第79話

十一人目 尊敬
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2020/08/02 12:49
黒崎 柚
…黒崎錬と同級生ってこと?
篠原 睦希
そう。本人は覚えてないと思う、1回も面と向かって話したことないし、それにまぁ……色々あったし…
濁した言葉が指すのはるーのことだろう。
小学校時代の記憶を思い出してみるも、虫食い状態でこれが睦希だ、と断定できる記憶がない。

この穴を埋める為に、睦希がどこまで知っているのかを知る為にも凄い聞きたくないけどこれは聞いといた方が良いようだ。

コップにもう一度水を注ぐと俺は睦希の表情が見えるように睦希のスマホを間に挟んだ向かい側に座った。
黒崎 柚
同級生だとして…それがどうかしたの?
篠原 睦希
今、どうしてるのかなって…あの頃少し休んですぐに学校に復帰したんだよ。テレビで見るような特に何もない表情してさ。周りの奴らも「よく普通の顔してるよね」って言ってた。
まぁ、確かにグラつくと峰本と三室が調子に乗り出すから“表面上”はそうしたけど…
篠原 睦希
…その時、正直に周りの奴らの目はどうかしてると思ったんだ、俺。
黒崎 柚
……どうかしてる、とは。
篠原 睦希
そのままの意味。何で普通に見えるのかが分からない。俺には表面上だけで凄い苦しんでいるように見えた。
黒崎 柚
その子が自殺しようとしたことに黒崎錬はすました顔しながらも苦しんでいたってこと?
そう聞くと、睦希は小さく首を縦に振る。
ワンセグを見ていたと思っていたけど、その目を見ているとワンセグなんて見ていなかった。

何でもいいから光を見たい、そんな印象を受ける。
篠原 睦希
その…琉希って子なんだけど…自殺しようとした子。色々と俺の相談に乗ってくれてたんだ。相談の話が終わった時にいつも錬の話をしてた。癖だとか嬉しそうな時の表情とか逆に不機嫌な時の表情とか…だから、分かったのかもな。
黒崎 柚
…琉希……
名前を聞くだけで頭に釘を刺すような痛みがした。
その痛みもこの場で露わにするわけにもいかず、噛み締めて我慢をする。
篠原 睦希
琉希のことは何年経っても尊敬する。強いからこそ弱い者の味方をしないといけないって、それが当たり前って…
『強者は弱者を守る。それが私の当たり前だから。』
黒崎 柚
…………やめて……
篠原 睦希
あといつも言ってた…
頭がガンガンして耳鳴りまでしている。
……なのに睦希の声だけはハッキリと聞こえていた。
篠原 睦希
…一人で悩み続ける錬が心配だ、って。
黒崎 柚
もうやめて!!聞きたくない!!!!
大声を出すと同時に俺は立ち上がると睦希に馬乗りになって片方の手で睦希の腕を押さえ、もう片方の手でその首を締め始めた。

感情的になったら駄目だと言うのは分かってる。
ここでこの殺り方だと俺が捕まるのも分かる。
それでもどうしても我慢することが出来なかった。

あまりの痛みに遂に耐えられなくなった俺の両目からはボロボロと涙が溢れていく。
黒崎 柚
今は過去その話をされることが何をされるよりも1番の苦痛なんだよ!頭がかち割れそうな程に痛くなって息をするのも苦しくなる…!
篠原 睦希
……。
少しも抵抗をしない睦希。
変に思っていると、また雷が落ちたのかリビングが一瞬だけ明るくなる。
その一瞬、睦希の表情がハッキリと見えた。
黒崎 柚
何で笑ってるの……
篠原 睦希
………早く殺、せよ…
この状況で浮かべる笑みが何に対しての笑みなのか、俺には想像出来なかった。
笑みの意味を考えていると、前のめりになっていたせいで腕を押さえていた手が段々とズレていき、指先がリストバンドを含む手首に触れる。

それと同時に俺は睦希の首から手を離した。
黒崎 柚
っ…!?睦希、お前…嘘だろ…

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