途中式はめんどくさいから暗算で答えだけを導き、書いていく。
テストの時間は60分設けられたが、特に難しくないし、途中式も抜かしたから最後まで解くのにかかったのは10分程だった。
立ち上がり、テストを片手に前へ。
俺は席に戻ると両手の指先同士を合わせて深呼吸。
自分の周りには壁がある、みんなのことは見えるけど音は全く聞こえない、無音の空間。
舞台でセットにないものを観客にあると認識させるように俺も自分自身に言い聞かせて演じればあるはずのない壁も現実となる。
さっきまで聞こえていたシャーペンの音はもう今では聞こえない。誰にも邪魔されない。
本気出してさっさと終わらすか…
そう小さく呟くと、俺は積まれた宿題に手を伸ばしてどんどん解き進めたのだった。
1日目の勉強が終わり残った宿題の続きをしようと俺は部屋に戻ったが、結依達に寝る前の飲み物をせがまれ、自動販売機に来ていた。
自動販売機には俺と結依達、朔しかいない。
多分、他の人達は道場で騒いでいるのだろう。
朔がお金を入れて何を飲むかと悩んでいると、見ていた玲依が手を伸ばして勝手にボタンを押した。
駄目だよ、と結依が慌てて引っ張るももう遅く取り出し口にゴトンと飲み物が落ちる音がする。
朔は取り出し口から飲み物を取りながら微笑んだが、どう考えても夜に珈琲 ──しかも、ブラック── を飲むはずがない。
返事が優し過ぎてもう何も言えない。
手を挙げる結依達とハイタッチをして、朔は珈琲を持っていなくなった。
今の相手が朔じゃなかったらかなり危ない。
虎雅とか殺される気しかしないし、愛梨だと玲依がいじめられる可能性が出てくる。
いきなり過ぎて対応が追いつかない…
部屋に戻ると、結依と玲依はキャリーバッグから俺が射的で獲ってきたゲームを出してきてテレビに繋いで遊び始めた。
ゲームをしてるなら、俺は部屋から出ないように見ているだけでいい。
読む予定だった本を結依達の横で読み進めて数十分が経った頃、宿題の存在を思い出した。
宿題と一緒に置いてあるスマホを手に取り、覚えていた番号を打ち込むとすぐに電話は繋がった。
この合宿中はやらないが、夏休み中はやりたい。
報復を夏休みにする為にはみんなが何処に行くのかを知る必要があった。
…と言っても、滅多に話しかけに行かない俺が夏休みの予定何?なんて聞くのは不審がられる。
だから、俺に絶対服従を誓った瑛士に頼むことに。
瑛士なら普通に周りに聞いても怪しまれない。
もう絶対服従に対する反感に諦めがついたのか瑛士の声に怒りや怯えといったものはなかった。
これでみんなの予定が分かる。
そしたらあとは宿題を終わらせて、まぁ1人で報復の旅行でも行こう。
夏休み中に4、5人くらいはやっときたい。
玲依はソファーの上で寝落ち、その横にいる結依は寝てはいないもののウトウトしてて画面上のキャラクターがあちこちにぶつかりまくっている。
ゲームを一時停止にして結依にベッドで寝るように言うと無言で頷きベッドへ。
俺は玲依を空いている方のベッドに寝かせると宿題を持って部屋の電気を消し、部屋を出たのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。