第48話

里子と彼女
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2021/09/04 16:41
虎雅と普通の世間話をしながら歩くこと約20分。

順番を外で待つ人々が沢山いるバイキング…食べ放題で有名な店に着いた。
黒崎 柚
こんなとこあったんだ…
九鬼 虎雅
前に見つけたらしい。
黒崎 柚
へぇ……で、その弟くんと彼女さんは?
九鬼 虎雅
先に来てるはずだし中で座って…って、もう案内されたから早くって催促の連絡きてたわ。
スマホを見ていた虎雅ははぁ…とダルそうに溜息を零すと一人で店内に入って行き、置いていかれた俺は慌てて後を追う。
相っ変わらず人使い荒いな、こいつ……
当たり前…であってはいけないことだけど、こういう虐められているのかどうかあやふやになりそうな付き合い方してると慣れてしまう。
黒崎 柚
…ったく……
聞こえないよう小さく呟いたところで前を歩いていた虎雅が止まり、俺も止まる。
女子
遅い。
九鬼 虎雅
悪いな。前に言ってた奴迎えに行ってから来たから遅れた。
虎雅が先に奥に座り、立ち止まっていると「あ、全然座っていいよ。」と女子の隣に座る男子から言われて俺は流されるように虎雅の横に座る。
九鬼 虎雅
先に一通り食うもん持って来てから紹介するか…
男子
だな。
頼んでくれ一通り食べるものを持って来て座る。

1人で先に食べ始めた虎雅を見てた女子は紹介くらいしてよ、困ってんじゃん、と言うと虎雅は溜息をつきながらも箸を置く。
九鬼 虎雅
お前ら3人でやれば良いだろ。
女子
別にそのくらい良いでしょ。
九鬼 虎雅
ダルっ…はぁ……お前に紹介するって言ってたのがこの同じクラスの黒崎。成績優秀運動優秀だけど学校ではぼっち。
黒崎 柚
……。
最後が余計過ぎる……
九鬼 虎雅
あとはお前らが言え。
九鬼 玲苑
ほんと虎雅雑だよな…俺は九鬼玲苑れおん。虎雅の家に引き取ってもらった里子。歳は変わらねぇと思う。
玲苑と名乗った男子の顔は虎雅や龍弥さんとは全く似てないが、性格の面では虎雅とそっくりだった。
黒崎 柚
よろしく。隣の子は…
如月 琉依
如月きさらぎ琉依るい。琉依でいいよ。下の名前は?
黒崎 柚
分かった。下は柚、黒崎柚。
如月 琉依
じゃあ、柚。よろしく。
黒いセミロングを持った琉依の目にはハッキリとした意見が言える自分がいた。

確かにこの目の人は他の人とよくもめる。


てか、九鬼玲苑と如月琉依って何処かで聞いたことがあるような気が……
黒崎 柚
…なぁ、虎雅。
九鬼 虎雅
何だ?
黒崎 柚
玲苑と琉依って、美術とか空手とか得意だったりする?
九鬼 虎雅
そっちのジャンルも知ってんのか。
黒崎 柚
だって……2人とも"日本一"だよね?
如月 琉依
まぁ、全国大会でずっと優勝してるからそうなるね。
九鬼 玲苑
俺の場合は判断しにくいけど、多分?
両方、ネットとかニュースとかで見たことがあった。

九鬼玲苑は絵画で大人やプロの人も参加する沢山のコンクール中、数々の最優秀賞や特別賞を掻っ攫う若き画家として。

如月琉依は空手で範囲は未成年になるが6年前から全国大会を含む公式試合や練習試合で全戦無敗を誇る空手家として。
黒崎 柚
マジか…
九鬼 虎雅
それで興味で人がよって思ったことを言い返して嫌われたのが琉依だけど。
如月 琉依
余計なお世話、別に気にしてないし。別に女友達がいなくても理解してくれる玲苑とかお前がいるならそれでいいよ。
その琉依の言葉が何故か胸にグサリと深く刺さった。
………理解してくれる人がいるなら良い、か…。
黒崎 柚
…ちょっと御手洗。
逃げるように席を立つと俺はトイレへ。

