あっという間だったような、永遠にも感じたような、不思議な時間だった。
火ノ宮くんは、結局チャイムが鳴るまでずっとそばについていてくれた。
狸寝入りするために被っていた布団から、頭を出す。
右肩を手で押さえて首を鳴らす火ノ宮くんの背中を追いかけて、保健室を出る。
進めていた足を止めて、火ノ宮くんは無言で私を見る。
私はガクッと肩を落とす。
ピタッと額に手を当てられて、悲鳴を上げてしまう。
廊下にいる生徒が、私の声で何人か振り向いた。
心配をしているのか、からかっているのか、私が手を離させようとしてもビクともしない。
廊下の真ん中で、私の額に手を当てる火ノ宮くんと、必死で引き剥がそうとする私。変な場面を見られてしまった。
山内くんが焦った表情で、私たちの間に割って入る。
火ノ宮くんは「チッ」と舌打ちをして、山内くんを睨んで距離をとる。
そして、すぐにこちらに背を向けてしまった。
火ノ宮くんの背中に声をかけようとしたけど、山内くんに遮られてしまう。
廊下では、火ノ宮くんに対しての噂話をする生徒がいる。
私は、姿が見えなくなるまで背中を目で追いかけていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。