6月最後の土曜日。
特に何の用事も無い俺は大学寮に住む澪晴の部屋に暇だから押しかけていた。
澪晴曰く、龍也さんは講習と自習に行ってて夕方まで帰って来ないとか。
お茶を飲みながら菓子に手を伸ばしたところで机の上に伏せていたスマホが鳴った。
『着信 クソジジイ』
クソジジイとは俺が大嫌いな父親だ。
漣和久、世界的に有名なInfinity劇団の演出家。
家の隣にある練習する為のホールにいつもいる。
付け足すとしたら悠翔は主役を目指し、劇団員としてクソジジイに稽古をつけてもらっている。
世界的に有名なことだけあって確かにあの劇団の劇はかなり上手い。あのジジイの才能を見出す目とその才能を伸ばす腕は確かだ。
…ついで話になると、俺はあのジジイなんかいなくても上だと言う証明の為に役者をやっていた。
切られた電話。
俺は八つ当たりのようにスマホを机に雑に置く。
家に帰るとリビングの机の上に『柚稀』と書かれた付箋が貼ってある紙の束と薄い本みたいな物が置いてあった。
んだこれ…
俺は付箋を外して紙をパラパラとめくっていく。
置いてあるのは台本。
アイツが手を加えた映画だろう。
紙の束はオーディション参加者についての情報や過去の経歴が書いてある申込用紙のコピーだった。
悠翔がリビングに入って来るなり、俺が持っていた台本と申込用紙のコピーを見てから台所に向かう。
自分の部屋に入るとスグに台本を手にした。
それを何も考えずに読み進めて行く。
見た限りだとホラー映画らしい。
主演キャストも俺も聞いたことある今流行りの掛け持ち役者、高坂隼樹と夕凪朱璃。
あとは無名役者かエキストラ。
今流行りの2人を使いながらその2人以外の人がキーマンだから見る側は驚くだろう。
まぁ、クソジジイらしい考え方だな。
最後まで客を楽しませる為には努力している。
それはちゃんと俺も認めていた。
オーディションの参加者に目を通す。
すると、その中にあった1人の名前を見て、俺の口元は三日月の形に変わった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。