第6話

不登校へ
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2020/01/31 14:45
目が覚めるとそこは保健室だった。
どうやら気を失ってしまったようだ。
今が何時か確認しようと、カーテンに手を伸ばすが誰かの話し声が聞こえて来て、俺は自然と伸ばした手を引っ込める。
黒崎 柚
……。
この声は……駿と氷翠かな…。
笹倉 氷翠
どうしましょうか…
相澤 駿
本人がいじめられているって言うのが一番良いんだけど、柚は正直仲良い人とかの印象が無いから説得や相談とかもやらなそうだし…
笹倉 氷翠
でも、あれは確実に遠山さんが叩いてますよ。彼女の掌も少し赤くなっていました。
相澤 駿
そんなことがクラスで起きてたってことに気付けなかった自分を恥じるよ…
笹倉 氷翠
御家族の方は知っていますかね?
相澤 駿
そういや、柚の家族って聞いたことも見たこともないな?授業参観とかにも来たことないし。
笹倉 氷翠
まぁ、それ程忙しい方だと考えると知らないのが普通ですかね…黒崎さん、誰にも相談して無さそうなので…
相澤 駿
マジで何でも一人で抱え込もうとするのやめて欲しいよ。体育祭の準備さ、最終下校時間ギリギリになってもずっと一人でクラスの横断幕を描いてるの見て、聞いたんだよ。何でこんな遅くに一人でやってるのか。
笹倉 氷翠
何と言ったんですか?
相澤 駿
「みんなが勝てるように凄いのを完成させないと。」って言われた。手伝おうかって言っても大丈夫だけ。で、次の日になったらその成果は全部目立ってた女子になってて、柚がやったって言おうとしたら、本人に止められた。
笹倉 氷翠
まず、みんな"が"って言ってる時点で黒崎さん本人は自分が外れてるって思ってますね…そもそも、それってただ仕事を押し付けられてただけじゃないですか。確かにあの横断幕は良い評価を貰っていましたけど…
相澤 駿
全部、柚の作品だな。あの時、帰る訳にも行かなかったから最終下校時刻まで描いてるとこ見てたけど、スラスラと描いてあれは本当に凄かった。
そんなこともあったな…
去年の秋に体育祭の準備が終わって、こっちは早く帰ってみんなの晩飯を作らなきゃいけないってのに、お披露目一日前の真っ白横断幕を愛梨みたいな奴らに全部押し付けられたっていう…


で、部活終わりの駿が何かの忘れ物取りに来て教室でこっそり終わらそうとしてたの見つかって…


まぁ、時間かけた分良いのは出来たと思う。
どうでもよくて、すっかり忘れてた…
笹倉 氷翠
それは素晴らしいですね。…さて、話は戻りますが結論としては黒崎さん本人が言いに来るまでは待つ、でいいのですか?
相澤 駿
ああ、愛梨達にはもちろん注意する。いじめがあるからってそれを無理に柚に話させるのはよくない。俺達も俺達でそういうことがないかをさらにちゃんと見るようにしよう。
笹倉 氷翠
ええ…分かりました。
すると、足音がこっちに近付いて来たので、静かに急いで俺は横になり寝たふりをした。
シャッとカーテンが開く音がしたと思うと、冷たい手が俺の手を包み込み、暖かい手が俺の頭の上に乗せられた。
笹倉 氷翠
起きているかは分かりませんが、一応起きてた時のために言います。もし、話せる時になったら私でも相澤君でも誰でもいいので相談してください。私達は黒崎さんの味方です。
相澤 駿
そうだぞ。いじめがクラスにあったことに気付けなかったのは本当に申し訳ないよ…他にもあるんだったら落ち着いた時とかでいいから来てくれ。いつでも聞くからさ。
そう言うと、2人の足音は遠くなり、ドアが開く音と共に聞こえなくなった。
念のためにと少し待ってからゆっくりと起き上がりカーテンを開けると、俺の荷物が置いてある。
時計を見ると、もう放課後だ。
黒崎 柚
味方、か…
氷翠に握られた手を見て、駿が触った頭にもう片方の手を置く。
これがもし、もう少し早ければ…あの日よりも前だったらきっと俺は…………でも、遅い。
黒崎 柚
一度決めたらやるのが俺だ…。
ベッドから降りて、荷物を取る。
すると、1枚のメモが床に落ちた。
そこには2人の電話番号とメアドが書いてある。
携帯の番号、全部消えたからかな…
黒崎 柚
……Dで良かった…あの2人は何も悪くないんだ…あの2人だけは…。
そう何回も呟き、大丈夫だと。問題は無いと。報復は失敗しないと。と、自分に言い聞かせる。
もう明日からしばらくはここに来ることはない。
どのくらいだろう、最短でも6月くらいまではじっくりと失敗して警察にお世話になることがないように計画を練るか。
絶対に悠翔とお母さんの仕事の邪魔だけはしない。
それに結依と玲依にも迷惑をかけない。
黒崎 柚
あのことを思い出したくらいでぶっ倒れてんじゃねぇよ俺…お前は世間から認められた奴だろ…
荷物を手に取ると、俺はまたあまり体調が良くないのか、重い足取りのまま家に向かったのだった。

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