想像以上の量のお好み焼きをノロノロと食べていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
着いたのは隣の席。
何でこんなところでクソジジイに会わないといけないんだ、と思いつつ俺は溜息を我慢する。
さっさと食って、ここから逃げ ────
クソジジイは面影があれば俺には必ず気付く。
目を合わせることなくメニューを見ながら話しかけてきて、俺は同じように目を合わすことなくお好み焼きを食べながら返事をする。
曖昧な返事に俺は呆れる。
クソジジイは世間から見たら厳しめの人だが、俺から見たらかなりの適当人間。厳しいなんかない。
こんなに会話したのあのオーディションを手伝うかどうかの話をした以来だな…なんて思いながらもどうでもいいかと思ったことを口にすることは無い。
鼻で笑いつつ、お好み焼きを口に運んでいるとパシャっとシャッター音がして俺は音がした方を睨む。
変な記録は後がだるい。
自分で言ったことに俺は少しハッとなる。
思いついたらずっとここにいるのが勿体なくて、食べるスピードをぐんと早める。
食べ終わりお好み焼き屋さんを出ると俺はホテルに荷物を置いて、ナイフを懐に仕込み仁を探し始めた。
めんどくさいことは考えなくていい。
単純な方法で殺って、そこら辺の奴が殺ったとか単なる通り魔だと思わせとけばいい。
手の込んだことをやると、不幸が続く原因不明の“呪い”が解けてしまう。
あくまで偶然。
犯人像を滅茶苦茶にしないといけないんだ。
ジジイは力は知恵で知恵は力で押さえつける的なことを言ってたけど……知恵も使わず力も使わず、自然な流れで殺れば問題無い。
芽衣の報復が1番楽。
久しぶりに舞台に立っただけで勝手に死んだし…
奇跡、母親と思われる女性に返事をした仁が目の前を通り過ぎて公園にあるトイレへと向かった。
今なら仁は1人、これ以上にないチャンス。
トイレから出たら何処かに隠れてウィッグを取ったら誰ももう俺だと分からないだろう。
でも…1つ気にすることと言えば……
錬だった頃は女子トイレに行く訳にもいかないから、男子トイレの個室に毎度行ってたけど……流石に15で柚という女になれば躊躇くらいする。
別に俺的にはそういうのを視界に入れてしまったとしてもそこら辺にいる動物と重ねてしまえば、人間が裸でも特に何も思うことは無い。
だが、それは一般論からかけ離れているから論外。
………いや、待てよ?普通に入ればいいか。
よくよく考えてみたら、今の俺の見た目的には女子トイレじゃなく男子トイレに入るのが正解だし。
逆に女子トイレ入った方が警察呼ばれる…
そう1人で納得すると、少年設定の俺は仁の後を追って男子トイレへと入ったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。