第94話

負の存在
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2022/04/25 16:12
黒崎 柚
えっ、井上先生って黒崎錬の幼馴染だったんですか?
間を作らず俺はそう聞いた。
分かりきった質問だが、普通ならこうなる。
百鬼 彪
はい。彼はテレビに出続ける黒崎君のことをとても気にしていました。でも、高校や部活で忙しく会いに行くのは難しかったらしいです。連絡をしても大丈夫の一点張りだったとか。
確かに澪晴からの連絡には全部大丈夫とか問題ないとかそんな心配しないでとか…とにかく辛くないと返信し続けた記憶がある。
百鬼 彪
お姉さんのストーカーの件についても気にしていましたが、それよりも黒崎君の方が心配だったそうです。
黒崎 柚
……。
百鬼 彪
問題児で有名な彼ですが、明るい性格もあり友達は多かったです。とある一件までは。
黒崎 柚
…何ですか?
百鬼 彪
彼が起こした暴力事件です。喧嘩相手と仲裁に入った2人を病院送りにして1週間の停学処分になりました。
澪晴が喧嘩なんて…
黒崎 柚
理由…理由は何です?井上先生って絶対に単なる喧嘩で人に暴力とか振るわなそうじゃないですか。
百鬼 彪
その通り、彼は簡単に力を使いません。ですが、そこに大切な人が関わると立場を問わずに力を使います。あの場合、喧嘩相手は彼を嫌っていました。そして、喧嘩相手が言った“黒崎錬はテレビで良い顔してるだけで実際は学校で威張ったり意地悪したから虐められたんじゃないか。で、神童信者はそんな奴を庇い巻き込まれて飛び降りたと。”…で、彼は本気でキレて大乱闘でした。
黒崎 柚
……。
言葉が出なかった。
何でそんなことを言われなきゃいけなかったのか。


俺は何もしてない…ただ学校に行って椅子に座って皆と同じ授業を受けているだけだった…
それにるーはそんな取り巻きじゃ…
心を抉るのに十分な言葉だった。
澪晴が手を出す程にキレたのも分かる。
俺を知っている澪晴だからこそ、それが単なる想像で適当な発言だって分かっていたのだろう。
黒崎 柚
…その後、どうなったんですか。
百鬼 彪
その行動から神童信者と呼ばれて笑いものにされた挙句、虐められました。ですが、彼は全く動じませんでしたし、逆にそう笑う人を表面しか見えない哀れな奴らと馬鹿にしてましたよ。
黒崎 柚
そうですか…先生が虐めに…
百鬼 彪
彼の友達は彼を信じていたので一人ではありませんでした。その友達は両方インパクトのある方だったので虐められることはなかったですね。
龍弥さんの見た目ならまぁ虐めに行くような奴はいないだろうけど…俺のせいで……
百鬼 彪
どうしました?
黒崎 柚
…ただ驚いているだけです。虐められるまで庇うとか、どうして先生はそこまでやったんでしょうね。
百鬼 彪
それは僕にも分かりません。まぁ表向きな彼の高校生活はこんな感じですね。
黒崎 柚
裏は?
百鬼 彪
おっ、聞きたいですか?
黒崎 柚
はい。
百鬼 彪
すぐに話したいところですが、給食の時間もありますしまた今度ですね。時間のある時にまた声をかけてください。
黒崎 柚
え?あ、ほんとだ…取り敢えず、今日はありがとうございました。
時計を見てだいぶ時間が経っていたことを確認すると俺は頭を下げて急いで理科室を後にした。
教室に戻るなり余っ程深刻そうな表情をしていたのか朔が心配そうに声をかけてくる。
天喰 朔
あ、あの…大丈夫ですか?
黒崎 柚
はい?
天喰 朔
いや、凄い大変なことが起きたような表情をしているもので…
黒崎 柚
あぁ、大丈夫。そんな朔が気にするようなことじゃないから。
天喰 朔
僕が気にしなくていいってことは何かあったんですよね?
黒崎 柚
鋭っ…僕の問題だから大丈夫。
天喰 朔
無理はしないでくださいよ?
黒崎 柚
うん…
無理をするも何も現実ってだけで回避出来ない。
澪晴が虐められたことは事実だし、その原因が俺の存在であることも事実だ。
それだけで十分俺としては罪悪感に溺れる。
澪晴が高校時代の話をしたがらない理由が分かったような気がする。こうなるからだ。















