第101話

十七人目 断罪
204
2022/05/02 11:00
小林 修哉
はぁ?断罪だぁ?さっさと帰れっつってんだよ。
黒崎 柚
僕だって帰りたい。だからこそ、さっさと終わらせたい。どうしようか?はなの恥ずかしさを知る為にも下着だけになってみる?
小林 修哉
誰がなるかって話だ。舐めんなよ?
黒崎 柚
……。
小学生を相手にしている気分だった。
こんな時に言うべきは一つ。
黒崎 柚
虎雅っていう後ろ盾がなきゃ胸張れないんだから大人しくしたら?
小林 修哉
なっ!?柚、テメェ…!!
薄暗くても分かるくらいに修哉の顔は赤くなった。
修哉は虎雅に対して劣等感を感じていて、それは拓磨が瑛士に対して持っていた劣等感とは少し違う。
拓磨は同期である瑛士の上達に追いつかず置いていかれ、同期の筈なのに何故ここまでの差があるのかと劣等感を抱いていた。
しかし修哉の場合、同期だとか同じラインに立っての話ではない。最初から修哉と虎雅の間には圧倒的な力の差があった。喧嘩という武力も先輩他校含めた支配力も虎雅の方が入学当時から上、悪ガキ大将の修哉とはわけが違う。
…なんてここまで考えると虎雅が凄い悪い奴みたいだけど、別に虎雅は自分のやりたいように自由に生きているだけでそこまで酷くないって分かったんだよな。自分から喧嘩を売りに行っているところ見たことないし。
あの虎雅さえ自己防衛しかしてないのに、こいつは自分より強い者には劣等感を感じながらもペコペコするくせに自分より弱い者は虐げる。非常にタチが悪い…
黒崎 柚
…と言うか、うん。やっぱり穢い。穢いし、そもそも虎雅の後ろ盾なんて存在しない。虎雅は修哉に興味なんかない。夢を見ることは大切だって言うけどさ、修哉の場合はもっと現実見たら?無理だって。いつしか狙っている虎雅の座だって元から存在しないし。勝手に周りがビビって避けるからあるように見えるだけでしょ?アイツは自由に生きて、その自由を邪魔する奴を排除しているだけ。力があるのは事実だけど凄いことなんてない。ただ修哉がビビりで腰抜けで軟弱な人ってだけだよ。
煽りの言葉を次々に並べていく。
怒りで震えているだけで修哉は何も言い返さない。
沈黙は肯定、認めているようなもの。
これはつまらないな…もう少しぎゃーぎゃーと醜い反論をしてくることを期待していたんだけど…
小林 修哉
……。
大体の人は図星を指されるとキレるか凹む。意外なことにどうやら修哉は凹む側の人らしい。
黒崎 柚
はぁ……可哀想な人。
最後に放ったこの一言に修哉の感情は“困惑、消沈”から“怒り”へと変わった。
小林 修哉
誰が可哀想な人だコラ!!!
黒崎 柚
っ…
俺の首に手を伸ばした修哉はそのまま俺を締め上げる。
特に首を絞められた如きで動じることなんてないけど、跡が残ると悠翔から何があったのかと聞かれるからどうにかしないといけない。
黒崎 柚
……。
俺は何も言うことなく手を伸ばした。
伸ばした先にあるのは修哉の頭、腕を曲げて俺の首を締めているせいで普通に届いてしまう。手が届くと同時に顔面を掴んでそのまま強く握り潰す勢いで力を入れた。
小林 修哉
い"あ"ぁっ!!!
メキッと嫌な音がしたと思うと、修哉が呻き声を上げて俺の首から手を離した。俺は手から力を抜き座り込んだ修哉を見下ろす。
黒崎 柚
…情けないなぁ。首を絞められて大人しく抵抗せずに死ぬ奴がいると思ってる?ちゃんと殺したいのならしっかりと首を絞めないと。黒崎柚を殺したい、って殺気を放ってさぁ……
しゃがんだ俺は痛そうに顔を押えている修哉の髪を掴むと上を向かせる。
黒崎 柚
殺したいってのは……こういうもんだよ。
今まで溜め込んできた思い…と言ったら何処か誤解しそうだが、まぁ苛立ちというストレスをぶつけるように本当に殺したいと思いながら、俺は修哉と目を合わせた。
小林 修哉
ひっ!?
修哉の体が震え上がるのが伝わる。
中学生を脅すにはこれくらいで十分だろう。
俺が髪から手を離しても、体の震えが止まらないのか修哉は荒い呼吸を何度も繰り返して頭を抱える。

