第21話

静かな休み
846
2020/01/31 15:41
井上 澪晴
1ヶ月で4人?
黒崎 柚
そう。
井上 澪晴
あと7ヶ月かかるじゃん。
黒崎 柚
そうなんだよ、夏休みとか友達じゃないから会うわけないし…
6月最後の土曜日。
特に何の用事も無い俺は大学寮に住む澪晴の部屋に暇だから押しかけていた。
澪晴曰く、龍也さんは講習と自習に行ってて夕方まで帰って来ないとか。
黒崎 柚
俺、友達とかいないから夏休みはただ宿題終わらして玲依とか結依の行きたいところに連れてってやるとかしかやらねぇからな。
井上 澪晴
中3なら何かみんなで受験前の最後の息抜きみたいな感じでキャンプ的なのやったりするんじゃないの?あとみんなでお祭りとか。
黒崎 柚
何でいじめられっ子がクラス仲良くきゃっきゃする場に招待されるんだよ。あるわけないじゃん、既に入院2人に1人は死んだ。
井上 澪晴
無いね。
黒崎 柚
次はどうしよ…1人殺してスグにS狩ったら俺がいじめの仕返しにやってると思われそうだからな…取り敢えずはまたBら辺を実行するよ。
井上 澪晴
それがいいだろうな。報復も大事だけどたまには休み取ろうな?
黒崎 柚
分かってる。
お茶を飲みながら菓子に手を伸ばしたところで机の上に伏せていたスマホが鳴った。
『着信 クソジジイ』
黒崎 柚
……。
井上 澪晴
いやいや、出てあげなよ。
黒崎 柚
チッ………何。
漣 和久
『明日、暇か?』
黒崎 柚
暇だったら?馬鹿にしてんのかよ。
クソジジイとは俺が大嫌いな父親だ。
さざなみ和久かずひさ、世界的に有名なInfinity劇団の演出家。
家の隣にある練習する為のホールにいつもいる。
付け足すとしたら悠翔は主役を目指し、劇団員としてクソジジイに稽古をつけてもらっている。
世界的に有名なことだけあって確かにあの劇団の劇はかなり上手い。あのジジイの才能を見出す目とその才能を伸ばす腕は確かだ。
…ついで話になると、俺はあのジジイなんかいなくても上だと言う証明の為に役者をやっていた。
漣 和久
『少し用事がある。帽子でも何でも被っていいから錬としてついてこい。』
黒崎 柚
その用事の内容で決める。
漣 和久
『午後に俺が少し手を加えた映画のオーディションがある。その審査員の1人として来い。』
黒崎 柚
はぁ?俺、引退してんの知らない?
漣 和久
『知っている。』
黒崎 柚
チッ…承知の上でかよ…。
漣 和久
『そうだ。』
黒崎 柚
うっざ…分かった、行けばいいんだろ行けば。審査員として見てやるよ。でも、つまらない奴らしかいなかったら帰るから。
漣 和久
『正午に千代瀬駅、頼んだぞ。』
切られた電話。
俺は八つ当たりのようにスマホを机に雑に置く。
井上 澪晴
電話帳の名前、クソジジイとか結構凄くない?
黒崎 柚
別に。アイツ呼ぶ時、いつもクソジジイって呼んでるし。
井上 澪晴
それでどんな用事なの?
黒崎 柚
何か映画のオーディションで審査員やれって。映画って大体エキストラだから下手な奴らばっかで嫌なんだよな…登場人物の気持ちを台本から読み取る国語力付けてから参加しろって毎回思う。
井上 澪晴
柚稀が飛び抜けてるだけで実際はそんな程度じゃない?
黒崎 柚
さぁな。
井上 澪晴
まぁ、話は戻るけど取り敢えずはBら辺を潰して様子見が安全。柚稀だし失敗することは無いと思うけど、一応気を付けて続けろよ。
黒崎 柚
ああ、分かってる。




















家に帰るとリビングの机の上に『柚稀』と書かれた付箋が貼ってある紙の束と薄い本みたいな物が置いてあった。


んだこれ…


俺は付箋を外して紙をパラパラとめくっていく。
黒崎 柚
へぇ…頼むって言ってたのは本気か…
置いてあるのは台本。
アイツが手を加えた映画だろう。
紙の束はオーディション参加者についての情報や過去の経歴が書いてある申込用紙のコピーだった。
漣 悠翔
おかえり。
悠翔がリビングに入って来るなり、俺が持っていた台本と申込用紙のコピーを見てから台所に向かう。
漣 悠翔
それ、さっき父さんから聞いたよ。
黒崎 柚
半ば強制的な部分もあるけどな。まぁたまにはいいだろ。
漣 悠翔
頑張ってね。
黒崎 柚
勿論。じゃ、読んでくる。
漣 悠翔
うん。
自分の部屋に入るとスグに台本を手にした。
それを何も考えずに読み進めて行く。
黒崎 柚
……。
見た限りだとホラー映画らしい。
主演キャストも俺も聞いたことある今流行りの掛け持ち役者、高坂隼樹と夕凪朱璃。
あとは無名役者かエキストラ。
今流行りの2人を使いながらその2人以外の人がキーマンだから見る側は驚くだろう。
まぁ、クソジジイらしい考え方だな。
最後まで客を楽しませる為には努力している。
それはちゃんと俺も認めていた。
黒崎 柚
……まっ、内容としてはいいか…。
オーディションの参加者に目を通す。
すると、その中にあった1人の名前を見て、俺の口元は三日月の形に変わった。

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