第100話

十七人目 小林修哉
381
2021/11/03 11:00
廊下に響くのは俺の足音だけ。
部活の人達の声は遠くから聞こえるが、近くで校舎内を歩いている人はいないらしい。
黒崎 柚
はな達が終わったら修哉だな…
出席番号8、小林修哉。
部活は元陸上部、委員会はなし。
頭は中の下から下の上、運動神経は良い方。
取り敢えず、まぁ変態野郎で俺への痴漢常習犯。
流石にウザったらしい。
痴漢だけでも勘弁なのにそこに虎雅を後ろ盾にした暴力もあるからランクはS。
殺してやりたいところだが、澪晴は脅して使えばいいと言っていたから悩むところ…はなのが終わり次第、睦希に頼んで周辺を探ってもらうか…
修哉をどうやって脅すかを考えながら教室に向かっている途中、突然横のドアが開いた。
百鬼 彪
おや、黒崎さん。
…本当に今日はついてない。
黒崎 柚
こんにちは。
百鬼 彪
こんにちは。あぁ、そうだ。明日、放課後に時間ができたのですが前の話の続きでも聞きますか?
黒崎 柚
……。
返事に一瞬迷った。
この世には知らない方が幸せなこともある。
澪晴の話はそれに相当するような気がしたのだ。
黒崎 柚
…明日まで時間貰っていいですか?授業の時に伝えます。
百鬼 彪
いいですよ。意外ですね、前回はかなり気にしていたようなのですぐに返事がくると思いましたが。
黒崎 柚
心変わりというやつです。
百鬼 彪
成程。てっきり井上先生に関する何か噂を聞いて、裏の話を聞くことを躊躇しているのかと思いましたよ。
怖いくらいにピンポイントを突いてきた。
前回理科室で話していた時はそれまでの流れで聞く気があったが、少し時間が経って改めて考えると聞くのが怖くなってくる。

澪晴は俺のせいで虐められるようになった。
澪晴はクラスの人に復讐をした。
…で、睦希の兄を殺した。
それらを知った今、次に考えることは1つ。

何があって、澪晴は復讐をしようと思ったのか。
俺のように人それぞれに合った裁きを与える報復ではなく、与えられた危害と同等かそれ以上の苦痛を与える復讐となると澪晴に復讐をする気になる程の何かあったとしか考えるしかない。

もしこの答えが澪晴への虐めと同じく、俺が原因であるとしたら……とても耐えられる話じゃなかった。
黒崎 柚
そうですね…知らぬが仏って言うじゃないですか?まぁ先生から見たら何を言っているんだと思うかもしれませんが。
百鬼 彪
確かに満点の黒崎さんが使う言葉ではありませんね。
百鬼先生に満点と言われてあのことを思い出した。
黒崎 柚
そう言えば先生、少し聞きたいことがあって昨日の……
そこまで声にしたところで俺は黙る。
いくら疑いが強いとはいえ、椿と采斗を屋上から落としましたか?って聞くのは失礼極まりない。
何聞こうとしてんだ…
百鬼 彪
昨日の?
黒崎 柚
…すいません。失礼なことを尋ねようとしていました。
百鬼 彪
別に構いませんよ。黒崎さんが聞きたいことでしたら僕が知っている限りはどんなことでも答えましょう。
黒崎 柚
……。
普通に聞いたらかなり怪しい言葉。
だが、そんな怪しい言葉も百鬼先生が言うと本当に答えそうな気がしてくる。
黒崎 柚
……昨日、椿が亡くなって采斗が怪我を負ったじゃないですか。それに関して何か知っていること、ありませんか?
百鬼 彪
あぁ、確かにあの電光掲示板に狼へなんて書かれたら僕を気にしますよね。
黒崎 柚
…疑われているのに余裕ですね。
百鬼 彪
そう見えますか?実際、僕はあの件に全く関わってないですよ。僕以外にも黒崎さんのことを狼と呼ぶ人がいることには驚きですけど。先に言っておくと、現時点で僕は満点の彼と黒崎さんにしか興味がありません。他の人々が何をしようと知ったことではない。電光掲示板で堂々と犯罪予告するのは面白いですが、監視カメラのデータを壊すだけなんて爪が甘すぎます。
目、言葉から嘘は見えない。
本当に百鬼先生はあのことに関わっていない。
そして、本当に澪晴と俺にしか興味が無い。
百鬼先生が関係ないとなると一体誰が…百鬼先生と話していたあの場を誰かが見ていたってことも…見ていたとしたら何処からだ?前の澪晴との通話を聞かれるのは非常に良くない。
……と言うかちょっと待て。あの時、百鬼先生はいつからあそこに…それに監視カメラのデータが壊れていたこと、何で知って……
百鬼 彪
どうしました?顔色が悪いですよ?
黒崎 柚
気の所為でしょう。
百鬼 彪
…3年D組は黒崎さんがいてこそ、成り立っていますね。
黒崎 柚
?…いきなり何ですか?
百鬼 彪
いえ、僕が夏休みと1週間見た上での感想です。そんな気にすることじゃありません。ただ…黒崎さんの存在は大事なストッパーになっている、これは間違いないでしょう。
俺の存在が大事なストッパー?そりゃ、虐められる役がいないとクラスの平穏は乱れるだろうけど…それをわざわざ言うなんて…
黒崎 柚
不思議な先生ですね。
百鬼 彪
よく言われます。…あっ、帰ろうとしていたところを止めてしまって申し訳ないです。僕が聞きたいことは終わりましたけど、黒崎さんはまだありますか?
黒崎 柚
特には。あれに先生が関わっていないことを知ることができて良かったです。
百鬼 彪
変な誤解をされなくて良かったです。では、気を付けて下校してください。
黒崎 柚
はい。さようなら、先生。
百鬼 彪
さようなら。
先生から引き止められたことから解放された俺はまた教室に向かって足を進める。
地味に時間取られたし、もう早く帰りたい。
黒崎 柚
……。
百鬼先生は関係ない…そうなるとさっき考えた通り、椿と采斗の犯人は百鬼先生とのやり取りを見ていたクラスの誰かか、もしくは百鬼先生と同じような思考を持った誰か。

