第55話

咲かない花
621
2020/10/01 12:46
男だったり女だったり、子供だったり大人だったり…

半端な存在の俺は果たして何者なのか。

昔からずっと考えているが、正解が分からない。

まぁ、もしかしたら“分からない”ということが正解なのかもしれない。
…………………ほんと、俺ってXX。
黒崎 柚
…つ、椿。
本多 椿
はい?えっと、どちら様……あっ、も、もしかして柚ちゃん!?
黒崎 柚
うん…やっぱ変、かな?
本多 椿
ううん、凄い似合ってる!
黒崎 柚
そう…それなら良かった…
何だかんだで言いくるめられた俺はお母さんと結依によって浴衣を着せられて、みんなが言っていた集合場所に着いた。

人が多い、そして歩いていると周りの人の視線が異常に集まる…とか精神的ダメージをかなり食らいながらも俺は頑張って零しそうになる溜息を飲み込む。

みんな浴衣で私服だとある意味目立ったかも…
本多 椿
柚ちゃん来たよ!これで多分全員じゃないかな?
廣本 佳奈
あ、やっとー?この調子で沖縄行く時も遅れたら置いて………え、誰?
尾木 莉緒
ほんとだ!誰!?
黒崎 柚
遅れてごめん…浴衣着るのも祭り来るのも初めてで色々分かんなくて…
廣本 佳奈
マジで柚なの!?
黒崎 柚
う、うん…
廣本 佳奈
これは驚き…
寄光 はな
おー、いつも下向いて顔あんま見えないけど、ちゃんとすれば柚ってめっちゃ良い感じなんだねー
ちゃんとすればいつもよりかなりマシになるのは俺も知っている。
でも、めんどくさいのが本音でちゃんとすれば周りからの視線が集まって何か怖い。
藤川 仁
話してんのもいいけど、花火までに屋台を見る時間が減るぞ。
遠山 愛梨
確かに。佳奈、全員集まったならもういいじゃん。行こ。
廣本 佳奈
そうだね。じゃ、はぐれないように気をつけながら行こー。
地位は愛梨の方が高い印象があるが、人を引っ張るリーダーシップ的なのは佳奈が1番優れている。
椿が祭りの話を佳奈にしたのは正解だ。
それに仁も虎雅の次に権力が強い、だから男子を集めるなら仁が話に乗ればスグに集まる。


今考えると、椿が勇気を出したから今みたいにいい感じに話が進んで俺がここにいるのか…

祭りなら学校とは違って、個人の会話の内容がより深いものになりやすいはず…だから、何か使えそうな情報が手に入ったらいいけど…
黒崎 柚
……はぁ…
………そうでないと、現在進行形で受けている精神的ダメージの量に合わなくてムカつく。
本多 椿
柚ちゃん、ありがと。来てくれて。
黒崎 柚
ああ…約束だからね…。したからには守るのが当たり前だし、いいよ。
本多 椿
良かった…あ、そう言えば、天喰君は後から来るらしいよ。
黒崎 柚
朔?
本多 椿
うん、何でかは分からないけど…
黒崎 柚
まっ、来るなら良いじゃん。にしても…みんな受験なのに余裕そう。
本多 椿
そこは〜…合宿あるから余裕があるんじゃないかな?
黒崎 柚
観光メインになりそう。
本多 椿
それは私も思う。でも、楽しいなら良いんじゃないかなぁ…
黒崎 柚
…僕からしたら、何やってるんだろうって感じだけどね。
本多 椿
柚ちゃんからしたら、ね…でも、案外楽しいかもよ?
黒崎 柚
……どーだか。
報復があったとしてもなかったとしても、何でいじめられっ子がクラスの人と旅行に行かなきゃいけないんだろう、とは思う。

こんなことしてる場合じゃないのに…ってさ。
篠原 睦希
…お前、咲けば綺麗な花になるのにずっと蕾のままで勿体無いよな。
そんなことを前を歩いていた睦希にいきなり言われ、俺は戸惑うしかなかった。

睦希はあの階段で話した時以来、報復を続ける俺の警戒対象に入っていた。
錬のことを知っている睦希がいつ、どの行動を見て俺が錬だと分かるか予測がつかない。
黒崎 柚
いきなりどうしたの?
篠原 睦希
特に深い意味はないけど…なっ、虎雅も思わね?
九鬼 虎雅
何で話を振るのが俺なんだよ…性格が拗れてるせいで宝の持ち腐れになってるだけだろ、そいつは。
黒崎 柚
性格拗らしててすいませんね。
九鬼 虎雅
別にその合理的な思考のおかげで助かることはあるからまぁどうでもいい。
黒崎 柚
褒めてるのか馬鹿にしてるのか…
九鬼 虎雅
さぁな。
篠原 睦希
環境が悪いから咲けないんだろうけど…
黒崎 柚
自覚してるならどうにかし……いや、もう睦希は自覚して変わったか…
篠原 睦希
どうだろ?
黒崎 柚
変わった。お隣の人は相変わらず人の扱いが最低な奴だけど。
九鬼 虎雅
俺は…
俺が軽く嫌味を込めながら虎雅の背に向けて言うと、虎雅は少し黙って……
九鬼 虎雅
……ただ“変わる”のが嫌いなだけだ。
と、ポツリと呟くように言った…

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