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第103話

意外な容疑者
308
2022/06/22 11:00
虎雅と空き教室に入ったのはいいが、氷翠が死ぬ間際に駿と話していた空き教室だから、あの時の氷翠を思い出してしまってあまりいい気分にはならない。

教室の鍵を閉めて、窓側へと移動する。
窓の外を見てカーテンを閉めた虎雅が机に座ったところで俺は話を聞くことに。
黒崎 柚
で?
九鬼 虎雅
椿達の件についてお前のことだし何かしら調べているだろ。その調べて分かったことについて教えろ。
黒崎 柚
僕が調べているのが前提条件の質問だな…まぁ僕なりに調べてはいるけど。僕に何かメリットある?
九鬼 虎雅
俺が持ってる情報をやるよ。
黒崎 柚
……虎雅が椿の死を調べる意味って何?椿のこと好きだっけ。
九鬼 虎雅
ざけんな。使えねぇサツに疑いの目を向けられたことへの苛立ちと単にその後気になったことがあったからだ。
黒崎 柚
そう。
何れ報復するとしても現時点ではまだ虎雅を敵に回したくない、面倒なことになる。
だからこの場で嘘はつきたくないが、監視カメラの映像が破壊されていたなんて言ったらどうなることか。
取り敢えず、話を引き延ばそう…その間に考えて…
黒崎 柚
虎雅から先に教えて欲しい。名を聞く方が先に名乗れって言うしさ。
九鬼 虎雅
まぁ確かにそれも一理だな。先に教えるからお前逃げんなよ。
黒崎 柚
勿論。
九鬼 虎雅
椿が死んだ一昨日、あの日の椿は花の水やりをせずに急いで下校したらしい。
黒崎 柚
え?椿が?
九鬼 虎雅
ああ。
名前が分からずとも、終学活後の下校する前に三年生の女子が毎日花壇の水やりをしたり、花の世話をしているのは他学年含め殆どの人が知っていることだった。
それくらい椿は園芸部の花壇を大切にしていた。
黒崎 柚
でもお前、僕と焼肉食べに行ったよな?
九鬼 虎雅
昨日の昼休み、美彩が花壇にいてな。珍しいもんだから何してんのか聞きに行ったんだ。そしたら、花が萎れてたから水やりをしようと思ったと。
黒崎 柚
一昨日椿が水やりをしてたなら、昨日の昼休み時点じゃ萎れていないということか。
九鬼 虎雅
それに一昨日から昨日にかけては大して暑くもなかったからな。暑さの関係で水不足になるのが早かったってことも考えにくいだろ。
黒崎 柚
成程ね…
九鬼 虎雅
そんで椿が水やりサボってまで帰った理由が気になって、学校サボって遊び呆けてた奴らに写真見せて聞いてみたが、殆ど情報無し。走って駅の方に向かった椿を見たってのが唯一の情報だな。
黒崎 柚
……。
犯人と駅で待ち合わせていた?
誰かを人質にされてそれを助けに行くため、ってなったら水やりなんかしてる場合じゃないだろうし…と言っても、椿と采斗が恋仲なんて聞いたことがないな…
黒崎 柚
……俺の想像以上に複雑そうだな…
九鬼 虎雅
あ?何つった?
黒崎 柚
独り言。まぁ…気にしなくていい。
九鬼 虎雅
…そうか。で、お前は?
黒崎 柚
色々とツテを使って現場付近の防犯カメラを調べた。あのビルの屋上の映像は誰かによって破壊されていて確認できなかった。そこら辺詳しい人に修復できないのか聞いたけど、データが消されたなら可能だけど破壊だから不可能と。
話を引き伸ばしてどうするかを考えた結果、大人しく知っていることを話すのが正解という結論に至った。
そこら辺の奴らよりも虎雅の方が余っ程話が通じるし、完全にグレーなことを話したところで虎雅が周りには言わないことは分かっていたから。
それに虎雅との関係は報復をする最後の最後まで良好、とは言えないけど…公平な状態に保っておきたい。
虎雅は色々と知り過ぎてて、敵に回すと厄介になる。
九鬼 虎雅
お前、相変わらず普通の奴じゃ難しいことやってんな。まぁ言及はしねぇけどよ。
黒崎 柚
そうだと助かる。あと他の人に言いふらすのもやめてもらえると助かるかな。
九鬼 虎雅
無論だ。取引ってのは他言無用だろうが。
黒崎 柚
ならいい。それでこの防犯カメラについてどう思う?物事を広い視野で考えるためにも他の人の見解を知りたい。
九鬼 虎雅
そうだな…
意見を求めると虎雅は意外と真面目に考えてくれる。
九鬼 虎雅
…俺が思い付くのは三つだな。一つは純粋に第三者による犯行、監視カメラのデータぶっ壊せるなら厄介な奴だな。
黒崎 柚
そうだね。
九鬼 虎雅
二つ目は椿と采斗で揉めた結果、二人揃って落下。…だが、これは監視カメラのことを踏まえると違う気はする。
黒崎 柚
椿か采斗がデータを壊せるということになるからな。椿は殆ど機械触らないし、采斗も連絡のやり取りをするのが精一杯の機械音痴って聞いている。
九鬼 虎雅
ああ。アプリのインストのやり方を教えたって前に駿が言ってたわ。
黒崎 柚
それはかなり…
九鬼 虎雅
そんで、最後なんだが…簡単に一つ目と二つ目の融合体だな。第三者が采斗を裏で操り、椿を突き落としてサツの目から外れる為に采斗も自ら落ちた。
黒崎 柚
僕もその可能性は考えた。屋上を見せないと言うことはあの時の屋上には見せたくない何かがあった。第三者なら見えないように対策するだけでいいのに、わざわざデータを壊した。
九鬼 虎雅
そう、采斗を操ったならデータをぶっ壊したことに理由がつく。問題点としては引っ込み思案で弱気な采斗に椿を殺そうとする勇気があったのか、あとは采斗がピンポイントでお前の頭上に落ちてきたとなると俺達があの場所を通るのが知られていた可能性がある。つまりは旧校舎での会話が誰かに聞かれていた可能性もあるってことだ。
黒崎 柚
人の気配にはそれなりに敏感なつもりだけど虎雅と今まで話していて一度も気配を感じたことはない。やるなら盗聴器の類だろうな…データ壊せるなら盗聴器くらい楽勝だろうしね、何なら采斗が通話状態にしたスマホを教室の中に隠すだけでもいい…
九鬼 虎雅
何なら今この会話だって聞かれている可能性もある。一応先にこの教室に何も無いかざっと調べて、アイツがD組の教室にいるのを確認した上でお前に声をかけたから大丈夫だとは思うが。
黒崎 柚
そうだと信じたいところだな……
椿を殺したのは第三者なのだろうか。それとも采斗か。
あの時、俺に向けたメッセージを流したのは落下時のクッション代わりになる俺を立ち止まらせるため?

