靴の準備も整い、歩き方もいける。
失敗は絶対にしない。
この初陣は警察が何処まで俺を追い詰められるかの検証も含んでいる。
こんなところで負ける気はさらさらない。
せめて、クラスの半分はいかせる。
いつも通り、奇妙ないじめのない学校。
本当に気味が悪くて早めに愛梨達について調べあげた方がいいと改めて思った。
誰にも褒められたくないし、褒めたくもない。
このクラスにおいて、俺はあくまでここは義務教育という課題を終わらすためにしか行く必要はないと考えている。
どんだけ褒められようがるーが消えた今、気分が良くなることはおそらく無いだろう。
手元に残る最後の思い出を奪ったのは重罪。
だからこそ、さっさとアイツらを ─────
昼休み、虎雅に捕まったことで俺は放課後に何週間後かにある定期考査の対策に付き合わされていた。
終わったら、その礼として駅前の牛丼屋に連れて行ってくれるらしい。
こんなところで道草食ってる場合じゃないのに…
帰りたいところだけど、了承したからにはその約束を破るのは俺のプライドが許さない。
そうして頼まれた範囲まで教え終わると、俺は虎雅と近くの牛丼屋へと向かった。
それは運良く颯汰を襲う近くの場所。
上手く行けば、虎雅と一緒に牛丼を食っていたことがアリバイになるだろう。
サッカー部の練習が終わるまであと10分。
少しの間はここで待機だ。
男女で学校帰りに一緒にご飯を食べて普通ならカップルだのなんだの言うのだろうけど、俺と虎雅で食っている時の空気は異常で周囲の人々を威圧するようなものだった。
「トイレに行く」といつも移動の時に持ち物を持つ癖をいいことにリュックを手にしてトイレへと向かった。
トイレで仕込んだ物を着込み、トイレ内にある窓から外へと抜け出す。
そして、演じながら襲う場所へと向かう。
案の定、予定通りに颯汰はその道に来た。
どうやら誰かと電話をしているらしいが、1人で歩いていることには変わりがない。
スタスタと歩き、無警戒の颯汰とすれ違う。
その瞬間、俺は立ち止まってナイフを出すと颯汰の脚に向かって横に一振り。
声にならない声が響き、颯汰がその場に崩れる。
今の声だとまだ誰も来ないだろう。
両脚を押さえている颯汰。
俺はまるで見えていないようにその横を通り過ぎて歩き去った。
地味なような気もするが、これでいい。
最初から飛ばしてやって失敗なんてごめんだ。
助けを求める颯汰の声を無視して俺は出て来たときに使ったトイレの窓から中に入ると、リュックに再び着ていた物と靴を脱いで入れる。
そんなことを小さく呟きながら、スマホを見る。
虎雅にトイレに行くって言って席を立ってから、5分と言ったところか…まぁ、初めにしては上出来な方だろう。
リュックを持って、席に戻ると虎雅が「牛丼、食い過ぎたのか?」と聞いてくる。
実際、朝飯に昨日の夕飯の余りを食ったのは事実で嘘なんてついてない。
牛丼を食い終わり、虎雅に奢ってもらい店を出ると外は入る時に比べて騒がしかった。
中学生だからということもあるのか、心配されたが別にどうってことない。
俺がやったんだから。
そう言って、虎雅は立ち去った。
本物の通り魔だとしても多分虎雅なら追い払う。
まぁ、後回しの対象か…
小さく誰にも聞こえない声で呟くと、俺はいつものように家へと帰った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。