目が覚めるとそこは保健室だった。
どうやら気を失ってしまったようだ。
今が何時か確認しようと、カーテンに手を伸ばすが誰かの話し声が聞こえて来て、俺は自然と伸ばした手を引っ込める。
この声は……駿と氷翠かな…。
そんなこともあったな…
去年の秋に体育祭の準備が終わって、こっちは早く帰ってみんなの晩飯を作らなきゃいけないってのに、お披露目一日前の真っ白横断幕を愛梨みたいな奴らに全部押し付けられたっていう…
で、部活終わりの駿が何かの忘れ物取りに来て教室でこっそり終わらそうとしてたの見つかって…
まぁ、時間かけた分良いのは出来たと思う。
どうでもよくて、すっかり忘れてた…
すると、足音がこっちに近付いて来たので、静かに急いで俺は横になり寝たふりをした。
シャッとカーテンが開く音がしたと思うと、冷たい手が俺の手を包み込み、暖かい手が俺の頭の上に乗せられた。
そう言うと、2人の足音は遠くなり、ドアが開く音と共に聞こえなくなった。
念のためにと少し待ってからゆっくりと起き上がりカーテンを開けると、俺の荷物が置いてある。
時計を見ると、もう放課後だ。
氷翠に握られた手を見て、駿が触った頭にもう片方の手を置く。
これがもし、もう少し早ければ…あの日よりも前だったらきっと俺は…………でも、遅い。
ベッドから降りて、荷物を取る。
すると、1枚のメモが床に落ちた。
そこには2人の電話番号とメアドが書いてある。
携帯の番号、全部消えたからかな…
そう何回も呟き、大丈夫だと。問題は無いと。報復は失敗しないと。と、自分に言い聞かせる。
もう明日からしばらくはここに来ることはない。
どのくらいだろう、最短でも6月くらいまではじっくりと失敗して警察にお世話になることがないように計画を練るか。
絶対に悠翔とお母さんの仕事の邪魔だけはしない。
それに結依と玲依にも迷惑をかけない。
荷物を手に取ると、俺はまたあまり体調が良くないのか、重い足取りのまま家に向かったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。