第86話

十二人目、十三人目 警戒
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2020/09/15 11:00
女子
あれ?睦希じゃん!
背後から名前を呼ぶ声が聞こえ、俺は睦希の背後に隠れるように1歩下がる。
篠原 睦希
ん?お前、ヨーロッパ旅行じゃ?
廣本 佳奈
いやーねー?行くんだけど、宿題が全部終わるまで駄目って先生が…
百鬼 彪
ヨーロッパに行ったら佳奈さん、絶対に勉強やらなくなるでしょう?
廣本 佳奈
ま、まぁ否定は…勉強する為に参考書を選ぼうと思ってね!睦希は?商店街で何してんの?
篠原 睦希
小学校の同級生と久しぶりに。
黒崎 柚
……。
早速、危険人物が……


ヨーロッパに行ってるはずの佳奈とその家庭教師をやっている百鬼先生。
睦希が真実半分嘘半分のことを佳奈に返したけど、百鬼先生に嘘が通じているかどうか…
百鬼 彪
こんな真夏日の中、長袖長ズボンとは暑そうですね〜…合宿の時にいた黒崎さんを思い出します。
廣本 佳奈
あの人、何気に日焼けとか気にしている感じなんで。
鋭いところをついてくる百鬼先生に佳奈が笑う。
帽子を被って下を向いているが、前からの視線がつばを突き抜けて刺さっている感覚がした。
今は下手な動きは出来ない。睦希の知人で人見知りだと貫くのが最善策だろう。
百鬼 彪
いやぁ、話は逸れますが黒崎さんって本当に不思議な方ですよね。
篠原 睦希
…どこら辺っすか?
百鬼 彪
全体的にです。皆さんに見えない奥深くまで見通しているような感じ…と言えば分かりやすいかと。彼並みに面白くて興味深い狼さんですよ、彼女は。
廣本 佳奈
アイツ、何考えてるのか全然分からないから面白いって言われても実感湧かないかなぁ…狼なのは何となく分かるけど。
黒崎 柚
……。
篠原 睦希
狼か…あ、ごめん。待たせちゃうから俺行くわ。
永遠と俺の話題を出すのをやめてもらいたい。
てか、一秒でも早くこの場から…百鬼先生がいるところから離れたい。
百鬼 彪
熱中症には気を付けてください。特に其方のお友達の方。
黒崎 柚
………心配、ありがとうございます…
ボソッと低めの声で呟くように言うと、俺は睦希に視線を送ってから百鬼先生の横を通り抜けた。
早足でその場から離れ、近くのコンビニに入ったところで追いかけてきた睦希と合流する。
篠原 睦希
お前、先生のお気に入りみたいだな?
黒崎 柚
全然嬉しくねぇよ。睦希もあの人は警戒しとけ。沖縄で少し話したけど、俺はあの人をただの家庭教師だと思えない。
それに澪晴のことも気になる。
あそこまで嫌悪感丸出しなのは珍しい。
人間だし好き嫌いがあるのは分かる。でも、澪晴は嫌っても本人の前でそれを表情に出すことは無い。

まぁ、興味深い対象ではある。
あの微笑みの裏に何が隠されているのか。今の俺には見えない。
大体のことが分かるこそ、分からないことには普段だと有り得ないくらいの興味が湧く。


百鬼彪先生……時間が空いたらちょっと調べるか?先生に直接聞くのもありだけど…
篠原 睦希
う〜ん…よく分かんねぇけど分かった。気を付ける。
黒崎 柚
ん。
少しでも涼もうとアイスを買って外に出ると、睦希がスマホを見始める。
横から見た限り、どうやらメモを見ているらしい。
黒崎 柚
へぇ…準備周到じゃん。
篠原 睦希
そりゃ、世間にバレたら人生更にパーになるから。
黒崎 柚
確かに。俺もバレたら人生終わるし、多分家族構成も柚ってこともバレる。
篠原 睦希
それは日本中に衝撃が走んだろうな。消えた神童の正体はあの世界的に有名な演出家と天才バスケットプレイヤーの娘でしたーなんて。
黒崎 柚
はっ、そん時は異名変えて神童から悪魔にしといてくれ。
篠原 睦希
まー、気にしなくて大丈夫だろ。俺、失敗しないんで。
自信ありげな表情の睦希。
人は口だけなら幾らでも言うことが出来る。
肝心なのは実際にその場に立った時だ。

幾ら自信があろうとも、いざ人を傷付けようとしたら余っ程の事情が無い限りは人間は躊躇するもの。
躊躇をしたら相手がこっちに気付いて終わり。
殺すか記憶に残らないくらいに動転させない限りは警察に話がいってお縄。

睦希こいつの覚悟がどれだけあるかはやってもらわないと分からない。
駄目そうだったらその時は……
黒崎 柚
……落胆させないでくれよ?睦希。
篠原 睦希
勿論。

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