夏の夜は空が凄い綺麗。
そう最後に思うことが出来たのはるーと天体観測をした小4の七夕だった。
それからは夏の夜は嫌いになった。
綺麗だからこそ鮮明にあの夜を思い出させてくる。
もう見たくない。
もう思い出したくない。
そうだった、とこの時俺は思う。
この2人はまだ常識のある2人だったな…
お言葉に甘えて俺は天体望遠鏡を覗き込む。
そこには真っ暗の中光る月が見えていた。
何だか段々と悲しくなってくる。
本当に“何だか”で何でなのかは分からない。
ふいに少しだけ目が熱くなって、俺は慌てて望遠鏡から離れると2人に背を向けた。
指先についた広い星空を映す水滴を見て、更に気分は沈む。
これは何に対してなんだろうな……
悲しいから?
るーとの思い出を思い出したから?
それとも………こんな俺が情けないからか?
考えれば考えるほど答えは見つからない。
だからもう考えるのは止めた。その代わりに…
この天体観測…いや、防災教室が終わることだけを考えていた……。
教室に戻って来て、就寝時間になるまであと30分。
最初は本を読んでいたが、椿に話しかけられ読書を中断していた。
そうだったらいいのに……なんて、少しだけ心の中で思ってみる。
本を指先でなぞり、横目で駿を見ながら呟く。
悠翔はあまり俺に甘えようとしない。
何でも自己解決しようとする。
るーが自殺を図ったあの日。
あの日を境にして悠翔は俺に甘えなくなった。
まだ幼い玲依と結依に対しては普段通りに接しているが、2人がいないところであの日に苦しみ続ける俺の姿を目の当たりにしたからだろう。
気付けば、暫くの間は2人の相手を全て悠翔がしていて、俺に1人の時間を与えてくれていた。
そこからは人に頼ることなく悠翔は成長した。
成長した上に俺に対してかなりの配慮をしている。
それはなんて言うか……姉として少し寂しい。
意外な質問に俺は少し目を見開く。
驚く俺に対して、椿はイマイチ理解出来ていないようだった。
自然と口から出た答えに俺は視線を下げる。
これは嘘偽りの無い本心だった。
次に浮かんだ言葉に思わず、笑いそうになる。
ぶつぶつと呟くように言葉を繋げる。
はっと思って視線を上げた時、2人の心配そうな視線が刺さった。
その場から消えたい。
立ち上がった俺は二人から逃げるように速足で教室を後にした。
やってきたのは前にも来たほとんど人が来ない屋上前の階段。
座り込むなり大きな溜息が零れる。
そこでふと前に睦希と虎雅が勝手に屋上に入っていたことを思い出す。
まだ直ってないよな……
いつもなら絶対に見たくないのに今は無性に見たくなった。
立ち上がり、少し重い扉を開ける。
誰もいない…………と思い込んでいた屋上には私服の子がいて、夜空を眺めていた。
俺に気付き会釈をすると肩くらいまである緩いウェーブのかかった髪を揺らして、横をすり抜けて階段を下りて行った。
暗くて顔は見えなかったが、体形的に女子だろう。
今日は3年の俺達だけではなく、他学年も泊まっているから俺が知らないだけの可能性もある。
まぁ、俺には関係ないか……って、もうこんな時間…
考えたせいで時間が過ぎ、消灯時間前の人数確認まであと数分しかなくなっていた。
見ることを諦めきれなかった俺はスマホで写真を何枚か撮って、屋上を後にしたのだった。
てか…結局、防災教室ってある意味ないな…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。