仮に采斗が実行犯だとして裏で操っているのは誰?

何が目的で椿を殺した?
椿は誰かに恨まれるようなことをする子じゃない。

僕の報復に乗じた快楽殺人?
采斗を駒にして動かして殺人を楽しんでいる?

それとも犯人は第三者で俺が一連の犯人だと分かって、混乱させる目的であまりランクが高くない椿と采斗を殺そうとしたとかか?

少なくとも電光掲示板をハッキングしたり、監視カメラのデータを壊すことができる機械に強い人が関与していることには間違いない。
黒崎 柚
……。
九鬼 虎雅
…多分目をつけるならお前な気はするが、俺かお前のどっちかは誰かに目をつけられてるってことには間違いなさそうだし一応気をつけた方がいいってことだな。今でも前みたく首吊りたいなら別にどうでもいいけどよ。
黒崎 柚
忠告をどうも。何れ死ぬとしてももう少し先…答えを見つけるまでは死ねない。
九鬼 虎雅
相変わらず薄い奴だな、お前。
黒崎 柚
そう?
…虎雅がそう言うのならきっと俺は薄い奴だろう。
”幸せ“とは何か、俺の心に空いた穴を満たすものはあるのか…どうしてもこの答えが知りたい。
俺に”幸せ“は存在しないし俺を満たすものはない、それはそれで一つの答え。分からないのに死ぬのは少し勿体無い気がする。

そう考えると俺はまだ、人の欲で溢れ返った醜いこの世界に希望があることを願っているのだろう。
もっと純粋ならこんなことに気付かなかったのに…
黒崎 柚
…虎雅、僕って子供?
九鬼 虎雅
あ?いきなり何を言い出しやがる。中学生は子供だろうが。
黒崎 柚
じゃあ僕、純粋?
九鬼 虎雅
はぁ?マジ意味分かんねぇ。椿達の件の考え過ぎで頭おかしくなったか?
黒崎 柚
いいから。僕が中学の中で一番個人的な話をしているのは皮肉なことにお前だ。僕が考える黒崎柚と他人から見た黒崎柚の像が一致しているとは限らない。
九鬼 虎雅
ったく、クソ面倒くせぇ奴…
黒崎 柚
面倒臭くても大事だから。
九鬼 虎雅
お前が純粋かどうか、か……子供っぽさのない発言ばっか、現実的過ぎて純粋には見えねぇよな。
やっぱもう俺に純粋さなんてなかったか…
九鬼 虎雅
…ほんと見えはしないが……
黒崎 柚
…その先何。
九鬼 虎雅
…言わないでおくわ。あくまで個人的見解だからな。言うも言わずも俺の勝手。
黒崎 柚
後味悪いことするなぁ…
九鬼 虎雅
別にいいだろうが。ほら、そろそろ予鈴が鳴るぞ。授業受ける気あんならさっさと教室に戻れ。
黒崎 柚
言い方的にサボり?
九鬼 虎雅
当たり前だろ。テストは終わったからな。
そう言って、虎雅は鍵を開けると出て行ってしまった。
どうせ行き先はいつも通り旧校舎だろう。
次は理科…百鬼先生か。
何か荷物運びとか手伝うことあるか聞きに行って…ついでに澪晴の件についての意思表示もしておこう。
俺は教室とは逆の方向に歩き出し、百鬼先生がいるであろう理科準備室へと向かった…

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