濁した言葉が指すのはるーのことだろう。
小学校時代の記憶を思い出してみるも、虫食い状態でこれが睦希だ、と断定できる記憶がない。
この穴を埋める為に、睦希がどこまで知っているのかを知る為にも凄い聞きたくないけどこれは聞いといた方が良いようだ。
コップにもう一度水を注ぐと俺は睦希の表情が見えるように睦希のスマホを間に挟んだ向かい側に座った。
まぁ、確かにグラつくと峰本と三室が調子に乗り出すから“表面上”はそうしたけど…
そう聞くと、睦希は小さく首を縦に振る。
ワンセグを見ていたと思っていたけど、その目を見ているとワンセグなんて見ていなかった。
何でもいいから光を見たい、そんな印象を受ける。
名前を聞くだけで頭に釘を刺すような痛みがした。
その痛みもこの場で露わにするわけにもいかず、噛み締めて我慢をする。
『強者は弱者を守る。それが私の当たり前だから。』
頭がガンガンして耳鳴りまでしている。
……なのに睦希の声だけはハッキリと聞こえていた。
大声を出すと同時に俺は立ち上がると睦希に馬乗りになって片方の手で睦希の腕を押さえ、もう片方の手でその首を締め始めた。
感情的になったら駄目だと言うのは分かってる。
ここでこの殺り方だと俺が捕まるのも分かる。
それでもどうしても我慢することが出来なかった。
あまりの痛みに遂に耐えられなくなった俺の両目からはボロボロと涙が溢れていく。
少しも抵抗をしない睦希。
変に思っていると、また雷が落ちたのかリビングが一瞬だけ明るくなる。
その一瞬、睦希の表情がハッキリと見えた。
この状況で浮かべる笑みが何に対しての笑みなのか、俺には想像出来なかった。
笑みの意味を考えていると、前のめりになっていたせいで腕を押さえていた手が段々とズレていき、指先がリストバンドを含む手首に触れる。
それと同時に俺は睦希の首から手を離した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。