第33話

給食の時間
721
2020/02/04 09:25
黒崎 柚
……何で女子ぼっちの班なの…
辻井 陸
そりゃ、麻姫が休んでその代わりに天喰が来たらな。
天喰 朔
みんな下の名前で呼びあっているみたいですし、僕も朔でいいですよ。
麻姫が消えて、代わりの朔。

周りに比べてどこか違う雰囲気の班に溜息を吐く。
相澤 駿
朔って何処から転校して来たんだ?
天喰 朔
まぁ、皆さんの知らないところです。
黒崎 柚
へぇ…前の学校はどんな所だったの?
天喰 朔
う〜ん、今まで不登校だったので前の学校は小学校になりますかね?
黒崎 柚
じゃあ、小学校は?
天喰 朔
家がお金持ちで人に嫉妬されてお母さんが亡くなったことがきっかけでいじめられました。
朔が特に気にしていないのか微笑んだまま爆弾発言をかまし、班に変な空気が流れる。
辻井 陸
な、亡くなった?
天喰 朔
はい、病気で。で、別に僕自体はいじめなんて特に気にしていなかったんですけど、ちょっと色々あって不登校になりました。
ざっくりとした説明をすると、噛み付けばいいのにわざわざパンをちぎって口に運ぶ。


確かに持ち物的にも富裕層だな、こいつ…
天喰 朔
ほんといじめってしょうもないです。しょうもないけど、そのしょうもないことで人は追い込まれて亡くなることもあるんです。そう思いませんか?
いじめの話に対する俺の反応が気になるのか、向かいに座る駿からの視線を感じる。

そんな俺はるーを思い浮かべていた。
黒崎 柚
………そう、だね…。
でも…と俺は言葉を続ける。
黒崎 柚
いじめがあることで平和は訪れるよ。一人が犠牲になれば平和、そう考えるといじめは良くないとは思うけど完全に否定することは出来ない。あくまで僕の意見だけど…
俺がいじめられれば誰かが犠牲になることはない。

全員から嫌われとけば助けようとする人も消えて、るーみたいになることもないだろう。

俺は自分が弱者だと思ったことはない。

平和の為にわざと弱者に成り下がっているだけだ。
天喰 朔
じゃあ、平和の為に自らを犠牲に?
黒崎 柚
ああ…
相澤 駿
……。
心配そうな目で俺を見る駿。

我に返り食べる手を止めると、横に座る朔を見た。
天喰 朔
何となく状況は分かりました。このクラスの生贄は柚さんですね。
相澤 駿
おい、朔。
いじめを嫌う駿が少し低い声で朔を制す。

…が、朔は止まらない。
天喰 朔
柚さん。今までにどんな人生を送ってきたんですか?僕も教えたんですから教えてくださいよ。
想像以上に賢い…

軽く誘導尋問みたいなことまでやりやがる…

……これは引いたら俺の負けだ。
黒崎 柚
…君が僕のことを知るのに相応しい人って思えたら教えてあげる。
天喰 朔
!………臨むところです。
辻井 陸
仲良くなれそうで良かったじゃん。
黒崎 柚
別に…
相澤 駿
いや、仲のいい人は1人くらいはいた方がいいよ。1人で抱え込むと絶対に辛いだろうから。
ご最もな意見に俺は苦笑いする。
黒崎 柚
そんなこと分かってるさ…。でも、分かっててもどうしようもないことってあるんだよ。
呟きは段々と小さくなっていく。
黒崎 柚
作りたくなくて作らないんじゃない…作るのが怖いだけ。
失う辛さを知っているから俺は作れない。

また誰かを失うのが怖い。

今だって拓哉と颯斗を失ったら…と考えるだけで周囲の温度が何度も下がったような気がする。
黒崎 柚
…ごめん、何か暗くした。気にしないでいいよ。
相澤 駿
そういうこと言われると、尚更気にするよ。
駿はわざと冗談っぽくそう言った。

でも、その目は本当に心配に思っている目。
黒崎 柚
大丈夫大丈夫、僕には家族がいてくれたらいいの。可愛いアイツらがいれば僕はどんなことでも乗り越えられる。
何があろうと俺の命に代えてでもアイツらは守る。

昔からその思いは変わらなかった。

それは今も当たり前できっと未来になってもこの思いは変わらない。
天喰 朔
家族思いでいいですね。
黒崎 柚
僕にとっては普通だよ。
相澤 駿
家族思いなところが柚の良いところだよな。
黒崎 柚
そうかな?ありがと。
辻井 陸
この班でこんなに会話が続いたの凄い久しぶりかも。
相澤 駿
確かに。
天喰 朔
そうなんですか?
陸の言う通り、普段ならこんなに話さない。

そもそも僕が話しかけるなオーラを撒き散らしているし、いつも2人が話しててたまに麻姫がその会話に入る程度。

班全体での会話は初めてだと思う。
辻井 陸
多分…朔が来たからだな。
相澤 駿
無言の柚に話しかけに行く勇気は尊敬するよ。
天喰 朔
えー、それ褒められているのかよく分からないんですけど。
3人の会話が始まり、俺は給食を食べ進める。

すると、そんな俺に暇を与えないように朔がまた話しかけた。
天喰 朔
柚さんは僕がこの班に来て嫌じゃなかったですか?
何でこんなに話しかけてくるんだよ…

俺がいじめられてるって分かってるくせに……
そんなことを思っていると、ふと脳裏に毎日毎日話しかけんなって言ってたのに執拗いほどに話しかけに来ていたアイツが浮かぶ。

ふいに開けていた窓から吹き込んだ風が女性的に見える朔の髪を揺らした。
あぁ、また思い出した…
黒崎 柚
……別に嫌じゃないけど…朔を見てると何だか辛い、かな…。
朔の質問に俺は無意識にそう返していた……

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