第67話

2日目
574
2020/05/14 11:00
2日目、この日は午前中だけ自由時間。
シーサーを買いたい、サーターアンダギーを食べてみたいと2人に朝っぱらから引っ張られ、連れ回され…疲れきった状態でホテルへ。

午後は昨日のテストの結果で普通と特進に分かれて、6時間の連続授業。
特進担当は百鬼先生で進むスピードはかなり速めだし内容も応用問題がほとんど。
別に苦ではないけど…絶対に中3で習わないような内容の問題を百鬼先生が微笑みながら渡して来たのは少し納得いかない。
寄光 はな
何か柚のだけ問題文おかしくない?
篠原 睦希
てか、量…
百鬼 彪
あ、黒崎さん。
黒崎 柚
何ですか?
百鬼 彪
これ使ってください。
追いかけてきた百鬼先生が押し付けるように紙の束を渡してくる。
受け取って中を見るけど、全ページ真っ白。
寄光 はな
印刷ミス?
百鬼 彪
今度は途中式、お願いしますね。
黒崎 柚
酷いです…
百鬼 彪
黒崎さん、スーパー特進ですから。
黒崎 柚
そんなの聞いてませんよ…
これは晩飯食ってたら絶対終わらない…
風呂もさっさと入らないと…
黒崎 柚
…夜ご飯、抜きでいいや。じゃ。
早足で立ち去り部屋に戻ると、俺は部屋でゲームをしていた結依と玲依に澪晴のところに行くよう伝えた。
2人を見送り俺は風呂を素早く済ませて、髪を乾かさずに渡された宿題に取り組む。

偶然か否かどの問題も途中式が長くなるやつばかりで俺は何回も溜息を零した……

























………え………ゆ…ねえ…
漣 結依
柚姉ってば!!
黒崎 柚
あっ、な、何?てか、いつ帰って…
漣 玲依
結構前に戻って来たよ!お姉ちゃん、凄い頑張って勉強してたから気づかなかったんだと思う。
黒崎 柚
ごめん…
漣 結依
それより、誰か来てるよ?
黒崎 柚
嘘、ほんと気づかなかった…
集中している間に結依達は戻って来ていて、ゲームの続きをしながら夏休みの宿題をしていた。
俺はずっと持っていたシャーペンを置くと、ドアへ。
開けるとそこにはお風呂上がりなのか少ししっとりとした髪をハーフアップにした朔が立っていた。
紫の瞳と目が合うが、俺は何も言わずドアを開ける。
漣 結依
朔君だ〜!
突進するように駆け寄って来た結依を受け止めると、朔は苦笑を浮かべながらだっこをしてお邪魔しますと部屋に入る。
黒崎 柚
何か凄い懐いてるね。
天喰 朔
小さい子は可愛いので好きですよ。
黒崎 柚
まぁ…適当に座って。
心の準備はしていたけど、やっぱり錬やるーのことを誰かに話すとなると心臓がきゅっと縮まる。
部屋にあったソファに向かい合って座るも少しの間、俺は口を開けなかった。

膝の上にゲームのリモコンを持ってテレビの方を向いている結依を座らせたままの朔はずっと無言でいる俺に対して何も言わず静かに待ってくれている。
言わないと、“約束”したんだから。

俺のことちゃんと朔に話すって ──────
黒崎 柚
…朔。
天喰 朔
何ですか?
黒崎 柚
錬、黒崎錬は……俺です。
言った、言ってしまった。
朔の顔を見ることが出来ず下を向いている俺には朔が今、どんな反応をしているのか全く分からない。

見たいけど、体が言うことを聞かない。
本当のことを言っただけなのに周囲の温度が冷えて、寒くなる。
そんな中、俺がただ1つ思うことは…

話を聞いた上で今日、この日まで錬に関することを何も言わなかった俺を嫌わないで欲しい。

…それだけだった。

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