私をじっと見つめるあなたの推しを見てしまって、
私の心臓は制御不能なくらい早く脈を打つ。
なんで、あなたの推しがそんな顔をするの?
それじゃあまるで、あなたの推しが私のこと──
私は頭に浮かんだ妄想を必死に否定する。
私に都合のいい妄想も、
勢いで好きだと言ってしまいそうになったことも、
あなたの推しが驚いたような顔で私を見ているのも
いたたまれなくて、頬にたこ焼きを含んだまま
言い訳を口にした。
もごもごと必死に弁解する私をじっと見つめていた
あなたの推しが、ぷっと吹き出す。
あなたの推しの一言に、今度は私の頬が
ゆでダコのように赤く染まる。
そんな私を見て、あなたの推しはついさっきまで
自分の頬が赤かったことなんて忘れたみたいに、
楽しそうにくすくすと笑った。
私は慌ててたこ焼きを飲み込んだ。
そう言ってあなたの推しは少しムッとした表情で
残りのたこ焼きを口に運んだ。
なにもわかっていなさそうなあなたの推しに、
私は「はあ」とわざとっぽくため息をついた。
その言葉の通りドキドキしている心臓が
バレないように、私個人の気持ちではなく、
女子の総意だと強調するように「誰だって」と
予防線を張る。
そして冗談ぽく笑って付け足した。
それは、あの日──
あなたの推しと電話越しに一緒に朝を迎えた日、
彼が私に言った言葉。
再びあなたの推しと視線が合う。
感情の読めないあなたの推しの低い声が、
静かに私の鼓膜を揺らす。
困ったような、怒ったような、苦しそうな、
恨めしそうな、そんな声だった。
私は後悔していた。
好きな人の話をぼかしてあなたの推しにしたこと。
あの時、あなたの推しの誤解を解かなかったこと。
今、「私の好きな人はあなたの推しなんだ」と
言えない原因を作った、過去の自分の行動全てを──。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。