虎雅と普通の世間話をしながら歩くこと約20分。
順番を外で待つ人々が沢山いるバイキング…食べ放題で有名な店に着いた。
スマホを見ていた虎雅ははぁ…とダルそうに溜息を零すと一人で店内に入って行き、置いていかれた俺は慌てて後を追う。
相っ変わらず人使い荒いな、こいつ……
当たり前…であってはいけないことだけど、こういう虐められているのかどうかあやふやになりそうな付き合い方してると慣れてしまう。
聞こえないよう小さく呟いたところで前を歩いていた虎雅が止まり、俺も止まる。
虎雅が先に奥に座り、立ち止まっていると「あ、全然座っていいよ。」と女子の隣に座る男子から言われて俺は流されるように虎雅の横に座る。
頼んでくれ一通り食べるものを持って来て座る。
1人で先に食べ始めた虎雅を見てた女子は紹介くらいしてよ、困ってんじゃん、と言うと虎雅は溜息をつきながらも箸を置く。
最後が余計過ぎる……
玲苑と名乗った男子の顔は虎雅や龍弥さんとは全く似てないが、性格の面では虎雅とそっくりだった。
黒いセミロングを持った琉依の目にはハッキリとした意見が言える自分がいた。
確かにこの目の人は他の人とよくもめる。
てか、九鬼玲苑と如月琉依って何処かで聞いたことがあるような気が……
両方、ネットとかニュースとかで見たことがあった。
九鬼玲苑は絵画で大人やプロの人も参加する沢山のコンクール中、数々の最優秀賞や特別賞を掻っ攫う若き画家として。
如月琉依は空手で範囲は未成年になるが6年前から全国大会を含む公式試合や練習試合で全戦無敗を誇る空手家として。
その琉依の言葉が何故か胸にグサリと深く刺さった。
………理解してくれる人がいるなら良い、か…。
逃げるように席を立つと俺はトイレへ。
用を足したいわけじゃないけど、気持ち悪いこの気分を落ち着かせる必要があった。
トイレに座ってぼっと上の照明を眺める。
この光はいつ消えるのだろうか。
そんなことは俺には分からないけど、取り敢えず今は消えないことを願う。
トイレに誰か入って来たら出よう。
それまでは…
…まぁ、ただの…現実逃避ってやつかな……
コンコン、とノックがして俺は天井からドアへと視線を移す。すると…
初対面である俺なんかの心配してくれたのか琉依が様子を見に来た。
流石に時間も経ってるだろうし、と俺は立ち上がると水を流して個室から出る。
俺がそう言うと琉依は普通に笑った。
普通に良い人…何で友達出来ないんだろ…
あの虎雅が……?
今は契約をしないと何もしてくれないぞ…
そう琉依は笑って俺の背中を押す。
琉依もきっと怖かったのかな、避けられるような態度を取られるかもしれないって…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。