次の日、無事に終業式は終わり、大量の宿題と通知表が返される。
いつも通りの結果で特に喜ぶことはなかった。
想像以上の宿題の量にうんざりしたが沖縄で皆が遊んでいる間に終わらせたらいいか、と思うとそのうんざりも消えた。
土曜日、何となく髪はポニーテールに帽子着用、服はバスケの時に着ていたスポーツウェアを着て、俺は紙と写真を入れた鞄を持って薊ヶ丘中学校に来た。
会場に着いて、張り出されたトーナメント表を見て1番気分的にモヤッとしたのは決勝戦の対戦校がまさかの薊ヶ丘だったこと。
涼真がバスケ部だったはず…何か分かるかな……
体育館に入ろうとしていた時に黒崎ちゃん、と背後から声をかけられ俺は溜息を吐いた。
夏休み初日から非番なのか澪晴は少し眠そうだ。
名前をバラさないようにバスケットシューズを履くと俺は元気な声がよく響く体育館へ。
見慣れたユニフォームを着た男子達がベンチに座っていて顧問の先生から指示を受けている。
そして、その中にやはり涼真はいた。
秀もバスケ部だったんだ…。
いつも涼真が目立ってたから完全に存在忘れて……
そんなことを呟きながら俺はもう片方の中学校のベンチに視線を向けた。
話を聞いているから背中しか見ることが出来ないが、写真と同じ姿の4番と5番を見つけ、それだけで少しだけ俺は微笑む。
コートに出て来た2人に胸が一瞬だけキュッと締め付けられて、その後に何だか温かくなった。
2人とも何だか昔よりかっこよくなったかも…
5番は燎颯斗。
いつも元気いっぱいで周りを明るくする。
家はまぁ声に出さない方がいいヤクザとかそっち方面だけど、そのことを感じ取らせないような奴。
4番は倉科拓哉。
少し不器用ですんとしがち、でも1番の負けず嫌い。
小学校の頃に俺とバスケをして1回も勝つことが出来なくて卒業の時はかなり悔しがっていた。
この2人は俺の“唯一無二の友達”。
きっと今も、これから先も、拓哉と颯斗のような奴らに出会うことは無理だと思う。
目立ちたくない俺はそれだけを声にした。
始まったゲーム、2人のスキルは昔に比べるとかなり上達して動きも格段に良くなっている。
そんな2人を見て、これならいつか俺の“光”になれるんじゃないか?…なんてことをふと思う。
まぁ…なってくれたら凄い嬉しいけど……
ハーフタイムが終わった時、俺はスコアを見て薊ヶ丘が意外と強いことに驚いていた。
点数差は2点、普通に抜かすことは可能。
拓哉と颯斗が頑張っているけど正直に言って顧問の指示が下手だから才能を潰してるように見える。
俺が行けばすぐ勝たせるのに、と心の中で舌打ちをしながら見ていると…
ゴッ!!
拓哉のシュートを止めようとしていた涼真の肘が拓哉の頭に強く当たったのだ。
バランスを崩した拓哉は倒れて、足が少し変な方向で着地するとそのまま床に強く打ち付ける。
少量だけど血が飛び散っていた。
勿論、ファール。
ファールではあるけど俺が見たのは審判のジャッジではなく手で口元を隠しながら密かに笑った涼真だった。
涼真の勝つ為にした最低最悪な行動。
いつもなら想像出来なかったが、今の出来事を見たら朔をいじめた主犯ということがよく理解出来る。
ブツブツと呟くと俺はギャラリーを歩いて拓哉達の学校がいるところへ向かう。
その質問に答える暇はない。
俺は帽子を一旦取ると上から借りたTシャツを着て、帽子を被り直すとギャラリーを降りた。
拓哉達の学校のベンチに出ると俺は近くにあった応援用のメガホンを手にして、人が集まっているコートに向かって歩き出したのだった…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。