間を作らず俺はそう聞いた。
分かりきった質問だが、普通ならこうなる。
確かに澪晴からの連絡には全部大丈夫とか問題ないとかそんな心配しないでとか…とにかく辛くないと返信し続けた記憶がある。
澪晴が喧嘩なんて…
言葉が出なかった。
何でそんなことを言われなきゃいけなかったのか。
俺は何もしてない…ただ学校に行って椅子に座って皆と同じ授業を受けているだけだった…
それにるーはそんな取り巻きじゃ…
心を抉るのに十分な言葉だった。
澪晴が手を出す程にキレたのも分かる。
俺を知っている澪晴だからこそ、それが単なる想像で適当な発言だって分かっていたのだろう。
龍弥さんの見た目ならまぁ虐めに行くような奴はいないだろうけど…俺のせいで……
時計を見てだいぶ時間が経っていたことを確認すると俺は頭を下げて急いで理科室を後にした。
教室に戻るなり余っ程深刻そうな表情をしていたのか朔が心配そうに声をかけてくる。
無理をするも何も現実ってだけで回避出来ない。
澪晴が虐められたことは事実だし、その原因が俺の存在であることも事実だ。
それだけで十分俺としては罪悪感に溺れる。
澪晴が高校時代の話をしたがらない理由が分かったような気がする。こうなるからだ。
その日の放課後、契約通り旧校舎で虎雅の勉強を見ていたのだが、ずっと虐めのことが頭から離れなくて、虎雅も龍弥さんを通して何か聞いていることがないかと思い、そんな話を振ってみる。
予想してた通りの答えだった。
今の龍弥さんの見た目は中学から…
てか、確か澪晴もピアスを開けてたよな…その仲のいい同級生って澪晴だろ…
龍弥さんも高校の話をしない。
澪晴の高校時代を聞こうと思ったらやっぱり百鬼先生に聞く他無いらしい。
さっき少し聞いた今思うのはあれだけど、正直百鬼先生は信憑性はあるが、何処か信頼性に欠ける。
果たしてこのまま聞き続けて大丈夫なのだろうか。
何気なく澪晴とあったことや錬と俺の名字が同じことから俺の事を探ったりしないかが心配で堪らない。
いや、先生ならもう俺のことは伝えられてるのか?
学校には錬だと言うことは伝えてないけど、家族関係は嫌でも提出しないと駄目だったから…
急に頭の中をグルグルと不安が巡る。
何となくあの先生にはあまり知られたくない。
一旦、考え事を頭の隅に置いて虎雅のノートを見る。
契約したのにこの態度は少し酷いと思い、反省して真面目に向き合う。
気持ち悪いものを見るような目で俺を見た虎雅はリュックに手を突っ込むと何かを投げつけてくる。
虎雅から貰った慰め?のチョコを口に放り込むと、俺はノートへと目にやった。
幸せって何だろう、そんな解消されない疑問は報復と共に常に頭にある。
色々とどうにかしないと…
原因を断ち切るなんて言いそう、なんて思っていた。
だが、虎雅から出たのは意外な言葉。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!