次の日、エスクプスと一緒に社長の元へ行った。
前日に泣き腫らしたパンパンの目で社長の前に立つと、肩をぽんと叩かれ、頑張ってね、と笑顔で言われた。
どうやらエスクプスの読み通り、最初からすべては社長の狙い通りだったらしい。何枚も上手だ…永遠に敵う気がしない。
社長には快諾してもらえたけれど、やらなくちゃいけないことはまだまだたくさんある。
まず、メンバーのみんながどう思ってるかだ。
そして、あとの大きな問題は…性別について。
その夜早速メンバー達が集められた。
いつもスタジオや宿舎で、ラフな姿で集まることが多かったけれど、今日は全く雰囲気がちがう。
会社の会議室に集まってもらい、前に私とエスクプス、そしてジョンハンが立つ。
それは異常な光景だったと思う。どう見たって普段とはちがう姿にメンバー達は真剣な顔をしていた。
エスクプスの言葉に、メンバーたちの表情がふっと明るくなる。
さっきまで眉を潜めていたジョシュアが、いつもの紳士的な笑顔を私に向けた。
それをみて、他のメンバーたちも気づき始めたようだ。
1人だけ状況が読めないホシとウォヌのやり取りを横目で見ながら、私は大きく息を吸った。
息が詰まりそうになる。
落ち着け、落ち着け私。
ぐっ、と握りしめた拳を胸に当てる。
大丈夫、がんばれ、これからもっと頑張らないといけないんだから、負けるな。
緊張で押しつぶされそうな小さな胸で、思い切り空気をすいこむ。
肺に残った空気を思い切り吐き出して、言い放った。
しん、と一瞬にして空気が止まる。
ぎゅ、と瞑った目を、開くことが出来ない。
こわい、みんな、一体どんな反応を──
一気に騒がしくなった室内。
わっと駆け寄ってきたメンバーに押しつぶされながら、私は心から幸せを噛み締める。
本当に、このSEVENTEENというグループが、大好きだ!
…でも、大好きだからこそ、話さなくちゃいけないことが、まだ残ってる。
私の、苦しそうな姿をみて、メンバー達はぴたりと言葉を止めた。
ゆっくりと、次の言葉を待ってくれる。
エスクプスとジョンハンが、私の背中を支えてくれた。
…最初は、ずっと隠し通そうと思った。
男性アイドルに徹さないと、みんなに気を遣わせたくないと、そう思っていた。
でも、彼らと生活を共にするうちに、考え方が変わった。
私を女の子だと知って、それでも男の子として振る舞えるようにサポートしてくれたエスクプス。
私が女の子だと知っても、ただ優しく受け入れてくれたジョンハン。
そして、私を家族のように、兄弟のように暖かく受け入れてくれたメンバー達。
きっとこの人たちなら、今の私を受け入れてくれる。
今後もし、性別が原因でピンチに陥った時も、きっと助けてくれる。そう思った。
これが"甘え"じゃなく、みんなに対する"愛情"なのだと、エスクプスが、ジョンハンが、みんなが教えてくれた。
本当のことを知って、どんな反応が返って来るのか震えるくらい怖いけれど、でも、それでも。
私は───
ついに、言えた。
言ってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。