第59話

九人目 田所芽衣
593
2020/04/28 11:00
神様は俺を見ているらしい。
黒崎 柚
何してるの?
仲井 知歌
柚…
みんなに暑いからアイスと言われ、一人でコンビニに向かっていたのだが、その途中にある公園に知歌らしき人を見つけて俺は寄り道をすることにした。

ブランコに座って風に流されるように揺れていた知歌は不登校になる前のような活力はなく、目の下にくまを作り、今にも倒れそうな雰囲気が漂っている。

膝の上には台本とDVDが置かれていた。
仲井 知歌
明日…演劇部の最後の大会なの…上手くいきそうなんだけど…もう、やりたくないんだ…そしたら、芽衣から凄い圧をかけてくる電話とかが着て…
まぁ、芽衣ならやりかねない。
良い感じに操作したから本人はもういじめ役という理由をつけて知歌に今までの恨みを返してるし。
仲井 知歌
私が甘かった…いじめられるってあんな気持ちになるなんて知らなかったの…
黒崎 柚
……人に役作りの為とか言って色々聞いてきたのにね。
俯いていた知歌はパッと顔を上げて俺を見る。
俺は敢えて冷たい目で見下ろした。
仲井 知歌
ごめん、なさい…
黒崎 柚
謝って済むなら世の中平和でしょ。
クラスで最下位な俺に言われたことに悔しいのか悲しいのか、知歌の目から涙が落ちた。
その涙を見てからブランコの柵に俺は座って、呆れたような表情で前を見る。
黒崎 柚
てかさ、そんなんでいいの?
仲井 知歌
えっ…?
黒崎 柚
知歌が“主役”なんでしょ?それを脇役、しかもいじめっ子に操られて悔しいって思わない?いつもそこまで大きな役を貰っていなかったのに役が役だしって知歌に当たってるだけじゃん。
仲井 知歌
確かに…芽衣、いつも静かだった…
黒崎 柚
…もしかして、芽衣は知歌のこと妬んでたんじゃないかな?部活で劇の才能が1番優れてたからって。でも、知歌は部活の人に人気で普通に手を出すことが出来ない。だから、今回の役に便乗した。
顎に手を当てて、俺は考えるように呟く。
黒崎 柚
…まっ、僕の想像でしかないけど。
そう知歌を見ると、知歌は…
仲井 知歌
そうだ、絶対そうだよ…
…と真顔で言い、ブランコの鎖を強く強く握り締めて歯軋りをした。
仲井 知歌
私、芽衣に対して何も不快にさせるようなことしたことないもん…ただ劇が好きで部活頑張ってただけなのに…こんな仕打ち?そんなの許せない!
いがみ合い完了。

ここまで持ってくればあとは俺の思う通り。
黒崎 柚
明日で最後なんでしょ?相当疲れてるみたいだけど…最後まで出来るの?
仲井 知歌
やらないと…でも、そこで頑張ってももう前みたいに上手く出来ないし、その後に復讐する気力無くなりそう…
黒崎 柚
……僕が代わろうか?
仲井 知歌
何言ってるの?主役の人が代わると普通にバレるでしょ。
黒崎 柚
大丈夫、僕なら出来る。僕が知歌になってあげる。
俺の提案に知歌は悩んでいた。
ボロボロになる劇の主役か芽衣への復讐か。
仲井 知歌
…柚の言葉、本当に信じていい?
黒崎 柚
うん。僕も嫌なんだよね、芽衣。いじめられてるのに冷たい目で見てくるから。
同情は芽衣によって傷付きまくった知歌からすると同じような存在として親近感が湧く。


まぁ…俺は芽衣の視線なんてどうでもいいけどさ。
仲井 知歌
じゃあ、お願い。私になって。劇が終わったら絶対に隙を見て殺す。
黒崎 柚
えっ…殺すの?
仲井 知歌
あんな化け物、生かしたくない。
その目は強い怒りに満ちていた。
仲井 知歌
どうせ、D組だしバレなきゃいきなり死んでもおかしくないよ。
黒崎 柚
そう…
仲井 知歌
あ、柚が代わりをやるならこれは柚が持っといた方が良いよね。明日のスケジュールは挟んである。衣装は楽屋前の廊下にあるからそれを各自着替える感じ。
知歌が膝の上に置いていた台本とDVDを差し出し、俺はそれを受け取る。
仲井 知歌
早くどうしてやるかを考えないと…
黒崎 柚
知歌は劇見る?
仲井 知歌
一応ね…帰る前にトイレ来てよ。そこで入れ替わろう。
黒崎 柚
分かった。それじゃ、頑張ってね。
仲井 知歌
うん。柚、本当に今まで酷いことばっかしてごめん。あと…ありがとう。
黒崎 柚
……お礼なんておかしいよ。
何で知歌に礼を言われたのか分からない。
全て俺の報復に利用しているだけで逆にこっちが知歌に勝手に殺してくれてありがとう、って礼を言ってやりたいくらいだ。

芽衣に見せてもらった上に俺が書き換えたから正直、台本これを読む必要はない。
あと劇をするのに必要なのは立ち位置くらい。


DVDはアイス食ったら見ないとな……


中学校の部活でそこまで期待はしてないが、久しぶりの活動には少し楽しみな気持ちはあった。
黒崎 柚
知歌が肉体的に懲らしめるって言うんだったら、俺はその逆の精神的に懲らしめてやろうか…

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