた。嬉しいよ、あなた!
一気に騒がしくなった室内。
わっと駆け寄ってきたメンバーに押しつぶされながら、私は心から幸せを噛み締める。
本当に、このSEVENTEENというグループが、大好きだ!

…でも、大好きだからこそ、話さなくちゃいけないことが、まだ残ってる。

あなた

みんな、本当に…本当に、暖かい言葉をたくさんくれて…本当にありがとう。
でも、まだ聞いて欲しいことが残ってるんだ…!


私の、苦しそうな姿をみて、メンバー達はぴたりと言葉を止めた。
ゆっくりと、次の言葉を待ってくれる。

エスクプスとジョンハンが、私の背中を支えてくれた。




…最初は、ずっと隠し通そうと思った。
男性アイドルに徹さないと、みんなに気を遣わせたくないと、そう思っていた。


でも、彼らと生活を共にするうちに、考え方が変わった。

私を女の子だと知って、それでも男の子として振る舞えるようにサポートしてくれたエスクプス。

私が女の子だと知っても、ただ優しく受け入れてくれたジョンハン。

そして、私を家族のように、兄弟のように暖かく受け入れてくれたメンバー達。


きっとこの人たちなら、今の私を受け入れてくれる。
今後もし、性別が原因でピンチに陥った時も、きっと助けてくれる。そう思った。

これが"甘え"じゃなく、みんなに対する"愛情"なのだと、エスクプスが、ジョンハンが、みんなが教えてくれた。

本当のことを知って、どんな反応が返って来るのか震えるくらい怖いけれど、でも、それでも。


私は───
あなた

みんな、黙っていて、本当に…本当にごめんなさい。

僕……私は、本当は、女の子なんです…!!

    




ついに、言えた。
言ってしまった。






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