第12話

一人目 初陣
960
2019/10/12 07:48
靴の準備も整い、歩き方もいける。
失敗は絶対にしない。
黒崎 柚
……。
この初陣は警察が何処まで俺を追い詰められるかの検証も含んでいる。
こんなところで負ける気はさらさらない。
せめて、クラスの半分はいかせる。
いつも通り、奇妙ないじめのない学校。
本当に気味が悪くて早めに愛梨達について調べあげた方がいいと改めて思った。
誰にも褒められたくないし、褒めたくもない。
このクラスにおいて、俺はあくまでここは義務教育という課題を終わらすためにしか行く必要はないと考えている。


どんだけ褒められようがるーが消えた今、気分が良くなることはおそらく無いだろう。
手元に残る最後の思い出を奪ったのは重罪。
だからこそ、さっさとアイツらを ─────
九鬼 虎雅
おいってば。聞いてんのか?
黒崎 柚
え?あ、悪い。何も聞いてない…。
九鬼 虎雅
ったく、交渉成立したならしたでちゃんと見合うくらい働けよ。
黒崎 柚
悪かったって言ってんじゃん…
昼休み、虎雅に捕まったことで俺は放課後に何週間後かにある定期考査の対策に付き合わされていた。
終わったら、その礼として駅前の牛丼屋に連れて行ってくれるらしい。
こんなところで道草食ってる場合じゃないのに…
帰りたいところだけど、了承したからにはその約束を破るのは俺のプライドが許さない。
そうして頼まれた範囲まで教え終わると、俺は虎雅と近くの牛丼屋へと向かった。


それは運良く颯汰を襲う近くの場所。
上手く行けば、虎雅と一緒に牛丼を食っていたことがアリバイになるだろう。
サッカー部の練習が終わるまであと10分。
少しの間はここで待機だ。
黒崎 柚
…そういや何で最近、誰も僕のこといじめなくなったのか知らない?
九鬼 虎雅
あ?そうなのか?
黒崎 柚
なんか机とか汚されないし、納豆も入ってないし…
九鬼 虎雅
さぁ、何でだろうな?サボり魔の俺にとっちゃどうでもいいことだ。お前がいじめられようがいじめられまいがこういう交渉は別枠だしよ。
黒崎 柚
交渉関係無しに僕のこと殴ったこと、一度も忘れてないからな。
男女で学校帰りに一緒にご飯を食べて普通ならカップルだのなんだの言うのだろうけど、俺と虎雅で食っている時の空気は異常で周囲の人々を威圧するようなものだった。
九鬼 虎雅
てか、お前よくそんな性格で今までやって来れたな。小学校とかどうだったんだよ。
黒崎 柚
…大切な親友を失っただけさ。
九鬼 虎雅
ふ〜ん…まっ、小学校ってだいたいいじめられるやついるよな。実際に俺が小学生だったころも凄いいじめられてたやついたし。
黒崎 柚
嫌味は言わなくていいよ。
「トイレに行く」といつも移動の時に持ち物を持つ癖をいいことにリュックを手にしてトイレへと向かった。
トイレで仕込んだ物を着込み、トイレ内にある窓から外へと抜け出す。


そして、演じながら襲う場所へと向かう。


案の定、予定通りに颯汰はその道に来た。
どうやら誰かと電話をしているらしいが、1人で歩いていることには変わりがない。
黒崎 柚
一人目…奥山颯汰……。
スタスタと歩き、無警戒の颯汰とすれ違う。
その瞬間、俺は立ち止まってナイフを出すと颯汰の脚に向かって横に一振り。
声にならない声が響き、颯汰がその場に崩れる。
今の声だとまだ誰も来ないだろう。
奥山 颯汰
くっ…あ、脚が…っ!
両脚を押さえている颯汰。
俺はまるで見えていないようにその横を通り過ぎて歩き去った。
地味なような気もするが、これでいい。
最初から飛ばしてやって失敗なんてごめんだ。
助けを求める颯汰の声を無視して俺は出て来たときに使ったトイレの窓から中に入ると、リュックに再び着ていた物と靴を脱いで入れる。
黒崎 柚
Bに本気になる必要なんてない…
そんなことを小さく呟きながら、スマホを見る。
虎雅にトイレに行くって言って席を立ってから、5分と言ったところか…まぁ、初めにしては上出来な方だろう。
リュックを持って、席に戻ると虎雅が「牛丼、食い過ぎたのか?」と聞いてくる。
黒崎 柚
朝飯に昨日の夕飯の余りを食って、それが今当たっただけ。
九鬼 虎雅
そりゃ、とんだ災難だったな。
黒崎 柚
気をつけるようにしないと一生トイレにこもることになりそうだよ。
実際、朝飯に昨日の夕飯の余りを食ったのは事実で嘘なんてついてない。
牛丼を食い終わり、虎雅に奢ってもらい店を出ると外は入る時に比べて騒がしかった。
黒崎 柚
うるさっ、え、何があったんですか?
女子高生
ん、君達知らない?ついさっきそこの脇道で通り魔が出たんだって!
女子高生
それで被害者は脚の裏の筋肉スッパり切られたとか…もう夜になるんだから君達も気を付けて帰った方がいいよ〜
女子高生
あとあと!犯人は男だって!変な人見つけたらスグに110番通報だからね!
黒崎 柚
通り魔…あ、ありがとうございます。
黒崎 柚
はい。
中学生だからということもあるのか、心配されたが別にどうってことない。


俺がやったんだから。
九鬼 虎雅
じゃ、俺は友達と遊んで来るんで。
黒崎 柚
今、通り魔って言ってたけど。
九鬼 虎雅
んなやつが俺襲って来たら、返り討ちにするだけだ。
そう言って、虎雅は立ち去った。
本物の通り魔だとしても多分虎雅なら追い払う。
まぁ、後回しの対象か…
黒崎 柚
ここから果たして辿り着けるか…
小さく誰にも聞こえない声で呟くと、俺はいつものように家へと帰った。

プリ小説オーディオドラマ