第72話

十人目 藤川仁
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2020/10/01 15:33
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佳奈、8月中ヨーロッパ旅行
莉緒、下旬にスペインで佳奈と合流
仁、2〜6、大阪の通天閣
涼真、8月20〜25、ハワイ
秀、前期夏期講習、後期家でゲーム
駿、虎雅、ずっと家
はな、親の帰省で1〜4まで長崎
彗、一華、毎日夏期講習
夏帆、高校探し

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黒崎 柚
近場が多いか…てか、この時期にヨーロッパ旅行って凄っ…
沖縄の勉強合宿が終わり、電車で帰るはずだった俺は疲れたと駄々をこねる結依達に呆れながらもタクシーを呼び、後部座席に座っていた。
家まで何円かかるんだろう、と思いながら瑛士に貰ったメモを眺め、報復に頭を悩ます。
海外はまず無いな、俺も高校探さないとだし…
大阪はあり…彗と一華を夏期講習の帰りに纏めてするのもあり……取り敢えず、仁と彗と一華で決定。

…ちょっと待て。8月2日から?
黒崎 柚
え、明後日…?




















時間に対しては文句が言えない。
沖縄から帰って2日後の昼、俺はキャリーケースを引きながら、新大阪駅で新幹線を降りた。
黒崎 柚
……。
うっわ、やっぱ人多っ……
てか、よくよく考えたらこんな人が多いところに1人旅行とか初めてじゃん…
ショートカットのウィッグを被った俺は多分、周りからは服装的にも男に見えるだろう。
柚だと仁との関連性が出て来るから危険。
事故に見せかけるつもりではいるけど、万が一誰かが見てて特徴とかで俺に辿り着かれても困る。
黒崎 柚
……まぁ…柚だって分かんなきゃ良いだけだし…
錬で騒ぎになったら、逃げるだけだ。
取り敢えず、人が多い駅から離れようとバスに乗車。
席に座ると俺は鞄の中から鶴を取り出した。


出席番号24、藤川仁。
帰宅部、委員会は入っていない。
頭は中の上、運動神経は帰宅部の割には高い。
涼真と秀を連れて行動することが多い。
主に暴力を振るう。しかも、それが目立つところで痣を誤魔化すのがかなり面倒臭い。
ランクはS。
自販機のところで仁に思いっきり蹴られた頬は完全に痣になっていて範囲も広く大きめの絆創膏でもはみ出てしまった為、諦めて放置。

今も頬に触れると普通に痛い。
帽子被ってるから少しは影になって分かりにくいかもしれないが、横から見たらお披露目状態。


あの時は色々と考えていたせいでそこまで気にしなかったけど、今となったらアイツ……
思わずしてしまいそうになった舌打ちを我慢して、鶴を折り直すと鞄の中へとしまう。

2日から6日までの4泊5日の旅行だけど、5日も旅行はしないだろう。
早く家に帰りたいから長くて2泊3日だ。
夏休み中にやりたいことだってあるし。
まぁ、普通に違法になることだけど今更感。
黒崎 柚
あ、すいません。降ります。
通天閣の近くは人が多い印象がある。
そこをどうやって抜けて殺すか…尾行して宿泊施設突き止めて、待ち伏せでも良いけど、リスクが高い。
持って来たのは縄と颯汰を襲った時に使ったナイフ。
絞めるか刺すかの2択。

正午になり朝から何も食べてないせいで段々とお腹が空いてきた俺は色々と考える為にも先に昼飯、と思いお好み焼き屋に入った。
適当に注文したところでスマホを取り出すと、澪晴に電話をする。
井上 澪晴
『……もしもし?』
黒崎 柚
澪晴。続きをしようと思ってさ、今大阪にいるんだよ。
井上 澪晴
『大阪?なら、お土産買ってきてくれ。大阪限定のやつで。』
黒崎 柚
アホか。お土産の要望を聞きたくて電話したんじゃない。大阪に来たは良いけど、本人が何処にいるのか分かんないんだよな。
井上 澪晴
『え、何やってんの。』
黒崎 柚
観光地の近くにいたら見つかるかなんて思ったけど、いざ来たら人が思った以上に多い。
井上 澪晴
『そりゃ、夏休みだし……あっ、はい!誰かと喋ってる?嫌だなぁ、俺がそんなことするわけないじゃ…』
急に澪晴の声が遠くなり、画面を見ると何故かビデオ通話に切り替わっていた。
横を向いて誰かと話す澪晴。


まさか授業中に堂々と電話を……


澪晴の為にも終話ボタンを押そうとした時、一歩遅く教授と思われる女性と目が合う。
女性
『あら?てっきり九鬼君辺りだと思っていたけれど…』
井上 澪晴
『龍弥は偉いので出ないっすよ。』
女性
『ご関係は?何故、講義中に電話を?』
井上 澪晴
『あーっと……俺のいも…弟っす。』
女性
『芋?』
井上 澪晴
『弟。』
女性
『井上君。弟さんなんていた?お姉さんだけじゃなかった?』
完全に“妹”と言いかけた澪晴が修正し、今度は弟がいるかの話し合い。
早く切りたいのに変なことを言わないかが心配で切ろうにも切れない。
黒崎 柚
…ぼっちだったんで、はる兄について行ったんです。一応、本物の家族かって言われたら微妙ですけど…それで今、大阪に来ていて少し寂しくなったのでかけちゃいました。講義中だったとは思わなくて…ごめんなさい。
女性
『そういうこと…井上君、補習が連続で入っているから夕方くらいまで待ってあげてください。』
黒崎 柚
はい。ご迷惑をおかけしてすいません。
女性
『大阪、楽しんでくださいね。井上君もそうならそうとちゃんと言いなさい。』
井上 澪晴
『大阪行ってんのを知ったのがこの電話なんすよ…』
黒崎 柚
………ごめんよ、澪晴〜…
先生にまだ怒られそうな雰囲気を感じ、俺はそう呟くと終話ボタンを押したのだった…

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