数日後…
全体練習の終わったスタジオには、まだシューズの擦れる音がリズミカルに響いている。
それの合間に聞こえる、鬼コーチ…もといウジの力強い指導の声と、私の絞り出したような、けれど力強い返事。
私もトレーナーさんに筋力トレーニングとダンスレッスンを受けたあとだったが、丁度練習の終わったウジからカトクにメッセージが入り、今に至る。
私も疲れてはいるが、ウジはもっと疲れているはずだ。なんせ、数ヶ月後に行われるカムバックステージの、思い出し稽古だったのだから。
よりにもよって、とてつもなくエネルギー消費の高いHITを集中的に練習していたらしい。
そんな中私の練習を見てくれているのだから、どれだけしんどくても手を抜くわけにはいかない。
そんな気持ちでぶつかった練習は、1時間以上に及び、とうとう体に限界が訪れた。
床に倒れ込んだ私を、心配そうに見ていたメンバー達が恐る恐る覗き込む。
ホシがそう言いながら私に向けて手を合わせ、参拝するときのように礼をする。日本を愛してくれているだけあってその作法は美しいけれど、なぜ拝まれているんだろう。
(いやこの練習のあとで更に新曲の打ち合わせ…?!)
というか、そんな大事な用があったのに練習を見てくれていたの?
ウジは楽しそうにタオルで私頭をわしゃわしゃと拭くと、ホシと連れ立ってレッスンルームをあとにした。
正直、意識が飛んでしまいそうだった。
きっとアドレナリンで踊り続けていたんだろう。1度気を抜いてしまうと、うまく力が入らなくて、眠い。
遠くでミンギュが私の名前を呼んでいるのが聞こえる。
ゆっくり意識が遠のく中で、ステージに立ってキラキラ輝いているミンギュが、私に手を伸ばしていた。
ああそうだ、あれは、初めて友達に誘われて行ったライブで、奇跡的にファンサを貰って……
その日から、私は彼らに夢中になったんだ。
目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。
部屋の間取りはほとんど変わらないけれど、匂いと雰囲気が全然違う。
あれ?私そういえば昨日、どうやって部屋に戻ったんだっけ……
不安げな声でリーダーの名を呼ぶと、
そこに居たのは、笑顔のミンギュだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。