俺の答えにるーは首を傾げた。
今の答えの何を疑問に思ったのだろうか?
そう言われて、俺はスグに答えが出せなかった。
理由は簡単、友達がいないから。
今度は答えを聞いてるーは笑った。
『不幸があるなら幸せもきっとあるよ。』
そう言った10歳のるーが1番大人だと思った。
俺には分からないことをるーは知っている。
俺にとっての不幸は全て。
…でも、可愛い弟達や妹がいるのは幸せ。
いじめを受けようともこの身がボロボロになっていくとしても絶対にあの子達とお母さんは俺が守ってみせる。
あのジジイに負けやしない。
その時、目の前の景色が一気に変わった。
変わった先は自分の部屋で俺の目の前に一つのバスケットボールが転がっている。
お母さんに貰った兎のぬいぐるみを持ちながら、転がっているバスケットボールに手を伸ばす。
触れたと思うと、突如腹に強い力が加わった……
目を開けるとお腹に馬乗りで乗っている結依の姿が目に入った。
何だ、夢か……
確か帰って来て部屋着に着替えて、リビングで菓子を食いながら悠翔と喋ってた気がするけど……
すると、リビングの扉が壁に穴を開けるようなくらいの音を立てて物凄い勢いで開く。
そこには風呂を上がって急いで来たのか、髪が濡れたままの玲依が立っていた。
結依が俺から降りて、菓子がある机に近寄る。
ソファから2人を見ていたが、スグに同じ菓子を選んで喧嘩になっていた。
少し心配になったのか悠翔が2人の間から菓子を取ると、真ん中で分けて2人に渡す。
笑顔で食べる姿を見る限り、何だかんだでこいつらはやっぱり仲がいいのだろう。
俺の場合、記憶は全て本のようになっていた。
頭の中が図書館みたいになっていて、その中から必要な情報が書いてある本を選んで見る。
情報を得れば得るほど本の量は増えていった。
だが、あの日をきっかけに1番大切な本が汚れた。
それが"記憶の本"。
書いてあるのは豆知識や学校のことでもない。
俺の人生について。
事実は書いてあるが、肝心な内容が分からない。
るーと出会い、別れた事実。
あいつらと友達でいることの事実。
それは分かるのにどうやって出会ったのか、どんなことをしたのかそれが空白のようにまるっと抜けていて思い出せない。
………中には家族との思い出も抜けていた。
本が埋まる方法はひょんなことから思い出すか、夢で見て思い出すかの二通り。
昔…俺が錬だった頃、俺は悠翔と何かを約束した。
約束した時の光景は覚えているけど、何を約束したのかが思い出せない。
ハッキリと言われて俺は肩を下げる。
謎のフォローが少し痛くて悠翔から目を逸らす。
目を逸らした先にはテレビがあって、七夕まであと何日と言うカウントダウンをしていた。
七夕、ねぇ…。
こういうイベントは利用出来るかも……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。