興味本位に動く高校生とすれ違いながら俺はただただ歩いて行く。
人の死体を見に行きたいだなんて変な話だ。
『お前のやっているそれに意味はあんの?』
『……殺したい人がいるからバレないように人を殺す練習、かな?』
『へぇ…』
『あとは無能な大人の見せしめ。教師にも助けてもられない、警察にも助けてもられない。餓鬼1匹見つけることが出来ない頭の悪い奴らよ。6年経てば、少しは変わったと思っていたけど残念だ。』
『そうか。まぁ、どうでもいいけど…せいぜいそれを続けて後悔しないようにしろよ。』
『……どういう意味?』
『じゃ。』
『ちょっと待っ…』
最期に言い逃げされた。
後悔がないっていうのは俺の言葉から分かるはず。
仁が言っていた“後悔”にどんな意味が込められているのか…俺には全く分からない。
周りの人に聞こえないようポツリと呟く。
自分に分からないといつもこんな感じで分からない俺に腹が立つ。
もっと完璧にならないといけない。
完璧にならないとあのクソジジイを見返せない。
……何回考えても分からないものは分からない。
完璧になりたいなんて思っているのに、完璧な人間なんていないって自覚している。知っている。
“神童”って謳われた餓鬼も実際は味方でい続けてくれた人一人救うことが出来ない哀れな少女。
しっかりとした自分がいる、芯があるなんて言っているけど、どうだか……
1つしかない俺の中心に立っているのは誰なのか、段々と分からなくなっていくのを感じて俺は動かし続けていた足をピタリと止める。
……俺は俺だ、他の色には染まらない。
昔から貫いたのは“黒”一色、俺の色を変えようとしてくるやつは逆に喰らって黒に染めてやる。
昔から変わらない心がけ。
でも、何かが変わり始めている。
誰か教えて、なんて思っても言葉にならない。
いや、そのことを言える人がいないのか。
自己嫌悪になりかけた時、スマホが震えて俺はスルーしようかと思ったが、私情を挟むのもおかしいかと電話に出た。
いきなりの言葉に俺は固まる。
向かい合って話しているわけじゃない。
ただのスマホを使った機械音の会話でどうしてそんなことを聞かれるのか。
切られた電話を眺め、俺はお土産が売っていそうなお店へと行き先を変えた。
呑気な自分には少し呆れてしまう。
……未来で俺が崩壊するなんて知らないのだから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。