後から聞くと、仲井知歌は見事に不合格。
そして、俺の唯一印象に残った鈴木綾は合格。
…とジジイから聞いた。
スグに知歌の報復に入ろうとしたが、あまりにも接点が無さすぎて情報が少ない。
正直、リスクしかなかった。
失敗は家族に被害が出る。
そう思い、俺は学校が終わってから澪晴の元を訪れていた。
俺の無理矢理な理由に澪晴は溜息を零す。
何の話かは俺には全く分からないが、まぁ何かあるらしい。
部屋着から外着に着替えるとリュックサックを背負い、俺を置いて出て行ってしまった。
知歌は練習中に落として、劇が出来ないようにさせるつもり。
颯汰同様、引退前最後の劇で堕ちろ。
折り鶴を見ながらそんなことを思う。
持って来ていた私服に着替えると、学校で出されてた宿題をする。
簡単すぎて欠伸が止まらない。
少し待て、なんて言っても澪晴の少しはかなり長い。
一人じゃどうしても眠くなる。
納得して、荷物を置く龍弥さん。
俺がいることももう当たり前になっていた。
考えることなくOKを出した龍弥さん。
俺がポットでお湯を沸かしている間に、皿に沢山の菓子を並べてくれていた。
当たり前のように言うと、片方のコップに紅茶、もう片方に珈琲の粉を入れて机に持って行ってくれる。
後ろから後を追い、紅茶の前へと俺は座る。
だから、高校でも生徒会長を…
衝撃の事実に驚くと同時に知らなかった虎雅の家庭事情を知り、あとで鶴に書き出そうと思った。
そんな話を聞いていて、俺は自然と……
と言っていた。
俺の言葉に今度は龍弥さんが驚く。
全問正解のテストの答案。
一万円札が何枚も入っている財布。
鞄の中を見て、俺は何故か溜息を零す。
俺は満たされない。
俺程、満たされて満たされない人間はいないだろうから。
口に出来ない言葉を飲み込むように紅茶を飲む。
龍弥さんは心配そうな顔をしていたから、大丈夫だという代わりに少しだけ微笑んだ。
まぁ、俺のせいなんだけど……
そう言うと、俺は机の上に置いていた折り鶴をポケットに入れて、菓子に手を伸ばしたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!