……それはまるで、何かを思い出したようだった。
小林 修哉
はぁ…はぁ…っ!柚、お前も…
黒崎 柚
お前も?
小林 修哉
クソっ…!!!
バッと立ち上がった修哉は荷物を取ると、そのまま教室を飛び出していなくなってしまった。
最後の言葉が引っかかるが、あそこまでやれば他の人に話すということもないだろうし取り敢えずは良しとしておこう。
黒崎 柚
……許しはしないけどな…
3人に聞こえないくらいの声で呟いて、俺はまだ床に座り込んでいる睦希の前にしゃがんだ。
黒崎 柚
ほら、大丈夫?はなの場合は羞恥心だけで済むけど、睦希の場合は内臓やられてる可能性もある。
篠原 睦希
大丈夫、多分…
黒崎 柚
多分…万が一があっても困るし、僕が家まで送ろうか。2人は大丈夫?
寄光 はな
……。
新坂 美彩
大丈夫。来てくれて、助けてくれてありがとう…ごめんね、柚…
黒崎 柚
…別にいいよ。僕と睦希、いない方がはなも落ち着くだろうし先に帰るから。暗くなり過ぎる前に帰りなよ。
睦希のリュックを拾い上げ、自分のリュックを背負い、俺は睦希の腕を引っ張り教室を出た。
一応あの二人のことは気になるけど、あまりあの場所に長居したくはない。















教室を出てから黙りっぱなしの睦希が口を開いたのは背にしていた学校が見えなくなってからだった。
篠原 睦希
…錬。
黒崎 柚
何。
篠原 睦希
本当にごめん…
黒崎 柚
謝るなら初めから頼むな。……って言いたいところだが、まぁいいさ。“ちゃんとした”友達なんだろ?
篠原 睦希
ああ…
黒崎 柚
…大切な友達を守りたかったんなら、たまには人を振り回すのもいいんじゃないか?今のではなと美彩には俺とお前がある程度の仲があることがバレたから、そこは怪しんでいたらお前に何とかしてもらいたいところだが。
篠原 睦希
それは勿論する。迷惑かけたからな…
黒崎 柚
……。
反省もしているし、これ以上はいいか…
それよりも断罪を終える前に逃げ出した修哉に対してどう追い討ちを仕掛けるか…
黒崎 柚
…今思えば、何があってあんな状況になったんだ?
篠原 睦希
俺も詳細は分からない。図書委員の仕事を終えたから美彩がはなを呼びに教室に戻ったんだ。その間、俺は昇降口で待っていたんだけど中々帰って来ないから様子を見に行って…
黒崎 柚
既にはなは下着姿で美紗は泣き、変態野郎がいたと。
篠原 睦希
そう。
黒崎 柚
はなと美彩、何かあったりする?
篠原 睦希
何かって?
黒崎 柚
黒い話。俺は何故あの状況が生まれたのかがどうしても分からない。アイツが施錠しても二人が内側から開けることは可能だ。仮に片方が捕まったとしても片方が急いで助けを呼びに行くことも可能。それをわざわざ光で廊下に人がいたらラッキーって感じで助けを求めるなんてな…
何か脅されて助けを呼べない状況にあったのなら、偶然を装おうとしたのも納得が出来る。
俺のリュックは教室に残されていたから他の人が通らなくとも、リュックの持ち主である俺が教室に来る可能性は高かった。
篠原 睦希
…あるとは思う。
黒崎 柚
思うって知らないのか。
篠原 睦希
ああ。何かあることを察してはいるけど、互いに聞かないようにしている。勿論、俺も二人には話していない。はなは…俺と同じような感じだと思う。同じ感じがする。孤独を感じて居場所を探している、そんな感じ…まぁ俺の憶測過ぎないけど。
黒崎 柚
へぇ…参考にはなるよ。はな、ふわふわしてて感情読み取りにくいから。…で、睦希は孤独少しは減ったか?居場所も見つかったか?
篠原 睦希
……ん、少しは。居場所は…学校は皆がいるからいいけど、放課後は自分の家に一人でいるよりかは錬の家にお邪魔させてもらっている間の方が楽しいかな。
黒崎 柚
少しでも減ったなら良かった。居場所だって別に俺の家が楽ならそれはそれで俺は正解だと思う。なんせ居場所は自分の家か学校の二択とは限らないし。
睦希の雰囲気は前よりかは明るくなった気がする。
結依と玲依は誰にでも懐くから基本一人で過ごしていた睦希からすると物凄く温かいだろう。
篠原 睦希
……。
黒崎 柚
いきなり黙ってどうした?
篠原 睦希
…今日の錬はいつもより優しいな。
黒崎 柚
何だ。帰りたいから邪魔するなってリュックをお前の鳩尾に向かって投げるのが正解だったか?
篠原 睦希
ははっ、修哉に蹴り食らわされたばっかだから遠慮しとくよ…。
睦希は腹部を押さえながら弱々しく笑う。
目的地に着いて立ち止まったところで、俺は睦希を睦希の家に送るつもりだったのに普通に自分の家に帰っていたことに気が付いた。
黒崎 柚
普通に俺の家に来たし…もういい?自分の家が良かったら行くけど。
篠原 睦希
お邪魔させてもらう。錬も今日ぶっ倒れたんだからあまり体調良くないだろ。晩飯俺作るよ。
黒崎 柚
あぁそれは助かる…
家の門を開けて、ドアを開ける。
家族でもない睦希の居場所にもなるようなこの家は一体俺にとって何なのか。…俺の居場所は何処だろうか。
人の心配をして、俺自身の心配はできない。
孤独だって、居場所だって、全部俺自身に問うべきだ。
何が正解で何が不正解なのか…もう何も見えない…
それでも俺は…進まないと。
黒崎 柚
…ただいま。

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