「神月政宗」と書かれた警察手帳を見せながら、真夏にスーツを着た若い刑事は敬礼をした。
見てしまったから店から出ようにも出れなくなってしまい、俺は今持ち帰るケーキを一旦冷やして貰いながら新しいパフェを頼んで食べている。
あの人…確か、学校にも来てたな……
そもそも事故現場において刑事が出ることはない。
捜査一課は強行犯、普通事故は交通部が対処する。
…まっ、学校で見たことを含め考えると、神月さんがいるのは知歌と芽衣があの3年D組だからだろう。
でも、今回俺は何も手を下していない。
知歌が勝手にミスって一緒に轢かれただけ。
何も話さずに抜けるのは無理だと思い、俺はパフェを持って立ち上がるとおじいさんと神月さんのいる場所から1番近い席に座った。
目を見せないように俯くと口を開く。
思い切って聞いてみると、神月さんは何とも言えないような表情でまぁ…とだけ答えた。
一礼をして神月さんは店から出て行った。
神月さんが出て行った扉をじっと見つめながら、何処か違和感があるのは何故だろうと自分に問う。
考えたところで分からないけどね。
予定とは違うけど、まぁ芽衣の報復は完了した。
劇で精神的に折ってプライドをボロクソにして、最後は知歌と一緒に肉塊になった。
てか、結局知歌は何をしようとしたんだ?
やっぱり芽衣を突き飛ばして轢き殺そうとしたのに、どこかを掴まれたか何かで自分までトラックの前に飛び出して轢かれた?
書いた色紙を渡して席を立つと、おじいさんから冷やしてもらっていたケーキを受け取る。
辞去した俺は事故現場の横を通っていた。
神月さんが他の警察官と何か話しているのを横目に血に染まった赤黒い道路を一瞥してからその場を去る。
取り敢えず、沖縄前はこんなもんだろ……
ミスった知歌はまぁ…どんまい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。