第61話

九人目 自爆
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2020/05/02 11:00
案内された席に座り、店主のおじいさんに注文。
美味しいと予想したケーキとパフェに少し期待を膨らませながら俺は外を眺めていた。
黒崎 柚
早く来ないかなぁ…
おじいさん
お待たせしました。ショートケーキとパフェ、オレンジジュースです。
黒崎 柚
おっ、ありがとうございます。
店頭のサンプルと全く同じケーキとパフェに少しテンションが上がる。
一口食べて俺のテンションはさらに高くなった。
黒崎 柚
おじいさん、これめちゃくちゃ美味しいですね。
おじいさん
そうかい?
黒崎 柚
使ってる果物も新鮮ですし、ジュースも100%果汁ですよね?
おじいさん
おぉ、よく分かったね。お嬢さん。
黒崎 柚
甘いの大好きなので。失礼なことお聞きしますが…これ凄い美味しいのに何でこんなに人少ないんですか?
おじいさん
駅から遠いのとあとは学校とかが無いからお客様があまり来なくてね。近くのホールに用事がある人がたまに来るくらいなんだよ。
黒崎 柚
えぇ、勿体ない…
今まで食べたケーキの中で1番美味しい。
これ、絶対に有名になれる。
何とかならないかな。

芽衣の報復中にも関わらず、美味しいケーキを有名にする方法を考えていると1つ良いことを思いついた。
黒崎 柚
このケーキ、僕のSNSに載せて紹介しても良いですか?
おじいさん
良いけど…写真を撮るなら一旦他のケーキも出すかい?
黒崎 柚
良いんですか?お願いします!
SNSを使って錬で広めたらいい。

昔、使え使えと周りから言われて錬のアカウントを作って撮影現場の写真とかを載せたりしていた。
まぁ、テレビから消えたと同時に全く使ってないけどフォロワーの数は今も変わらず凄い多い。
おじいさん
はい、どうぞ。
おじいさんがお皿に彩りよく沢山の種類のケーキを並べて机の上に置いてくれ、俺は写真を撮った。
おじいさん
良い写真、撮れたかな?
黒崎 柚
撮れました!えっと、ここのお店の名前は何ですか?ショーウィンドウを見て、入ったもので…
おじいさん
それは嬉しい、ここお店はSweetAngelって言うよ。
名前からして美味しそう……
黒崎 柚
SweetAngelですね。このお店、絶対に有名になりますよ。
おじいさん
なるといいなぁ…
黒崎 柚
スグに有名になりますよ。あ、このケーキ持ち帰りでお願い出来ますか?
おじいさん
これ、全部かい?
黒崎 柚
全部で。
頷きながらそう言うと、おじいさんは驚きながらもにこやかに微笑んで「かしこまりました。」とお皿を持っていなくなった。
俺の場所をばらさない為にも2、3日置いてから載せるとして…
黒崎 柚
…いや、今しといた方が良いのか?
あとから載せた方が怪しい奴だよな…
今ならこの格好でフォロワーの人が来たとしても変装してお忍びで来てますって言い張れば良いし…
黒崎 柚
やるか…
コンタクトを外してケースにしまうと、俺は滅多に開かないSNSを開いてSweetAngelとお店の名前、住所、さっき撮った写真、俺の感想を載せた。

投稿すると同時にピコンピコンといいねと拡散の通知の音がうるさい程に鳴り響いて、俺は慌ててミュートにする。

「久しぶりの投稿ですね!近いうちに行きます!」
「錬君オススメなんて絶対に美味しいに決まってんじゃん、行かなきゃ」

なんてコメントに苦笑を浮かべていると、いつの間にか隣におじいさんがいた。
おじいさん
錬君?
黒崎 柚
あ、あ〜……変装してお忍びで…?
用意してた言い訳声を低くして言ってみると、おじいさんは信じたのか驚きながらも机にケーキが入った箱を置いた。
おじいさん
君があの……全く分からなかったなぁ。
黒崎 柚
甘い物好きで来ちゃいました。あ、全部でおいくらですか?
おじいさん
いや、いいよいいよ!黒崎君にこのお店のことを広めて貰えたんだから。それだけで十分だよ。
黒崎 柚
それは申し訳ないです。何か…
おじいさん
じゃあ、折角だしサインを書いてもらっても良いかな?
黒崎 柚
もちろん。
絶対にお店が赤字になるのにおじいさんは俺が拡散したこととサインだけで良いと言った。
貰った色紙にSweetAngelさん宛でサインとお礼のメッセージを書いていると外から…
仲井 知歌
堕ちろ!!!
…と知歌の声が聞こえた。
おじいさん
え?
黒崎 柚
……。
知歌の言葉に窓の外を見たおじいさん。
俺はペンを動かす手を止めて声のする方向に頭を動かすと、知歌と芽衣が道路に向かって倒れていっているのが見えた。

道路には丁度大型トラックが走っている。
おいおい…このタイミングで?
そう思った刹那、トラックから大きなブレーキ音が鳴り響いて衝突音が2回。
近くの壁や地面に赤い血が飛び散り、地面にはピンクっぽい何かの塊が転がっていた。
道を歩いていた人がトラックの前を見るなり、道端で思いっきり嘔吐している。
おじいさん
き、救急車…!
我に返ったおじいさんが走ってカウンターに戻ると電話をかけ始める。

俺はただただトラックの方を見つめていた。


さっき2回音鳴ったよな…
もしかして、知歌……芽衣を押そうとしてミスって自爆して一緒に轢かれた?
黒崎 柚
……まぁ…何でも良いか…
別に知歌が死のうと俺が不利になることないし。


ぽそりと呟くと俺は色紙に「黒崎錬」と書いて、カチッとペンにキャップを被せた…。

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