第62話

九人目 状況
591
2020/05/04 13:34
神月さん
捜査一課の神月こうづきと言います。
「神月政宗」と書かれた警察手帳を見せながら、真夏にスーツを着た若い刑事は敬礼をした。

見てしまったから店から出ようにも出れなくなってしまい、俺は今持ち帰るケーキを一旦冷やして貰いながら新しいパフェを頼んで食べている。
黒崎 柚
……。
あの人…確か、学校にも来てたな……
そもそも事故現場において刑事が出ることはない。
捜査一課は強行犯、普通事故は交通部が対処する。

…まっ、学校で見たことを含め考えると、神月さんがいるのは知歌と芽衣があの3年D組だからだろう。
でも、今回俺は何も手を下していない。
知歌が勝手にミスって一緒に轢かれただけ。
おじいさん
被害者の方は…
神月さん
残念ながら即死でした。
おじいさん
そうですか……
神月さん
当時の状況について聞きたいことがあるのですが、今お時間よろしいでしょうか?
おじいさん
は、はい、大丈夫です。
神月さん
今回の被害者は女子中学生2名でした。事故に遭う直前について分かる限りで構いませんので詳しく教えてください。
おじいさん
えっと……お客様と話していた際に突然外から“堕ちろ”という怒鳴り声に近い声が聞こえました。
神月さん
“堕ちろ”、ですか…ちなみにその話していたお客様は?
何も話さずに抜けるのは無理だと思い、俺はパフェを持って立ち上がるとおじいさんと神月さんのいる場所から1番近い席に座った。

目を見せないように俯くと口を開く。
黒崎 柚
僕です。
神月さん
当時の状況を教えていただけますか?
黒崎 柚
はい。…と言っても、おじいさんの言う通りで喋っていた時に突然女子の声が聞こえてトラックがぶつかった、という感じです。
神月さん
了解です。
黒崎 柚
…刑事さんが来るってただの事故じゃないんですか?
思い切って聞いてみると、神月さんは何とも言えないような表情でまぁ…とだけ答えた。
神月さん
詳しいことは言えません。捜査にご協力いただきありがとうございました。
おじいさん
心からお悔やみ申し上げます。
一礼をして神月さんは店から出て行った。
神月さんが出て行った扉をじっと見つめながら、何処か違和感があるのは何故だろうと自分に問う。

考えたところで分からないけどね。
黒崎 柚
飛んだ災難ですね…。
おじいさん
本当に残念だよ…
予定とは違うけど、まぁ芽衣の報復は完了した。
劇で精神的に折ってプライドをボロクソにして、最後は知歌と一緒に肉塊になった。

てか、結局知歌は何をしようとしたんだ?
やっぱり芽衣を突き飛ばして轢き殺そうとしたのに、どこかを掴まれたか何かで自分までトラックの前に飛び出して轢かれた?
黒崎 柚
………よく分かんねぇ……あ、おじいさん。色紙、書き終わってます。
おじいさん
ありがとう、大切にするよ。
黒崎 柚
いえいえ。
書いた色紙を渡して席を立つと、おじいさんから冷やしてもらっていたケーキを受け取る。
おじいさん
くれぐれも帰り道には気をつけて。
黒崎 柚
ありがとうございます。
辞去した俺は事故現場の横を通っていた。

神月さんが他の警察官と何か話しているのを横目に血に染まった赤黒い道路を一瞥してからその場を去る。
取り敢えず、沖縄前はこんなもんだろ……

ミスった知歌はまぁ…どんまい。

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