海岸に小さな町がありました。町にはいろいろな店がありましたが、お宮のある山の下に小さな蝋燭を商っている店がありました。
その家には年よりの夫婦が住んでいました。お爺さんが蝋燭を造って、お婆さんが店で売っていたのであります。この町の人や、また附近の漁師がお宮へお詣りをする時に、この店に立寄って蝋
燭を買って山へ上りました。
山の上には、松の木が生えていました。その中にお宮がありました。海の方から吹いて来る風が、松の梢に当って、昼も夜もごうごうと鳴っています。そして、毎晩のように、そのお宮にあがった蝋燭の火影がちらちらと揺めいていますのが、遠い海の上から望まれたのであります。
ある夜のことでありました。お婆さんはお爺さんに向って、
と、言いました。
と、お爺さんは答えました。
お婆さんは、とぼとぼと家を出かけました。月のいい晩で、昼間のように外は明るかったのであります。お宮へおまいりをして、お婆さんは山を降りて来ますと、石段の下に赤ん坊が泣いていました。
と、お婆さんは、心の中で言って、赤ん坊を取り上げると、
と、言って、家うちへ抱いて帰りました。
お爺さんは、お婆さんの帰るのを待っていますと、お婆さんが赤ん坊を抱いて帰って来ました。そして一部始終をお婆さんはお爺さんに話ますと、
と、お爺さんも申しました。
二人は、その赤ん坊を育てることにしました。その子は女の児であったのであります。そして胴から下の方は、人間の姿でなく、魚の形をしていましたので、お爺さんも、お婆さんも、話に聞いている人魚にちがいないと思いました。
と、お爺さんは、赤ん坊を見て頭を傾けました。
と、お婆さんは言いました。
と、お爺さんも申しました。
その日から、二人は、その女の子を大事に育てました。子供は、大きくなるにつれて黒眼勝な美しい、頭髪の色のツヤツヤとした、おとなしい怜悧な子となりました。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!