第34話

階段の踊り場
708
2020/03/21 09:09
本多 椿
もうすぐ夏祭りの季節だよ!
黒崎 柚
そうだけど…それがどうしたの?
本多 椿
柚ちゃんはお祭りとか行かない?
黒崎 柚
行ったことないかな。
本多 椿
一度も!?
黒崎 柚
う、うん…
主な理由としては目立つからだった。

あんな人が集まっている場所で俺が行ったら目立つし、結依達が騒ぐと悠翔が連れて行って俺はいつも家でお留守番。


別に行きたいって思ったこともないからそんなこと気にしたことなかったな…
本多 椿
私、今年は塾とかで行けそうにないんだよなぁ…行けそうだったら柚ちゃん引っ張って行ったのに…
黒崎 柚
いや、別に行きたいって思ったことないからいいよいいよ。
本多 椿
えぇ〜!行かなきゃ損だって!
宍田 拓磨
そんな奴来なくていーよ、空気が汚くなるだけだし。
突然横から入って来て椿が不満そうな顔になる。
宍田 拓磨
今まで通り家にこもってろって。
廣本 佳奈
拓磨、関わるだけ無駄だって。
尾木 莉緒
それにさ〜このクラス異常なんだから変に目立つと刺されたり塩酸被ったり事故ったり…不運なことが舞い降りるかもよ?
莉緒がそうニヤリと笑うと、拓磨の表情が少しだけ険しくなったような気がした。

考えた結果、佳奈達の言うことに従うことにしたのか離れて行く。
本多 椿
…言い返せなくてごめんね…。
黒崎 柚
気にしないで大丈夫。
分かりやすく肩を下げた椿。

この子は別に謝ることなんて一つもない。

一度は勇気出したんだから、それだけで十分。
本多 椿
それならいいんだけど…
すると、突然「あっ!」と声を出したかと思うと、両手を叩いた。
本多 椿
じゃあさじゃあさ!クラスのみんな・・・で行こうよ!
黒崎 柚
え?
本多 椿
それなら柚ちゃんも行きやすいし、私は何とかして塾休みにするから柚ちゃんも一人にならない!どうかな?
黒崎 柚
まぁ、本当にこの受験の年でもやるって言うなら行ってもいいけど…
本多 椿
説得してみるよ!
黒崎 柚
う、うん…
椿の権力じゃ叶わないだろう、と考え一応肯定的な返事をしておく。
笹倉 氷翠
黒崎さん。
黒崎 柚
はい?
笹倉 氷翠
井上先生が職員室に来るようにっておっしゃっていたので伝えときます。
黒崎 柚
ありがとう、今行く。
少し早足で職員室に行き中に入ると、眼鏡をかけた澪晴がパソコンに向かって作業していた。
黒崎 柚
せんせー、何の用ですか?
井上 澪晴
ん?あ、もう来たのか。お前の頼まれ事をちゃんと済ませといたから渡そうと思って…はい、これだ。
澪晴が1枚のレポート用紙を俺に差し出す。

受け取るとその紙は澪晴の字でビッシリと埋め尽くされていた。

所々に出て来る数字は多分、出席番号で人物を表しているんだと思う。
ちゃんとバレないようにしてある…
黒崎 柚
ありがとうございます。
井上 澪晴
また何かあったら言ってくれ。可能な限りは叶えるよう努力する。
黒崎 柚
はい。
二つ折りにした紙を片手に持ち「ありがとうございました」言って職員室を後にする。


どこで読もうか…


そんなことを考えながら校内を歩いているといつの間にかあの屋上前の階段に来ていた。
黒崎 柚
結局はここか…
どうでもよくなり俺は溜息を零し、階段に座った。
出席番号10、宍田ししだ拓磨たくま
剣道部で給食委員会。
成績はどちらかと言うと上になるが、ほとんど真ん中で一般的。
運動はそこそこの成績を残すくらい。
人としてはさっきみたいな嫌味を言う奴でその原因として予測出来るのは石舘瑛士と同じ時期に始めたにも関わらず瑛士だけが良い成績を獲り、努力が実らないことへの劣等感。
まぁ、芽衣と同じと言ったところ。
そこから性格が酷くなり、たまに癇癪を起こしたような感じでいきなり殴られる。
そんなの普通に腹立たしいからランクはA。
ここまでが俺の調べたこと。

澪晴の持って来たメモを見て、新たに得た情報を新しい折り紙に書き込んで行く。
・両親は共働き(母:パート、父:不動産屋)
・小5の弟が碧座小学校に通っている
・家庭はごく一般的だと思われる
・藤川仁を嫌っている
・俺に対しての愚痴はあまり言わない
・小学校の頃はどちらかと言うと静かだったらしい
黒崎 柚
平凡、静かが中学生からキャラ変して今の状態になったって考えるのが妥当か…
どうしてやろうか……
篠原 睦希
あれ…柚、何してんの?
黒崎 柚
!……
偶然通りかかった睦希に話しかけられ、俺はそっとメモをポケットに入れる。
黒崎 柚
落ち着くからここにいるだけ。
篠原 睦希
そっか。
それだけ言うと、睦希は俺を一人にしてくれようとしたのか立ち去ろうとする。

そんな睦希を俺は思わず呼び止めた。
黒崎 柚
睦希。
篠原 睦希
ん?
黒崎 柚
何か……変わった?
俺の質問は想定外だったようで、睦希は目を開く。
黒崎 柚
いつもなら絶対に見逃すことなんてないじゃん。
篠原 睦希
……確かに、ね。いつもの俺なら絶対に何かしてると思う。こんな人が来ないところなら尚更。
黒崎 柚
じゃあ、何で。
篠原 睦希
柚を見てると昔のこと思い出してさ。
黒崎 柚
昔?
聞き返すと、睦希は悲しそうな表情でこう言った。
篠原 睦希
錬………黒崎錬のこと。
黒崎 柚
え……?
出てくると思わなかった錬の名前。


どうして睦希が俺のことを…?

……いや、理由なんてどうでもいい。

先に…拓磨より先に睦希を口封じしないと……

プリ小説オーディオドラマ