用を足したいわけじゃないけど、気持ち悪いこの気分を落ち着かせる必要があった。

トイレに座ってぼっと上の照明を眺める。

この光はいつ消えるのだろうか。

そんなことは俺には分からないけど、取り敢えず今は消えないことを願う。
黒崎 柚
……。
トイレに誰か入って来たら出よう。

それまでは…
黒崎 柚
…何も考えたくない……
…まぁ、ただの…現実逃避ってやつかな……





















コンコン、とノックがして俺は天井からドアへと視線を移す。すると…
如月 琉依
かなり入ってるけど大丈夫?
黒崎 柚
あぁ、うん…今出る…
初対面である俺なんかの心配してくれたのか琉依が様子を見に来た。

流石に時間も経ってるだろうし、と俺は立ち上がると水を流して個室から出る。
黒崎 柚
ごめんごめん…
如月 琉依
もしかして私と玲苑、色々と問題児な部分があるし…怖かった?
黒崎 柚
いや、そんなこと全然…
如月 琉依
なら、良かった…。玲苑が帰って来ないこと気にしててさ、何か怖がらせるようなことしたかって。
黒崎 柚
え、ほんと?
如月 琉依
ほんとほんと。まぁ、そう隣でずっと言われたらこっちも気にするよね。虎雅は全く気にしてなかったけど…
黒崎 柚
だろうね、アイツだし。
俺がそう言うと琉依は普通に笑った。


普通に良い人…何で友達出来ないんだろ…
黒崎 柚
あのさ、気分悪くしたら申し訳ないんだけど…何で琉依って友達が出来ないの?普通に良い人じゃん。
如月 琉依
んー…主な理由は虎雅が言ってた通り。あと思いつくのは…私が玲苑と付き合ってるから?
黒崎 柚
玲苑が何かしたってこと?
如月 琉依
不可抗力ってやつ、玲苑が里子ってのはさっき言ってたじゃん?
黒崎 柚
うん。
如月 琉依
これは虎雅に聞いてるかもだけど、アイツの両親は3年前に交通事故で亡くなっちゃってさ。
黒崎 柚
あー、聞いたことある。
如月 琉依
んで、その事故が起きた時、たまたま私と虎雅と遊んでいた玲苑がいたんだ。
黒崎 柚
……それだけで避けられるの?
如月 琉依
…4年前、玲苑の実の両親は強盗殺人に遭って"目の前"で亡くなっている。
黒崎 柚
じゃあ、避けられる理由って…
如月 琉依
一緒にいる人と死ぬから、ってさ。それが理由で玲苑は中学に入って周りから距離を置かれた。付き合ってる私も一緒。新しい友達が出来ないまま遂に3年生。
黒崎 柚
その人達、最低だね…
如月 琉依
でしょ?そんな時に虎雅が私達に会ってみたい奴がいる、って話してきた。
黒崎 柚
それが僕?
如月 琉依
そ、私も玲苑も驚いたよ。避けられるだけの存在なんだから。実際会ってみたら謙虚で何で会ってみたいって思ったのかが分からない。
黒崎 柚
あの虎雅の弟と彼女って聞いたらどんな人達なのか気になってさ。
如月 琉依
"あの"ってのは分かる。アイツ、変わり方が凄いし。
黒崎 柚
…変わり方?
如月 琉依
ん?知らないのか?アイツ、昔は今とは真逆で真面目だったんだ。両親の事故で変わっちゃったけど。
黒崎 柚
あれが真面目?嘘?
如月 琉依
ほんとほんと。泣き虫な友達のこと呆れはするけどいつも助けてあげる優しさは常にあったし。
あの虎雅が……?

今は契約をしないと何もしてくれないぞ…
如月 琉依
…って、ヤバい、時間がどんどん短くなってんじゃん。
黒崎 柚
トイレこもってたから…
如月 琉依
んなこと別にいいから戻ろ戻ろ。時間なくなる、まだ全然食べてないよな?
黒崎 柚
食べてない…
如月 琉依
なら、尚更戻ろう。
そう琉依は笑って俺の背中を押す。
黒崎 柚
……。
琉依もきっと怖かったのかな、避けられるような態度を取られるかもしれないって…
黒崎 柚
…琉依、改めてよろしく。
如月 琉依
こちらこそ、柚とは仲良くなれそうな気がするよ。

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