第25話

五人目 変化
801
2019/12/23 10:38
黒崎 柚
はぁ…
階段に足を投げ、屋上の扉によっかかり呟く。
ここなら誰も来ないだろう。
バッドエンドな俺の人生。
みんなから愛された姿は全て演じた姿。
友達がいても信じて貰えない。
そして、終いは参考にさせて!かよ…
黒崎 柚
俺か〜…僕か〜…私か〜……うわっ!
背中を支える物が無くなり、俺は後ろに倒れる。
ガンッという音と一緒に頭を打ち付ける。
青空と一緒に誰かの影が見えた。


「何やってんの…」と引かれ気味に言われて、俺は空を見たままその影を知っている人物に当てはめると返事を返す。
黒崎 柚
いきなり扉開けたせいで背中支える物が無くなってこうなったんだ、睦希。
篠原 睦希
そ、そう…
笑い声と共にカシャッと音が鳴る。
黒崎 柚
睦希なら一緒にいるのは虎雅?変な写真を撮らないでよ。
九鬼 虎雅
面白いからいいだろ。
黒崎 柚
…2人とも何してたの。
どうせこんなことを言ったところで虎雅が写真を消してくれないのは分かっている。
篠原 睦希
普通に暇だったから。
九鬼 虎雅
お前こそ何やってんだよ。屋上に頭をぶつけに来たのか?
黒崎 柚
それはない。なんて知歌に教えたらいいのかなぁって。
九鬼 虎雅
知歌?
黒崎 柚
劇でいじめられる役するらしくてさ。いじめられたことないからどんな風にすればいいのか僕に教えてくれと。しかも、劇はハッピーエンド。
九鬼 虎雅
あー、ハッピーエンドの話ならお前には無理だな。
篠原 睦希
何で?
普段、俺と話さないから何も知らない睦希が不思議そうに首を傾げる。
黒崎 柚
僕、小学校時代がバッドエンドで終幕したんだ。ハッピーエンドになりそうだったけど、どんでん返しでのバッドエンド。
無能な自分が情けなくて笑えてくる。
そんな気持ちを抑えるように俺は瞼を閉じた。


あのまま、もしるーと小学校を卒業出来たなら、いじめを受けていたとしても周りから馬鹿にされても俺はハッピーエンドと言えた。
でも、結果は何も知らなかったせいでるーが追い詰められて自殺に走ったバッドエンド。
黒崎 柚
僕には何も救えない、救う権利さえも無い。誰かの為に犠牲になることも出来ないし、誰も僕を必要としない。
篠原 睦希
…それは違うだろ?
黒崎 柚
どうして?
驚く答えに俺は起き上がって睦希を見る。
今の言葉の何処か間違っているのか分からない。
黒崎 柚
僕は誰を救える?誰の為に犠牲になることが出来る?誰が僕のことを必要としている?
篠原 睦希
そこまでは分からないけど…多分、柚は柚でしっかりと自分がいて、きっと学校が違うだけで普通に友達もいるんじゃないか?それに家族だっているはずだし、誰かしらは柚を必要としてると思うけど…
黒崎 柚
……。
意外だ、まさかAランクの奴の口からそんなことが聞けるとは思わなかった。
他の奴らは友達がいるって言ったら笑うのに…
笑うどころか普通に学校が違うだけじゃないのか、って言ってくるなんてな…
黒崎 柚
…同じクラスの人にそんなこと言われるなんて思わなかった。教室の奴らは友達がいるって言っただけで笑われたよ。修哉にいたっては見たことないくせに友達を馬鹿にされた。
篠原 睦希
見たことないのは酷い。
黒崎 柚
でしょ?どうせこれが愛梨とか虎雅だったらみんな何も言わない。
九鬼 虎雅
まぁ、友達そんなにいないけどな。
黒崎 柚
え、ヤンキー友達いないの?
九鬼 虎雅
お前、俺を何だと思ってんだよ。
暴力ヤンキーって言いたくなるがそんなことで殴られるのはごめんだと思い、曖昧な表情で返す。
そんな俺を見て呆れたような表情を浮かべるが、とくに怒った様子は無かった。
篠原 睦希
虎雅の家って確かあれだろ?里子がいるんだったよな?
九鬼 虎雅
ああ。
話が前に龍弥さんが言っていたことになり、俺の心は小さくガッツポーズを決めていた。
篠原 睦希
名前は〜…玲苑?
九鬼 虎雅
そう、玲苑。同い年だ。
黒崎 柚
へぇ…今度、僕にも会わせてよ。
冗談でそんなことを言ってみる。
僕のお願いを聞いてくれるのは何か虎雅のお願いを叶えると約束した時だけだから無理なのは…
九鬼 虎雅
分かった、話しとく。
黒崎 柚
だよねー………ん?えっ、いいの?
虎雅がすんなりと了承をくれると逆に何か怖い。
篠原 睦希
珍しいじゃん、虎雅が人のお願いを聞くとか。
九鬼 虎雅
玲苑の彼女の性格が俺とかアイツと遊ぶだけあってまぁ、他の女子とは喧嘩ばかりで馴染めないらしくてな。
黒崎 柚
友達に僕がなれと?
九鬼 虎雅
何だ、話が早いじゃねーか。別に同じような立場にいる柚なら友達になれるだろ。性格は荒れてるけど、人間としては普通に良い奴なんだ。
虎雅がそこまで言うのか…
黒崎 柚
…ちょっと気になるかも。
九鬼 虎雅
なら、決定。
そう言って虎雅が階段を降りようとした時、後ろからついて行こうとしていた睦希が立ち止まって振り返り、俺を見た。
篠原 睦希
あのさ、柚。
黒崎 柚
何?
篠原 睦希
その知歌のなんだけど…
言うか言わないかを迷う様子を見せる睦希。
少し悩んだ末、睦希は顔を上げた。
篠原 睦希
別に違うなら違うってハッキリ言っていいと思う。そういう事を聞くのはいくら役作りだとしても人として最低だと俺は思うから。
黒崎 柚
…ありがと。
九鬼 虎雅
ついでに、アイツらに会うまでに誰かに襲われてお陀仏とかやめてくれよ?このクラス、呪われてるみてーだし。
今度こそ2人がいなくなって1人になる。
閉まった屋上の扉にもたれて、無意識にポケットに入っているスマホを握り締めた。
別に違うなら違うって言っていい、か…
クラスの異変に気がついて、物事に対する考え方が変わった?みんなが口にしないだけで絶対にクラスが変なことはみんな気付いているはず…
何とも言えないモヤッとした感情に溜息を零す。
相変わらず、このモヤが気持ち悪い。
睦希は前まであんなことを言う奴では無かった。
冷たい目で俺の悪口を言うような奴。
今もこの瞬間、虎雅と言ってる可能性もあるが、少なくとも俺に対してさっきみたいなことを言うのは今までに一度も無かった。
黒崎 柚
このクラスは…呪われている……。
呪い……呪われて……呪って………
黒崎 柚
……あっ、いい方法思いついた。

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