第91話

Golden Hour ◇ story 87.
8,209
2025/12/02 08:48 更新


私をじっと見つめるあなたの推しを見てしまって、
私の心臓は制御不能なくらい早く脈を打つ。



なんで、あなたの推しがそんな顔をするの?


それじゃあまるで、あなたの推しが私のこと──




私は頭に浮かんだ妄想を必死に否定する。


私に都合のいい妄想も、
勢いで好きだと言ってしまいそうになったことも、
あなたの推しが驚いたような顔で私を見ているのも
いたたまれなくて、頬にたこ焼きを含んだまま
言い訳を口にした。

あなた
ご、ごめん。変なこと言ったよね。
ただ、普段のあなたの推しくんの笑った顔と、今日の笑顔はなんか違うなって思っただけだから。
深い意味は、ないから!


もごもごと必死に弁解する私をじっと見つめていた
あなたの推しが、ぷっと吹き出す。

あなたの推し
ほっぺがたこ焼きの形になってて、かわいい
あなた
かわ……っ!?


あなたの推しの一言に、今度は私の頬が
ゆでダコのように赤く染まる。


そんな私を見て、あなたの推しはついさっきまで
自分の頬が赤かったことなんて忘れたみたいに、
楽しそうにくすくすと笑った。

あなた
ななな、なに、急に、こわい


私は慌ててたこ焼きを飲み込んだ。

あなたの推し
怖くはないでしょ
あなた
いや、怖いよ
あなたの推し
怖いって、俺、暴言なんて言ってないんだけど


そう言ってあなたの推しは少しムッとした表情で
残りのたこ焼きを口に運んだ。


なにもわかっていなさそうなあなたの推しに、
私は「はあ」とわざとっぽくため息をついた。

あなた
あのね、あなたの推しくんに嘘でも「かわいい」なんて言われたら、誰だってドキドキしちゃうじゃん


その言葉の通りドキドキしている心臓が
バレないように、私個人の気持ちではなく、
女子の総意だと強調するように「誰だって」と
予防線を張る。


そして冗談ぽく笑って付け足した。

あなた
だからそんなに簡単に女子に「かわいい」なんて言っちゃダメだよ。
前にあなたの推しくんだって言ってたでしょ
あなた
もし、私が“勘違い”しちゃったら、どーするの?



それは、あの日──



あなたの推しと電話越しに一緒に朝を迎えた日、
彼が私に言った言葉。







再びあなたの推しと視線が合う。




あなたの推し
あなたのあなたの名字さんは俺の言葉で勘違いなんてしないだろ




感情の読めないあなたの推しの低い声が、
静かに私の鼓膜を揺らす。



























あなたの推し
好きな人、いるくせに








困ったような、怒ったような、苦しそうな、
恨めしそうな、そんな声だった。







私は後悔していた。




好きな人の話をぼかしてあなたの推しにしたこと。



あの時、あなたの推しの誤解を解かなかったこと。





今、「私の好きな人はあなたの推しなんだ」と

言えない原因を作った、過去の自分の行動全てを──。

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