第4話

新しい朝
1,256
2020/11/06 10:23
報復の決意。
それは俺に生きる希望を与える物だった。


鞄から南京錠を外し、上履きはもう下駄箱に置く。
財布は…流石に盗られるのはムカつくからお札をスマホカバーの内側に仕込んどいた。


生まれ変わろうと髪ゴムを手に取る。
1つ結びだと髪がぴっしりしてて気持ち悪い。
だから、三つ編みをしてみようかと思ったが…
黒崎 柚
これ、三つ編みってどうやんだよ…
漣 結依
柚姉、朝ご飯!って、どうしたの?
黒崎 柚
三つ編みのやり方が分からなくて…
漣 結依
柚姉が三つ編み!?私やるやる!
黒崎 柚
ありがと。
朝ご飯と呼びに来た結依が櫛と髪ゴムを俺の手から取ると、椅子に立って手馴れた手付きで結ぶ。
すると、首の包帯に気が付いたらしい。
漣 結依
首、怪我しちゃったの?
黒崎 柚
まぁ…大丈夫、スグに治るから。
漣 結依
お大事に!三つ編み、出来たよ!
黒崎 柚
おぉ…
俺は思っていた三つ編みとは違った。
耳の横の髪は残っていて、後ろの髪だけが緩く三つ編みされていて背中くらいまである。
黒崎 柚
これでいいのか?何か俺が想像してたのとは違うけど…
漣 結依
柚姉はね〜、全部結んだらどちらかと言うと可愛くなっちゃうからこれくらいのがかっこよくて1番なの!
黒崎 柚
そっか、ありがと。
漣 結依
うん!じゃあ、朝ご飯行こ!
黒崎 柚
だね。
結依に連れられ、リビングへ。
悠翔に首について聞かれたが、適当に答えて本当のことは言わないでおいた。


何だかんだで小学校のあの日以来、俺のことを一番心配しているのは母さんも余っ程だけどそれ以上に悠翔が心配してくれている。
朝飯を済ませると、スグに学校へ。
取り敢えずは改めて今日の一日でクラスの人達の観察でもしようと思う。
黒崎 柚
……。
……………マジで踏み潰したい。
最初に少しでも苛立ったのは朝礼。
背の順に並ばせればいいのに、何故かこの学校は名前順に並ばせていた。


太ももを触る手が気持ち悪くてしょうがない。
まぁ所謂、痴漢というやつだ。
毎回、触られてもう俺は呆れ返ってそういうことに興味は無いしどうでもよくなっていた。
今となるとただただ頭に来るだけ。
俺の後ろは小林こばやし修哉しゅうや、一言で変態クズ野郎。
ランクとしてはS。
ランクはSが最高で主犯や殺したいレベル。数えたら意外と多くて俺自身も驚いた。
校長の話長いし、このまま触られてたまるか…
黒崎 柚
………ねぇ…。
俺が声をかけ、背中を軽く叩いたのは前に立ついつもなら朝礼にいないサボり魔。


すると、サボり魔は前を向いたまま返事をする。
九鬼 虎雅
あ?
九鬼くき虎雅たいが、コイツもSランク。
そこら辺のヤンキーまとめてるヤバい人で今まで受けてきた暴力で一番肉体的にダメージを受ける。
黒崎 柚
場所、変わってくれない…
九鬼 虎雅
何でだよ。
黒崎 柚
痴漢半端ない…虎雅がデカいせいで完全な死角になってんの…
九鬼 虎雅
………いいだろ、何にする?
虎雅は意外と物分りがいい。
だが、そう簡単に願いが叶えられないのは日常。


俺と虎雅には謎のルールがあった。
何かを頼むときは何かをしないといけない。
前には虎雅に日直の仕事を全部やらされたことがあったが、その分放課後に食べ物を奢ってもらった。
まぁ、平等だから断りはしない。
黒崎 柚
そうだね……10秒、サンドバッグになってあげるよ…勿論、家族に心配かけたくないから顔は無しだ…
九鬼 虎雅
成立だな、変われ。
小林 修哉
なっ…
後ろから小さい声が聞こえたが、それを無視して俺は虎雅と場所を交代した。
虎雅はクラスで…いや、学校全体でビビられる存在だから口答えするやつはまずいない。
いたとしても、そいつは馬鹿だ。
小林 修哉
虎雅君、何で変わるんだよ…
九鬼 虎雅
交渉の結果だ。
朝礼が終わり、クラスへ。
すると、いつもと髪型が違う俺にクラス中の人達の目が集まっているのが分かった。
鈴本 葵
何?何かいきなりおしゃれしたくなったとか?
村上 夏帆
きっも、別に何しても変わらないよ。
遠山 愛梨
ほんと…髪型変えても立場は何も変わるわけないのに。
うるさいなぁ、Sの3人…。
別にそのくらい分かってるに決まってるじゃん…
それに可愛くなりたいなんて思ってない。
暇つぶしのためにスマホをブレザーから取り出した瞬間、そのスマホは手から滑り落ちた。
あのSに取られる前にと反射的に立ち上がる。
すると、目の前に俺のスマホが差し出されていた。
相澤 駿
はい。
黒崎 柚
あ…ありがと……
相澤 駿
何でそんなに戸惑った言い方?
黒崎 柚
いや…
拾ってくれたのは男子の学級委員の相澤あいざわ駿しゅん
いじめの存在には気付いていないからランクはD。
誰にも拾ってもらったことないから驚いた、なんて言えるわけないか…
黒崎 柚
…別に何でもない。
相澤 駿
そっか。
黒崎 柚
拾ってくれてありがと…
相澤 駿
礼なんていいよ。
俺は駿からスマホを受け取って、席に戻る。
正直、初期化されて全て空っぽになったスマホなんて持ってる意味が無いに等しい。
連絡先なんて家族くらいしか入ってないし。
やってきた放課後。
俺は虎雅と旧校舎の裏に移動した。
旧校舎だとたまに静かだからって勉強に来る人とかがいるからだ。
九鬼 虎雅
10秒?
黒崎 柚
10秒で顔以外。よーい、どん。
タイマーで10秒のカウントを始めて、スマホを置いた瞬間に腹部に強いパンチをくらって、意識が飛びそうなのになるのをギリで留まる。
一発目で倒れなかったのが驚いたのか「へぇ…」と小さく呟くと肩、脚、腰と色んな部位を立て続けに殴りつけてくる。


13発目をくらったところでタイマーが鳴った。
黒崎 柚
終わり。
九鬼 虎雅
かなり強めでやったのに倒れねぇとかどういう足腰してんだよ。
黒崎 柚
こういうの。こんなところで倒れてるようじゃいけないんで。
九鬼 虎雅
ほんと、面白い奴。
黒崎 柚
そりゃ、どうも。じゃ。
少しズレた肩の骨の位置を直して、荷物を取ったところで「なぁ」と後ろから声をかけられる。
黒崎 柚
何。
九鬼 虎雅
その首、どうした?ついに耐えきれなくなって自殺?
面白いことを見つけたようにニヤリと笑った虎雅。
まぁ、当たってないこともない。
黒崎 柚
まぁね。でも…どうやら僕は神様に助けられたらしい。生きる意味を見つけたよ。
九鬼 虎雅
良かったな、んじゃ。
黒崎 柚
バイバイ。
虎雅は俺の目を見て楽しんでいる。
目は口ほどに物を言う、と言うように目は無意識に感情を出しやすいようで俺がどう思っているのかを当てるというウザいゲームをよくしてる。
今のうちは遊ばせといてやる……
まずは小さな敵から。大きくなるほど報復の度を上げてやろう…

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