前者は…百鬼先生が俺を狼と呼ぶのを知るのは簡単だけど、防犯カメラの映像が壊されてたし考えにくい。
後者の方が可能性としては高いが、後者だと椿と采斗を狙ったのは偶然、もしくは何かしらの方法で俺のやっていることを知る人物になる。
果たして、そんな人が俺の知り合いにいるか?
黒崎 柚
あぁ…そもそも知り合い自体、そんないないか…
ちょっと虚しい結論に辿り着いた。
言葉にすると自分のことが更に嫌になってくる。
黒崎 柚
……はぁ…
やっと教室に着いた…って……
黒崎 柚
えっ?
ガチャガチャと金属音だけが聞こえる。
教室には鍵がかかっていたらしく、普通の開け方じゃ開けることが出来なかった。
黒崎 柚
いや…リュック、中…
中にリュックあるの見た上で担任は鍵をかけたのか?
黒崎 柚
……鍵を取りに行くしかないか…
素である錬のような少し低めの声が漏れる。
諦めて鍵を貰う為に職員室に行こうと踵を返した時、微かに廊下に光が漏れた。
黒崎 柚
ん?
教室の中は壁で見えないが、壁の下の方に嵌め込まれたスライド式の扉。その中の一箇所の隙間から強い光が漏れていた。
黒崎 柚
…教室、誰かいる?
何も反応はない。
でも、急に光ったから誰かはいるんだろうし、教室に別に入らせろとは言わないから荷物だけ取ってもらいたかった。
黒崎 柚
はぁ…
壁の上の方にも窓が嵌め込まれている。縦30cmくらいだから多分俺は通れるだろう。
鍵が開いているのが見えたから俺は少し背伸びして上の窓を開けると、枠を掴み力を入れてそのまま体を持ち上げ上の窓から教室へと転がるように入った。
黒崎 柚
…………あぁ、成程…
立ち上がり教室内を見て、細く息を吐く。
黒崎 柚
うん…
後ろを見て、更に溜息。
何から尋ねたらいいかを考えた末、聞いたのは…
黒崎 柚
…何をしてる?
その場の状況を理解した上での質問だった。
壁に背をつけくの字でお腹を押さえている睦希にその横に座り涙を零しながらスマホを握っている美彩、そして下着姿で覚悟を決めた表情のはなと血走った目で異常に興奮している修哉。

修哉がはなを襲って、睦希は止めようとしたが殴られ痛みに動けず美彩も助けようとするもはなが大丈夫と言い張って覚悟決めた、とか…そんな感じだろ。
新坂 美彩
ゆ、柚…
寄光 はな
……。
小林 修哉
どっから入って来て……取り込み中だから用ないならさっさと帰れ。
黒崎 柚
質問の答えになってない。…まぁ僕は帰りたいだけだし、構わないけど。
正直、修哉がどうしようとあまり興味無い。
最後にはボロクソにしてやる予定だからその前の思い出作りには丁度良いだろう。


それよりも早く帰って、授業終わりに百鬼先生から渡された大量の宿題やって、報復の続き考えて、お母さんの帰り遅いから皆の夕食作らないと…
黒崎 柚
それじゃ。
自分の机の上にあったリュックを背負い、教室から出ようと入口に向かう。あとは鍵を開けて出るだけ、そんな時に誰かに手首を掴まれた。
黒崎 柚
…何?
篠原 睦希
…待、て…
黒崎 柚
……。
待てと言われたから取り敢えず待つ。
かなり強く殴られたのか蹴られたのか、睦希は何回も咳き込んでその後の言葉が全然聞き取れない。
黒崎 柚
聞こえない。
篠原 睦希
……助けてくれ…
黒崎 柚
助けて、か…
篠原 睦希
考えてることは…想像、つく…矛盾してる、って…分かってる…
黒崎 柚
なら何故、助けを求める?
篠原 睦希
…2人が友達で…俺が、無力だからだ…頼む…!
睦希の弱いことを自覚しても諦めることが出来ない目は拓哉に凄い似ている。
黒崎 柚
……悪かったよ。少し意地悪だった。
その場に膝を着き、手首を掴む睦希の手を取る。
睦希のリストバンドを触ったり見る度に自分の力の無さを実感する。もっと周りを見れたら、もっと変化に気付けたなら睦希は傷付かなかったのかもしれない。
黒崎 柚
前の睦希は…見てるだけ。でも、今回は助けようとはしたんだ。失敗に終わろうとも睦希は勇気を振り絞って頑張った…その事実に変わりはない。
篠原 睦希
……。
黒崎 柚
…大丈夫。僕は許した人には優しいつもりだ。許した上に前に進んだ君が助けを求めるのなら僕は真摯に応えよう。
背負っていたリュックを下ろして立ち上がると同時に俺は修哉の頭目掛けて、足を振り上げた。
黒崎 柚
はなと美彩は後で話し合うとして…さぁ修哉。断罪の時間だ。

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