第14話

二人目 本多椿
1,128
2020/01/31 15:20
颯汰を壊して、俺が得たもの。
それは何でもないただのいつも通りの俺だった。
誰でもない俺に"いつも通りの俺"なんてあるかと言われると何とも言えないが、取り敢えず学校で被ってる皮が剥がれなかったってことだけ分かれば別にいいと思っている。
黒崎 柚
……。
心を折ったのか颯汰は月曜日、学校にいなかった。
先生は療養のためと言ったが、実際はどうだか。


帰りのホームルームで6月に入ったからか、先生が話すことをまとめたメモを見ながら、テストのことを告げてきた。
先生
えー、来週は定期考査だからな。ちゃんと勉強をするように。お前ら3年なんだから落とすと高校選択の幅が狭まるぞー。
辻井 陸
なぁ、駿!俺、分からねぇとこあるから今度勉強会開いてくれ!
野原 彗
俺も行きたい!
新坂 美彩
私も教えて欲しい!
仲井 知歌
ここはクラスのみんなで勉強会って言うのがいいんじゃない?
室戸 杏
へー、楽しそうじゃん。
廣本 佳奈
なら、部活も無いし今日の放課後にやっちゃおうよ!莉緒もするよね?
尾木 莉緒
うん!参加しようかな…
相澤 駿
お前らマジで言ってんのか…
辻井 陸
氷翠も参加するよな?
笹倉 氷翠
塾は夜なので別にどちらでも。
先生
まっ、あまり遅くにならなきゃいいからそこは好きにやってくれ。じゃ、今日は終わり、また明日。
適当に終わらせた先生が教室から出て行く。
みんなが机を動かし始めたから、俺は荷物をまとめて教室から出ようとした。


勉強なんてどうでもいい。
クラスできゃっきゃとやるだけ時間の無駄だし、俺が一番なんだから教えてもらうことだってないし、逆に俺に教わりたい奴なんてこんなクラスにいるかっていうね。
相澤 駿
おい、柚!帰るのか?
黒崎 柚
別にトップレベルの駿と氷翠がいるなら僕が残る必要も無いでしょ。
相澤 駿
常連1位は満点のお前だろ?
黒崎 柚
……誰が僕に習いたいと思う?いないに決まってる、そんなの。
クラスの視線を感じながら言い返すと、俺はとにかく早く帰りたくて、ドアを開けた。
そして、廊下に出ようとした時、誰かによって腕を掴まれる。
黒崎 柚
今度は何!
駿が執拗く来たと思い、さっきからの苛立ちを込めてそう言って振り返ると、俺の腕を掴んでいたのは違う人だった。
その子はビクリと体を震わせ、少しだけ怯えたような目で俺を見る。
黒崎 柚
あっ…ごめん……
本多 椿
わ、私…柚ちゃんに教えてもらいたいんだけどいいかな…?
控え気味に言った椿。
本当は帰りたいところだけど、今みたいな態度を取って、怯えながら頼まれてそれでも帰るのは流石に俺でも気が引ける。
黒崎 柚
……うん、いいよ。
本多 椿
やった、ありがとう!
椿が静かに笑って俺の手を引く。
何で頼んだんだよ、と言いたそうな周りの目を無視して俺は椿と窓際に机を移動させた。
黒崎 柚
椿、教えるの僕でいいの?
本多 椿
柚ちゃんがいいの!
黒崎 柚
…そう。
出席番号25、本多ほんだ椿つばき
園芸部所属で飼育委員会に入っている。
クラスではあまり目立つ方ではなく大人しく静か。
昼休みは素早く食事を済ませた後、花壇等の手入れをして、放課後は兎小屋でいつも兎達と遊んでいる印象が強い。
成績は美術が特に長けていて、他の教科は中の上。
一人でいるのが好きらしく、教室にいる時は大体本を読んでいることが多い。
制服を着崩すことのない一般的な女子だが、常に目にクマのできていて少し心配なところも。
1年生の時、椿とは同じクラスでいじめられてた際に1回だけ手を差し伸べてくれたことがあるから、ランクはC。
黒崎 柚
何処が分からない?
本多 椿
えっと、ここがね…
黒崎 柚
あ〜…何かみんな悩んでたよなぁ…
人に教えるのも語彙力の勉強になる。
ノートに書きながら、どうやったら人に伝えやすいかを考えて話していく。
それと同時にCにはどのくらいの報復が良いのかを考えていた。
折り鶴にはその人の情報だけでCとDへの報復はまだ未定だったから書いていなかった。


まぁ、流石に1回は手を差し伸べてくれたり、いじめの存在を知らなかった人の足を折るとかそういうのは酷いとは思ってるからな。
黒崎 柚
うん、出来てる出来てる。
本多 椿
ほんと?良かったぁ、心配で…
丸がついていくノートを見て、胸を撫で下ろす。
そのとき、ふと俺は1年生の頃を思い出した。
確か椿は1年生の時に不登校になっていた時期があった気がする。
周りに関心のない俺に断定は出来ないけど、多分そうだったと思う。
Cなら、その不登校の理由を晒すくらいでいいか…
ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は椿に分からない部分を教え続けたのだった。

プリ小説オーディオドラマ