報復の決意。
それは俺に生きる希望を与える物だった。
鞄から南京錠を外し、上履きはもう下駄箱に置く。
財布は…流石に盗られるのはムカつくからお札をスマホカバーの内側に仕込んどいた。
生まれ変わろうと髪ゴムを手に取る。
1つ結びだと髪がぴっしりしてて気持ち悪い。
だから、三つ編みをしてみようかと思ったが…
朝ご飯と呼びに来た結依が櫛と髪ゴムを俺の手から取ると、椅子に立って手馴れた手付きで結ぶ。
すると、首の包帯に気が付いたらしい。
俺は思っていた三つ編みとは違った。
耳の横の髪は残っていて、後ろの髪だけが緩く三つ編みされていて背中くらいまである。
結依に連れられ、リビングへ。
悠翔に首について聞かれたが、適当に答えて本当のことは言わないでおいた。
何だかんだで小学校のあの日以来、俺のことを一番心配しているのは母さんも余っ程だけどそれ以上に悠翔が心配してくれている。
朝飯を済ませると、スグに学校へ。
取り敢えずは改めて今日の一日でクラスの人達の観察でもしようと思う。
……………マジで踏み潰したい。
最初に少しでも苛立ったのは朝礼。
背の順に並ばせればいいのに、何故かこの学校は名前順に並ばせていた。
太ももを触る手が気持ち悪くてしょうがない。
まぁ所謂、痴漢というやつだ。
毎回、触られてもう俺は呆れ返ってそういうことに興味は無いしどうでもよくなっていた。
今となるとただただ頭に来るだけ。
俺の後ろは小林修哉、一言で変態クズ野郎。
ランクとしてはS。
ランクはSが最高で主犯や殺したいレベル。数えたら意外と多くて俺自身も驚いた。
校長の話長いし、このまま触られてたまるか…
俺が声をかけ、背中を軽く叩いたのは前に立ついつもなら朝礼にいないサボり魔。
すると、サボり魔は前を向いたまま返事をする。
九鬼虎雅、コイツもSランク。
そこら辺のヤンキーまとめてるヤバい人で今まで受けてきた暴力で一番肉体的にダメージを受ける。
虎雅は意外と物分りがいい。
だが、そう簡単に願いが叶えられないのは日常。
俺と虎雅には謎のルールがあった。
何かを頼むときは何かをしないといけない。
前には虎雅に日直の仕事を全部やらされたことがあったが、その分放課後に食べ物を奢ってもらった。
まぁ、平等だから断りはしない。
後ろから小さい声が聞こえたが、それを無視して俺は虎雅と場所を交代した。
虎雅はクラスで…いや、学校全体でビビられる存在だから口答えするやつはまずいない。
いたとしても、そいつは馬鹿だ。
朝礼が終わり、クラスへ。
すると、いつもと髪型が違う俺にクラス中の人達の目が集まっているのが分かった。
うるさいなぁ、Sの3人…。
別にそのくらい分かってるに決まってるじゃん…
それに可愛くなりたいなんて思ってない。
暇つぶしのためにスマホをブレザーから取り出した瞬間、そのスマホは手から滑り落ちた。
あのSに取られる前にと反射的に立ち上がる。
すると、目の前に俺のスマホが差し出されていた。
拾ってくれたのは男子の学級委員の相澤駿。
いじめの存在には気付いていないからランクはD。
誰にも拾ってもらったことないから驚いた、なんて言えるわけないか…
俺は駿からスマホを受け取って、席に戻る。
正直、初期化されて全て空っぽになったスマホなんて持ってる意味が無いに等しい。
連絡先なんて家族くらいしか入ってないし。
やってきた放課後。
俺は虎雅と旧校舎の裏に移動した。
旧校舎だとたまに静かだからって勉強に来る人とかがいるからだ。
タイマーで10秒のカウントを始めて、スマホを置いた瞬間に腹部に強いパンチをくらって、意識が飛びそうなのになるのをギリで留まる。
一発目で倒れなかったのが驚いたのか「へぇ…」と小さく呟くと肩、脚、腰と色んな部位を立て続けに殴りつけてくる。
13発目をくらったところでタイマーが鳴った。
少しズレた肩の骨の位置を直して、荷物を取ったところで「なぁ」と後ろから声をかけられる。
面白いことを見つけたようにニヤリと笑った虎雅。
まぁ、当たってないこともない。
虎雅は俺の目を見て楽しんでいる。
目は口ほどに物を言う、と言うように目は無意識に感情を出しやすいようで俺がどう思っているのかを当てるというウザいゲームをよくしてる。
今のうちは遊ばせといてやる……
まずは小さな敵から。大きくなるほど報復の度を上げてやろう…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!