第2話

赤い蝋燭と人魚 二
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2020/05/28 08:50
 海岸に小さな町がありました。町にはいろいろな店がありましたが、お宮のある山の下に小さな蝋燭ろうそくを商っている店がありました。

 その家には年よりの夫婦が住んでいました。お爺さんが蝋燭を造って、お婆さんが店で売っていたのであります。この町の人や、また附近の漁師がお宮へおまいりをする時に、この店に立寄って蝋
燭を買って山へ上りました。

 山の上には、松の木が生えていました。その中にお宮がありました。海の方から吹いて来る風が、松の梢に当って、昼も夜もごうごうと鳴っています。そして、毎晩のように、そのお宮にあがった蝋燭の火影がちらちらとゆらめいていますのが、遠い海の上から望まれたのであります。

 ある夜のことでありました。お婆さんはお爺さんに向って、
お婆さん
私達がこうして、暮らしているのもみんな神様のおかげだ。このお山にお宮がなかったら、蝋燭が売れない。私共はありがたいと思わなければなりません。そう思ったついでに、お山へ上ってお詣りをして来ます
と、言いました。
お爺さん
ほんとうに、お前の言うとおりだ。私も毎日、神様を有がたいと心でお礼を申さない日はないが、つい用事にかまけて、たびたびお山へお詣りに行きもしない。いいところへ気が付きなされた。私の分もよくお礼を申して来ておくれ
と、お爺さんは答えました。
 お婆さんは、とぼとぼと家を出かけました。月のいい晩で、昼間のように外は明るかったのであります。お宮へおまいりをして、お婆さんは山を降りて来ますと、石段の下に赤ん坊が泣いていました。
お婆さん
可哀そうに捨児すてごだが、誰がこんな処に捨てたのだろう。それにしても不思議なことは、おまいりの帰りに私の眼にとまるというのは何かの縁だろう。このままに見捨みすてて行っては神様の罰が当る。きっと神様が私達夫婦に子供のないのを知って、お授けになったのだから帰ってお爺さんと相談をして育てましょう
と、お婆さんは、心のうちで言って、赤ん坊を取り上げると、
お婆さん
おお可哀そうに、可哀そうに
と、言って、家うちへ抱いて帰りました。
 お爺さんは、お婆さんの帰るのを待っていますと、お婆さんが赤ん坊を抱いて帰って来ました。そして一部始終をお婆さんはお爺さんにはなしますと、
お爺さん
それは、まさしく神様のお授け子だから、大事にして育てなければ罰が当る
と、お爺さんも申しました。
 二人は、その赤ん坊を育てることにしました。その子は女の児であったのであります。そして胴から下の方は、人間の姿でなく、魚の形をしていましたので、お爺さんも、お婆さんも、話に聞いている人魚にちがいないと思いました。
お爺さん
これは、人間の子じゃあないが……
と、お爺さんは、赤ん坊を見て頭を傾けました。
お婆さん
私もそう思います。しかし人間の子でなくても、なんというやさしい、可愛らしい顔の女の子でありましょう
と、お婆さんは言いました。
お爺さん
いいともんでも構わない、神様のお授けなさった子供だから大事にして育てよう。きっと大きくなったら、怜悧りこうないい子になるにちがいない
と、お爺さんも申しました。
 その日から、二人は、その女の子を大事に育てました。子供は、大きくなるにつれて黒眼勝くろめがちな美しい、頭髪かみのけの色のツヤツヤとした、おとなしい怜悧な子となりました。

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