世間話をするかのように朔は普通に言って、一瞬だけ俺は「あ、そうなんだ」と言いそうになった。
涼真は違うけど、愛梨は死ぬ予定だったから。
てか、何で夏帆じゃなくて涼真?
思わず聞き返すと、朔は机にさっき手に持っていた写真を上下を俺に合わせて置いた。
そこにはランドセルを背負う小さな女の子。
見た目とか周りの物を比べた時の身長的に歳は結依達と同じくらいだろう。
朔は寂しそうな悲しそうな表情で話す。
写真の笑顔を見ていると、今でも元気に過ごしているようにしか見えない。
朔は僕の質問に首を立てに小さく動かす。
…もう1人いるんじゃ?
そこまで考えたところで愛梨の言葉が頭をよぎる。
そして、まさかと思い顔を上げると朔は俺の考えが正解だと言うように弱く笑った。
いきなりの話題に俺の心臓がキュッと握りつぶされるような気分になった。
あの話は心の準備をしていないとかなりキツい。
朔の気持ちは理解出来る、痛い程に。
何故かるー、月ちゃんみたいな巻き込まれる人が死んで気付けない俺は、朔は生き続ける。
俺は話を聞きながら朔の状況に自分が立っていたらと考えてみた。
お母さんが病気で死ぬ。
俺のせいで関係ない優しい悠翔がいじめられる。
そして、三室と峰本によって目の前で殺される。
……考えるだけで嫌な気分になる。
一緒に登校したい。
校内で会った時には声をかけてあげたい。
友達に自慢出来るような姉になりたい。
先輩じゃなく……普通に“姉さん”って呼んで欲しい。
俺は何を言っているんだ。
名前は柚じゃないのは事実、でも言う必要がない。
多分?俺は俺のことに自信を持てないのか。
朔は意味をよく理解出来ていないのか少し不思議そうな表情で俺を見るだけ。
柚稀って呼んでくれる…いや、元から俺の本名を知ってるのは幼稚園の頃以前から関わっていた人達、あとは拓哉と颯斗くらい。
俺の報復を手伝ってもらえるかもしれない。
そんな考えが俺の中にはあった。
愛梨と涼真を殺す気で転校してきたのなら、それだけでも殺ってもらいたい。
…と言うか、この俺が人に同情するなんて久しぶりだったから単に手伝おうかと思った。
朔の“復讐”、報復とは意味は少し違うけど、結果的には両方同じになる。
そのことを警察に言うとか言い出したらその時はまぁ残念だけど口封じするか脅すか…
荷物を取ると俺は先に立ち上がり、教室を後に。
ぼんやりと帰り道を歩いていると気付いた時には家の前まで着いていた。
そんな存在になる価値なんて俺にあんのかな…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。