男好きな夏帆と葵が後ろで騒ぐ。
俺は出来る限りバレないようにする為、椿の後ろに隠れようと少しずつ後ろに移動する。
颯斗は観察眼が鋭い、そっと逃げようとした俺に気付いていたのかバッチリと目が合った。
ここで柚稀なんて呼ばれたらたまったもんじゃない。
ダッシュで逃げることを考えた時、颯斗が俺の前まで来て俺の顔をじっと見た。
そう言って、嬉しそうに颯斗は俺に抱きついてきた。
すると、耳元で…
颯斗の行動に俺も含めて場が驚く。なんとも思っていない颯斗は振り返り俺との関係を聞いてきたバスケ部の人達の所に俺を押していくと腕を肩に回して…
颯斗の“親友”と言う言葉を聞いて、俺は一瞬だけだけど何故か泣きそうになる。
友達って言って貰えるだけでも俺からしたら嬉しいのに親友と言われるとは思わなかった。
しかも、俺が友達がいるって言っても、笑って全く信じてくれないこいつらの前で。
小さく頷くとスマホのロックを解除して颯斗に渡す。
颯斗はほんとごめんね〜、と言いながら素早く連絡先を交換してくれた。
俺の腕を掴んだまま颯斗が内カメラにしてスマホを持った手を上げる。
いつもなら絶対に無理なことだけど、この時は自然に笑うことが出来た。
秀が颯斗のスマホを受け取って立つと、俺は流されるように真ん中に連れて行かれる。
そして、もう一度笑って颯斗達と写真を撮った。
射的をしに来たんじゃないのかな?と思ったけど、まぁ本人達が良いなら良いのかな、なんて思いながら俺は颯斗達に手を振った。
人混みに紛れる寸前、何かを思い出したように颯斗は振り向いて…
…とピースを見せて笑った。
今度はさっきみたいに泣きそうになるじゃない、確実に俺の両目に涙が溜まっていた。
流すまいと息を整え、目元に溜まった涙を指で拭う。
変わらない、か……
いつしか見てもないくせに2人のことを馬鹿にした修哉に俺はそう言い返す。
どうやら実際に見て良い人だと分かったらしい。
ピコンピコンと大量の通知音が鳴り、画面に『颯斗から写真が送信されました』と次々に表示される。
すると、その画面を横から見ていた椿がうわぁ…と驚きの声を上げる。
鳴り続ける画面に苦笑していると、気になったのか隣に来て画面を覗き込んだ睦希が少し笑う。
本当に言う通りでそれ以外の言葉はない。
俺は心の何処かでもう友達って思ってもらえてないんじゃないか、と心配している部分があった。
別に怪しんだり疑っていたわけではない。ただ…通う学校が違うから時間が経って自然と関係が風化しちゃうんじゃないかなって。
でも、それは杞憂らしい。
俺の心配を見透かした後の颯斗の言葉は3年前の日と変わらなかった。
そんなことを考えていると、ふいに夜の空が一瞬だけ明るくなったような気がした。
打ち上げ花火もどうやってあんな風に空が明るくなるのかは知っているけど、実際にこの目で見たことはなかった。
すっと首を持ち上げて空を見ると、そこには俺が知らなかった夜空があった。
音とともに夜空に咲く色とりどりの花。
今まで見た写真とかテレビの映像とかとは全く違う。
実物を見るからこそ分かることに俺は少し凄い、と感動しながら光る空を見続ける。
今日の祭りで知識でしか知らなかったことを体験してそれから新しいことを知って、俺は独りでさらに前へ前へと進んでいく。
それが俺にとって嬉しいことなのか、嫌なのか、今の俺にはよく分からなかった……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。