第96話

全ての注目
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2021/04/30 11:00
黒崎 柚
……ほんと、何があった。
九鬼 虎雅
采斗が屋上から落ちたが、お前が丁度落下地点にいたことで采斗は死なずにすんだ…ってのがざっくりとした説明だな。
黒崎 柚
采斗“は”?
九鬼 虎雅
見りゃ分かるだろ。
虎雅が指したのは鑑識が集まってる方。
俺は倒れている何かが大きな肉塊にしか見えなくて誰なのかを認識出来ない。
宮田 采斗
つ、ばき…ちゃ…
黒崎 柚
椿?
宮田 采斗
……。
問い直すとずっと泣きっぱなしの采斗は頷く。
そこで初めて死んで魂のないただの肉塊になってしまったのは椿だと理解出来た。
俺の頭にグッと何処かから力が加わった気がする。
黒崎 柚
…死んだんですか。
神月さん
はい。残念ながら即死とのことです。
黒崎 柚
……。
いつか聞いた言葉なんて思う。
そして、それが千歌と芽衣が死んだ時だというのに気付くのは意外と早かった。
黒崎 柚
…そうですか。
神月さん
申し遅れました、刑事の神月です。今回の件についての詳細をお聞きしたいのですが病院にて治療を行った後、お時間宜しいでしょうか?
黒崎 柚
病院は采斗だけでいいですよ。僕はそんな行くくらいの怪我じゃないので。
健康保険証の名前は実名、警察がいるのは困る。
痛いっちゃ痛いが、まぁ歩けるしわざわざ病院に行くような大きい問題ではないだろう。







約15分後、采斗は救急車で病院に搬送。
俺と虎雅は神月さんによる事情聴取を受けていた。
ネットではあのカウントダウンの動画が何者かによってアップし、それと同時に野次馬達が薊ヶ丘の生徒がすぐ近くで死亡したことを呟いたりしたことで事件からあまり時間が経っていないのに現場にはちらほらマスコミの姿があった。
神月さんが鑑識の人から話を聞いてる間、俺はSNSで飛び交っている憶測に過ぎない今回の事件についての推理を読んでいた。
黒崎 柚
……。
動画を作って流した犯人が殺ったってのは流れ的にそう判断したとして、その犯人の正体が薊ヶ丘に恨みがある、これまでの事件を起こした犯人、自殺した女子生徒の呪い…
よくもまぁ根拠もなしに色々と発言出来る…
黒崎 柚
…相変わらず醜い。
九鬼 虎雅
……。
黒崎 柚
何。
九鬼 虎雅
別に。
黒崎 柚
あっそ。…神月さん、疑っているようですけど、間違いですからね。僕達はそんな互いを庇うような仲ではないので殺ったのなら普通に警察に言いますよ。
九鬼 虎雅
それは俺も同意。嘘だと思うなら担任にでもクラスの奴にでも聞けばいい。
神月さん
…一つ、何故今日はご一緒で?
九鬼 虎雅
定期テストの勉強見てもらったからな。焼肉奢りでその借りを返しただけだ。
黒崎 柚
今日なのは夜ご飯は僕が家で家族の分を作らないといけないので。昼ご飯の方が都合が良く、午前で終わるテスト最終日が一番適していたってだけです。
互いに庇う気は本当に無い。
だが、さっさと帰りたいのは俺も虎雅も同じだった。
それにもしかしたら何か映っているかもしれないし、早く帰って監視カメラの映像を確認したい。

あの映像、椿の死亡が俺宛の物だとしたら…まぁまぁ面倒いことになっている。
神月さん
…分かりました。長い間、お引止めしてしまい申し訳ない。また詳しいことをお聞きすることがあると思いますが、その時はご協力よろしくお願い致します。
九鬼 虎雅
あざっした…つっても、この野次まみれの中どう帰れってんだよ。
黒崎 柚
パトカーに乗せてもらって安全な所に行くっていうのも捕まってるみたいで何か嫌だな。
九鬼 虎雅
それは分かる。柚はどう帰るよ。
黒崎 柚
どうしようか…身元バレは学校生活に支障が出るから避けたいけど。
九鬼 虎雅
あ"ーっ…さっきの采斗のに乗っけてってもらうのが一番良かったってか…
黒崎 柚
…いっそ堂々とそこに出るのがいい気がしてきた。
九鬼 虎雅
野次馬に写真撮られて拡散されるぞ。
黒崎 柚
撮らせなきゃいいだけ。どちらかと言うとマスコミの方が厄介。
これについては昔の経験から考えたことだった。
写真を撮ろうとカメラを向けるだけの野次馬と報道する為に“動画”を撮り続けるマスコミじゃ違う。
黒崎 柚
テレビ局のカメラがないかだけ確認してもらうことって出来ますか?
神月さん
……少々お待ちください。
神月さんが近くにいた警察官に声をかける。
頷いた警官はブルーシートの外へと行って、すぐに帰ってきた。
警官
カメラを持ったマスコミらしき方々は見受けられます。しかし、テレビ局の中継といった撮影はまだないようです。
黒崎 柚
ありがとうございます。虎雅、帰りたいなら僕の後を来て。同じ災難だ、何も求めない。
九鬼 虎雅
へぇ、珍しく俺に対して優しいな?
黒崎 柚
たまにはそんなことがあっても良い。
俺はそう答えると現場と野次馬の間に隔てられたブルーシートに向かって歩き出した。
黒崎 柚
平凡な日々が欲しいだけなんだけどな…
単なる興味本位での撮影などさせない。
俺のプライバシーは俺が守る。

ブルーシートを退けて一歩外へ。
それと同時に俺はスっと顔を上げた。
特に何か目立つ行動を起こしたわけじゃなければ、何か言ったわけでもない。

ただ顔を上げただけ。
黒崎 柚
……。
全ての視線を、注目を、この俺に。
事件に関わっている俺や虎雅を撮る為スマホを構えていた騒がしい人々は水を打ったように静かになる。
マスコミ含めシャッター音は全くしない。
全ての視線は俺に向けられていた。
時には認知されない影。
また、時には一秒たりとも目の離せない存在へ。
俺は真っ直ぐ野次馬に向かって歩いた。
野次馬の中に入る。…と、同時に俺は雰囲気を一変させて影の薄い子に。
女性
あれ?今、女の子がいたはず…
男性
やべっ!写真撮ろうと思ったのに見てたらいなくなっちまった!
男性
お、おいっ!早く探せ!今世間をお騒がせ中の事件の被害者に話を聞けるチャンスだ!!
女性
はっ、はいっ!
被害者だって言うなら静かにさせろよ…
本当に呆れる。
被害者を一体何だと思っているんだ。
大人でも精神がやられることがあるっていうのに、精神が不安定になりやすい子供に同級生が死んだことについての取材なんて。


野次馬から抜けて近くの路地へと入ったところで俺はスマホを取り出し澪晴へと電話をかける。
黒崎 柚
…ん、あぁ澪晴…もう話聞いてる?…そうか、今さっき警察の軽い事情聴取が終わったんだ…野次馬は抜けたけど制服な限り身元バレの危険があってさ…来て貰えると嬉しい。
椿が死んだ、采斗が死にかけた。
誰が何の為にやった?あの動画との関連性は?
狼って言うなら百鬼先生?

…何れにせよ、犯人はちょっと懲らしめないとな。

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