黒崎 柚
…虎雅。
九鬼 虎雅
あ?
黒崎 柚
虎雅のお兄さんってどんな人?
その日の放課後、契約通り旧校舎で虎雅の勉強を見ていたのだが、ずっと虐めのことが頭から離れなくて、虎雅も龍弥さんを通して何か聞いていることがないかと思い、そんな話を振ってみる。
九鬼 虎雅
いきなり何だよ。
黒崎 柚
何となく。玲苑には会ったからさ。お兄さんはどんな人なんだろうって。
九鬼 虎雅
単なる興味心か…まぁ兄貴は俺や玲苑と違って、クソ真面目。つっても昔は荒れてたけどな。
予想してた通りの答えだった。
黒崎 柚
昔は荒れてたんだ?
九鬼 虎雅
ああ、中学でバリバリ金髪にして、仲のいい同級生と一緒にピアス開けてたし。
黒崎 柚
わぁ…
今の龍弥さんの見た目は中学から…
てか、確か澪晴もピアスを開けてたよな…その仲のいい同級生って澪晴だろ…
九鬼 虎雅
…まっ、高校入学と同時に心境変化で見た目だけが荒れたままの奴になって生徒会長やら何やら真面目だったとか。高校のことはそれくらいしか知らないな。兄貴、高校の話とかあまりしなかったし。
黒崎 柚
……。
龍弥さんも高校の話をしない。
澪晴の高校時代を聞こうと思ったらやっぱり百鬼先生に聞く他無いらしい。

さっき少し聞いた今思うのはあれだけど、正直百鬼先生は信憑性はあるが、何処か信頼性に欠ける。
果たしてこのまま聞き続けて大丈夫なのだろうか。
何気なく澪晴とあったことや錬と俺の名字が同じことから俺の事を探ったりしないかが心配で堪らない。


いや、先生ならもう俺のことは伝えられてるのか?
学校には錬だと言うことは伝えてないけど、家族関係は嫌でも提出しないと駄目だったから…


急に頭の中をグルグルと不安が巡る。
何となくあの先生にはあまり知られたくない。
九鬼 虎雅
…おい、柚テメェ。いつまで考え事してんだよ。
黒崎 柚
え?あ、あぁ、ごめん…
九鬼 虎雅
ここ。
黒崎 柚
えっと…
一旦、考え事を頭の隅に置いて虎雅のノートを見る。
契約したのにこの態度は少し酷いと思い、反省して真面目に向き合う。
黒崎 柚
…何か、本当にごめん。
九鬼 虎雅
は?遂に頭イカれたか?怖ぇよ。
黒崎 柚
いや…虎雅、珍しく真面目にテストをやろうとして契約結んだのに、考え事ばっかしてるから申し訳なくて。
九鬼 虎雅
……。
気持ち悪いものを見るような目で俺を見た虎雅はリュックに手を突っ込むと何かを投げつけてくる。
九鬼 虎雅
それやるからいつも通りに戻ってくれ。妙に気使われるのは凄ぇやりにくい。
黒崎 柚
何もそんな目で見なくても…
九鬼 虎雅
悩むのも大事だとは思うが、そればっかだと今度は氷翠が悩むぞ。次ここ。
黒崎 柚
……頑張る。
虎雅から貰った慰め?のチョコを口に放り込むと、俺はノートへと目にやった。
幸せって何だろう、そんな解消されない疑問は報復と共に常に頭にある。
色々とどうにかしないと…
黒崎 柚
何となくの質問なんだけどさ、虎雅はD組の呪いにかかったらどうする?
原因を断ち切るなんて言いそう、なんて思っていた。
だが、虎雅から出たのは意外な言葉。
九鬼 虎雅
運命に従うのみだ。

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