神様は俺を見ているらしい。
みんなに暑いからアイスと言われ、一人でコンビニに向かっていたのだが、その途中にある公園に知歌らしき人を見つけて俺は寄り道をすることにした。
ブランコに座って風に流されるように揺れていた知歌は不登校になる前のような活力はなく、目の下にくまを作り、今にも倒れそうな雰囲気が漂っている。
膝の上には台本とDVDが置かれていた。
まぁ、芽衣ならやりかねない。
良い感じに操作したから本人はもういじめ役という理由をつけて知歌に今までの恨みを返してるし。
俯いていた知歌はパッと顔を上げて俺を見る。
俺は敢えて冷たい目で見下ろした。
クラスで最下位な俺に言われたことに悔しいのか悲しいのか、知歌の目から涙が落ちた。
その涙を見てからブランコの柵に俺は座って、呆れたような表情で前を見る。
顎に手を当てて、俺は考えるように呟く。
そう知歌を見ると、知歌は…
…と真顔で言い、ブランコの鎖を強く強く握り締めて歯軋りをした。
いがみ合い完了。
ここまで持ってくればあとは俺の思う通り。
俺の提案に知歌は悩んでいた。
ボロボロになる劇の主役か芽衣への復讐か。
同情は芽衣によって傷付きまくった知歌からすると同じような存在として親近感が湧く。
まぁ…俺は芽衣の視線なんてどうでもいいけどさ。
その目は強い怒りに満ちていた。
知歌が膝の上に置いていた台本とDVDを差し出し、俺はそれを受け取る。
何で知歌に礼を言われたのか分からない。
全て俺の報復に利用しているだけで逆にこっちが知歌に勝手に殺してくれてありがとう、って礼を言ってやりたいくらいだ。
芽衣に見せてもらった上に俺が書き換えたから正直、台本を読む必要はない。
あと劇をするのに必要なのは立ち位置くらい。
DVDはアイス食ったら見ないとな……
中学校の部活でそこまで期待はしてないが、久しぶりの活動には少し楽しみな気持ちはあった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。