そう言って俺が立ち上がったところで、駿の視線は俺の頬へと移った。
考えれば分かることなのにそこまで気が回っていなかった俺は駿に聞かれ、黙ってしまう。
駿の目には怒りの色が見えた。
それは俺に対する怒りじゃなくて、俺に対して暴力を加えたりコーラをかけたりした奴へだろう。
それだけを言うと、俺は駿の反応を見ることなく自販機から立ち去った。
欲望に満ちたこの世界に期待なんてない。
大人の自分の地位を保持したい欲。
同世代の劣等感から生まれた欲。
テレビでも街でもありとあらゆるところに人が生み出した欲がある。
所詮は自分の為、本当に汚い。
俺の記憶に残ってまた仕事で会う機会を得ようと必要以上に持ち上げてくる大人。
笑顔で挨拶するも目は完全に俺を敵視している唯我以外の子役。
学校でも気に入らないとかの意味不明な理由で人をいじめる汚い奴ら。
実に残念だ。
テラスで風に当たりながらぼっとしていると、段々と真っ暗だった空が明るくなり、地平線から光が見えてくる。
長袖長ズボンと言っても、薄手の物だしコーラをかけられて濡れたから少し寒い。
部屋を出てからかなり経っちゃったし…朔、多分待ちくたびれて帰ったよな…
結依達、ちゃんと寝てると良いけど…
最終的に残ったのは三室達への怒りではなく、結依達への申し訳なさだった。
どうやって謝ろうか、と考えていると後ろからタオルケットのようなふわふわの布を頭から被せられる。
振り向くとそこには朔が立っていた。
当たり前だと言いたそうな朔の表情からは嘘や勝手に逃げ出した俺への怒りは見えない。
その様子にさらに俺は申し訳なくなる。
るーが死んだことが苦しくなくなるまで待つ、その時が来るのかは今の俺には分からなかったけど少し、ほんの少しだけ嬉しかった。
真っ直ぐとした言葉をくれた朔を見て、俺は口元を緩めると手を差し出す。
嬉しそうに笑って朔が俺の手を両手で握る。
俺はよく分からない今の気持ちをなんて表現すれば良いのか悩み、悩んだ末小さく笑い返したのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。