第65話

夏休みの仕込み
590
2020/05/10 11:00
途中式はめんどくさいから暗算で答えだけを導き、書いていく。
テストの時間は60分設けられたが、特に難しくないし、途中式も抜かしたから最後まで解くのにかかったのは10分程だった。

立ち上がり、テストを片手に前へ。
黒崎 柚
終わりました。
百鬼 彪
おっ、早いですね。難し過ぎました?
黒崎 柚
いえ、別に何とも……夏休みの宿題を進めても良いですか?
百鬼 彪
どうぞ。
俺は席に戻ると両手の指先同士を合わせて深呼吸。
自分の周りには壁がある、みんなのことは見えるけど音は全く聞こえない、無音の空間。
舞台でセットにないものを観客にあると認識させるように俺も自分自身に言い聞かせて演じればあるはずのない壁も現実となる。

さっきまで聞こえていたシャーペンの音はもう今では聞こえない。誰にも邪魔されない。
本気出してさっさと終わらすか…
黒崎 柚
よしっ……
そう小さく呟くと、俺は積まれた宿題に手を伸ばしてどんどん解き進めたのだった。

























天喰 朔
えっ、あの量だったのにあと漢字と数学だけなんですか?
黒崎 柚
本気で頑張ったから。あの時間で終わる予定だったけど理科が多過ぎて意外と時間かかったんだよね…
天喰 朔
それでもかなり終わってるので羨ましいです。
漣 結依
柚姉!これがいい!
漣 玲依
俺これ!
黒崎 柚
はいはい…
1日目の勉強が終わり残った宿題の続きをしようと俺は部屋に戻ったが、結依達に寝る前の飲み物をせがまれ、自動販売機に来ていた。

自動販売機には俺と結依達、朔しかいない。
多分、他の人達は道場で騒いでいるのだろう。
黒崎 柚
…あ、そうだ。明日の夜、話したいから部屋来て。
天喰 朔
了解です。何時頃にお伺いしたらいいでしょうか?
黒崎 柚
入浴時間の後なら朔の好きな時で。部屋にいるから。
天喰 朔
分かりました。
漣 玲依
えいっ!
黒崎 柚
あっ!こら、玲依!
朔がお金を入れて何を飲むかと悩んでいると、見ていた玲依が手を伸ばして勝手にボタンを押した。
駄目だよ、と結依が慌てて引っ張るももう遅く取り出し口にゴトンと飲み物が落ちる音がする。
漣 結依
柚姉が人に迷惑をかけないようにって言ってたじゃん!
漣 玲依
悩んでたから選んであげようとー
黒崎 柚
本っ当にごめん、払う。
天喰 朔
いえいえ、問題無いですよ。丁度飲みたいと思っていたので。押してくれてありがとうございます。
朔は取り出し口から飲み物を取りながら微笑んだが、どう考えても夜に珈琲 ──しかも、ブラック── を飲むはずがない。
黒崎 柚
こんな時間にブラック飲む人見たことないけど…
天喰 朔
じゃあ、僕が初めてですね。
返事が優し過ぎてもう何も言えない。
天喰 朔
それでは、また明日。
漣 結依
お兄さん、おやすみなさい!
漣 玲依
おやすみ!
天喰 朔
おやすみなさい。
手を挙げる結依達とハイタッチをして、朔は珈琲を持っていなくなった。
漣 玲依
部屋戻ろ!
黒崎 柚
ああ…てか、ほんと頼むって……
今の相手が朔じゃなかったらかなり危ない。
虎雅とか殺される気しかしないし、愛梨だと玲依がいじめられる可能性が出てくる。


いきなり過ぎて対応が追いつかない…


部屋に戻ると、結依と玲依はキャリーバッグから俺が射的で獲ってきたゲームを出してきてテレビに繋いで遊び始めた。
ゲームをしてるなら、俺は部屋から出ないように見ているだけでいい。

読む予定だった本を結依達の横で読み進めて数十分が経った頃、宿題の存在を思い出した。
黒崎 柚
あ、宿題…いや、先に次の報復の準備…
宿題と一緒に置いてあるスマホを手に取り、覚えていた番号を打ち込むとすぐに電話は繋がった。
黒崎 柚
もしもし。
石舘 瑛士
『あー…そうだった。』
黒崎 柚
楽しんでいるところ悪いけど、ちょっとやって欲しいことがある。
石舘 瑛士
『何?』
この合宿中はやらないが、夏休み中はやりたい。
報復を夏休みにする為にはみんなが何処に行くのかを知る必要があった。
…と言っても、滅多に話しかけに行かない俺が夏休みの予定何?なんて聞くのは不審がられる。
黒崎 柚
クラスの人達に夏休み中、いつ何処に行くのかの予定を聞いて。
だから、俺に絶対服従を誓った瑛士に頼むことに。
瑛士なら普通に周りに聞いても怪しまれない。
石舘 瑛士
『夏休みもする気なのか?』
黒崎 柚
そうしないとバレる。
石舘 瑛士
『まぁ、絶対服従で今を生きてるからやるけど…』
黒崎 柚
頼んだ。通話履歴は消去しといて。
石舘 瑛士
『おう。』
もう絶対服従に対する反感に諦めがついたのか瑛士の声に怒りや怯えといったものはなかった。

これでみんなの予定が分かる。
そしたらあとは宿題を終わらせて、まぁ1人で報復の旅行でも行こう。
夏休み中に4、5人くらいはやっときたい。
黒崎 柚
結依、玲依。そろそろ寝る時間だからゲーム片付け……って、寝てるし…
玲依はソファーの上で寝落ち、その横にいる結依は寝てはいないもののウトウトしてて画面上のキャラクターがあちこちにぶつかりまくっている。

ゲームを一時停止にして結依にベッドで寝るように言うと無言で頷きベッドへ。
俺は玲依を空いている方のベッドに寝かせると宿題を持って部屋の電気を消し、部屋を出たのだった。

プリ小説オーディオドラマ