第27話

五人目 参考
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2019/12/30 10:02
俺が話したのは当たり前だが小学校の頃。
…そこに僕はいつもいなかった。

別にいたいとも思わなかったけど…みんなから望まれる僕を貼り付けているだけ。

みんなから一人離れているような気はした。
でも、それが嫌だとも思えないでほっておいたらいつの間にかいじめが始まっていた。

最初は無視。
次に本人がいる中の悪口大会。
その次は物を隠す。
その次は隠した上に壊す。
その次は机とかに落書き。
最後は直接叩きに来る暴力。

日に日に増える痣に溜息を零したけどそれも放置。

家では父親と毎日のように喧嘩。
虐待ではないけど、痣はさらに増えるし、絆創膏の量も増えたよ。

生きていない毎日が当たり前。
何をされても睨み返したらいけないし、怒っても、泣いてもいけない。

そんなことしたらさらにエスカレートする。

僕を泣かした人が優勝とかそんなゲームも聞いたことあったな。
泣かなかったから誰も優勝しなかったけど。

誰も僕を助けてくれない、そう信じた。

でも、信じたことは間違っていた。

隣の席の奴がさ「やっぱ見捨てたくない。」って言って一喝したんだ。
いきなり差し伸べられた手には驚いたな。

話を聞くと、前から何度も助けようとはしてくれたんだけど周りからやめろってしつこく止められてたらしいんだ。

そいつ、それからはいつも僕の隣にいてさ。
僕は何回も「関わるな」って言ったのにそれでもずっと隣にいた。学校でも帰り道でも。

いつの間にか一人じゃ無くなっていた。
一人じゃなくて二人。
あまり変わらない人数だけど、何か一人の時とは違う感じがしてた。

…………………でも、その子はいなくなった。
仲井 知歌
何で?
黒崎 柚
僕のせい。その子がいじめられていたことに僕は気付けなかった。だから、最後に窓からその子は飛んだ。
仲井 知歌
……自殺を図ったの?
黒崎 柚
そういうこと。訃報は聞いてないから死んではいないだろうけど、その日以来僕はその子と会っていない。
流石に自殺ということが出てくるとは思わなかったのか知歌のメモする手が止まる。
黒崎 柚
分かった?バッドエンドな意味。友達じゃないけどその子は僕にとっては不思議な存在。いじめられても僕はその子がいるならハッピーエンドだった。
でも…と少し俯き僕は言葉を続ける。
黒崎 柚
小6でどんでん返し。ハッピーエンドを迎えるはずのシナリオはバッドエンドでおしまい。主犯の奴と手を取り合うことが出来たらハッピーエンドなんだろうね。
思っていないことを口にしてみる。
主犯である三室と峰本はゴミ以下の存在。
手を取り合うなんて死んでもごめんだ。


でも、そういうことでシナリオ通りにいじめられっ子も"みんなで仲良くなりたい"っていう何とも可愛らしいことを思っていると思わせる。


知歌のやる気も上がることだろう。
仲井 知歌
ふ〜ん…了解了解。
黒崎 柚
それじゃ、伝えることは伝えた。
メモを書いている知歌を置いて俺は立ち去る。
薄暗くなり始めた空が俺を複雑な気持ちにさせた。
黒崎 柚
はぁ……
腹立つな。
何に腹が立っているのかは分からないけど。
よく分からないけど何かムカつく。
その時、後頭部に強い衝撃を受けて俺は頭を抱えてしゃがみ込む。
黒崎 柚
っ…何なの…ボール?
ころころと転がるサッカーボールを見て、このまま蹴り飛ばしてやろうかと思ったがそれはただの八つ当たりでしかないからやめた。
男子
ご、ごめん!柚ちゃん!
黒崎 柚
!……采斗か。
宮田 采斗
シュート練習してたらゴール越えちゃって…
ボールを拾いながら采斗が頭を下げる。
黒崎 柚
大丈夫、気にしないで。
宮田 采斗
ありがと!
男子
采斗〜!早く戻ってこい〜!
宮田 采斗
うん!じゃ、気を付けて帰ってね。
ばいばい。
そう言って、采斗は練習に戻った。
黒崎 柚
相変わらずのお人好しで……っ!
呟き、立ち上がったところで今度は背後から誰かに押される。
次は誰だ、と思い振り返るが、俺を押した意外な犯人を見て苦笑を浮かべた。
黒崎 柚
どうしたの?
漣 悠翔
一緒に帰りましょうよ、柚先輩・・・
悠翔が俺の顔を覗き込み、少し微笑む。
俺は返事をする前に周りを見回した。
黒崎 柚
…うん。いいよ、帰ろうか。
あまり人がいないからOKを出す。
もしこれで人が多い時間帯だったら申し訳ないけど一緒だと目立つから帰れない。


将来有望な悠翔といじめられっ子な俺でデキてるとか変な噂たてられるなんて悠翔が可哀想。
漣 悠翔
こんな時間まで何やってたの?姉さん・・・にしては珍しいじゃん。
学校から少し離れたところで悠翔がいつものように話しかけてくる。
黒崎 柚
クラスの人と話しててさ。
漣 悠翔
さらに珍しいね。
黒崎 柚
まぁ、いつもなら帰るけどたまには良いかなって感じ。
漣 悠翔
そっか。
一人じゃない帰り道は何故か不思議な気分になる。
何気ない会話があるだけ。
歩く道は同じだから景色も変わらない。
ただ……帰る俺の隣に誰かがいるだけが違う。
黒崎 柚
悠翔、結依と玲依にも何かお菓子買ってから帰ろうよ。
漣 悠翔
いいよ、姉さん奢りで。
黒崎 柚
はいはい。
俺が無意識に言った言葉にどんな意味があるのか。
それはきっと、心のどこかで一人になるまでの時間を先延ばしにしたいって願ったからだろう……。

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