教室中に貼られた
みんなの“うちの子”を二人で見て回っていると、
不意に後ろから声をかけられた。
GWのネモフィラの公園以来に会った
ココちゃんの飼い主のお姉さんは、
そう言って優しく笑ってくれた。
隣のあなたの推しも小さく「こんにちは」と頭を下げた。
お姉さんの視線が教室をぐるりと回る。
お姉さんが懐かしむみたいにふふ、と笑った。
お姉さんにそんなふうに褒められて、
私は思わず「そうなんです」と口にした。
そう言って隣に立つあなたの推しの方を見上げると、
彼はちら、と私の方を見て目を逸らした。
その不自然な感じに、ハッと我に返った。
あなたの推しくんはこういうの、得意じゃないよね……。
そうわかっていたのに、
お姉さんにうちの子カフェを褒められて
つい嬉しくて自分のことみたいに
あなたの推しのことを話してしまった。
余計なこと言っちゃったかな……。
あなたの推しが遠慮がちにそう言って、
それを見たお姉さんが小さく吹き出した。
その意味がわからなくて
私とあなたの推しは顔を見合わせる。
そんな私たちを見て、お姉さんはまた目を細めた。
お姉さんは再び教室の壁を覆い尽くす
可愛いうちの子に目を向けた。
お姉さんはそう言って、
あなたの推しが貼ったシールの横に
同じように貼り足した。
お姉さんがシールの残りを手に持ったままそう尋ねた。
確かに、どうしてだろう。
各クラスから数々の“うちの子”が集まってきて
まとめている中に、あなたの推しのトトはいなかった。
「出さなくていいの?」と聞いたら「うん」と言われて
それ以上は聞かなかった気がする。
不意に振られて、はい、と頷く。
そう言いながら、彼の腕にとまって首を傾げる
トトの写真を思い出す。
緑色のトトは、
感情が見えにくくてモノクロみたいなあなたの推しとは
正反対みたいに色鮮やかだった。
そんな私たちのやり取りを見て、
お姉さんがくすっと笑った。
その言葉にあなたの推しは少し考えてから
と言った。
私は思わず「ええ?」と彼を見上げる。
私がそう言うと、あなたの推しは少しだけ笑った。
……。
そう言って笑うあなたの推しは
最近の困ったみたいな笑顔じゃなくて。
それだけで、私はなんだか少しホッとした。
そう言われてお姉さんのトートバッグを少し覗くと
犬も食べられる持ち帰り用のクッキーが
たくさん入っていた。
『カップル』
その言葉に頭の中が急に真っ白になる。
そう言ってお姉さんはくすくすと笑った。
ドギマギしながらそう笑って誤魔化した私の隣で、
あなたの推しは何も言わなかった。
あなたの推しには好きな人がいるのに……。
私とそんなふうに言われて、気まずいよね。
気になってそっと横目で見ると、
壁に貼られたはんぺんを見つめる彼の口元は
きゅっと結ばれていた。
それがちょっと機嫌が悪そうに見えて、
さっきまでの気持ちが小さくしぼんだ。
そのとたん、
さっきまで気にならなかった教室のざわめきが
どっと押し寄せてきた。
「この子可愛い!」
「俺は猫派だから」
「ハムスターいるかな?」
そんな声が私の頭の中にまでざらつきを残していく。
……やっぱり、そうだよね。
私はそれ以上、彼の表情を見ていられなくて、
そっとあなたの推しから視線を外した。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。