第11話

三時間目、秘密④
5,375
2020/05/28 04:00
あっという間だったような、永遠にも感じたような、不思議な時間だった。
火ノ宮くんは、結局チャイムが鳴るまでずっとそばについていてくれた。
水原桃華
水原桃華
(実は、かなり優しい……とか?)
水原桃華
水原桃華
(ドキドキしすぎて、全然寝付けなかったな……)
狸寝入りするために被っていた布団から、頭を出す。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
あー、チャイム聞こえたか? てか、さっきより顔赤くなってね? もう一時間寝てるか?
水原桃華
水原桃華
平気……
水原桃華
水原桃華
(もしそうなったら、また一時間ついていてくれるのかな)
水原桃華
水原桃華
(そんなことになったら、今度こそ心臓がどうにかなっちゃいそう)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
じゃあ、教室行くか。はー、ダル……
水原桃華
水原桃華
そうだね……
水原桃華
水原桃華
(確かに、余計に疲れた感はある)
右肩を手で押さえて首を鳴らす火ノ宮くんの背中を追いかけて、保健室を出る。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
お前さ
水原桃華
水原桃華
前から思ってたんだけど、その「お前」って呼び方、やめない?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
……
進めていた足を止めて、火ノ宮くんは無言で私を見る。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
お前の名前、なんだっけ
水原桃華
水原桃華
そ、そこから!?
水原桃華
水原桃華
(ていうか、それ今さら!?)
水原桃華
水原桃華
今まで、どこのどいつだと思って私と喋ってたの?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
……よく保健室に来るうるさい女?
水原桃華
水原桃華
……
私はガクッと肩を落とす。
水原桃華
水原桃華
(ちょっとショック)
水原桃華
水原桃華
(私に興味なさすぎでしょ……)
水原桃華
水原桃華
水原桃華。言っとくけど、火ノ宮くんの隣のクラスだからね。名字くらいは知っててよ
火ノ宮直央
火ノ宮直央
へー、桃華
水原桃華
水原桃華
!?
水原桃華
水原桃華
(いきなりそっちで呼ぶの!?)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
桃華。分かった、桃華な。今度からはそっちで呼べば、文句ねーんだろ。桃華
水原桃華
水原桃華
ちょ、ま……っ
火ノ宮直央
火ノ宮直央
つーか、また顔真っ赤だけど。お前……じゃなくて、桃華
水原桃華
水原桃華
ひえっ!?
ピタッと額に手を当てられて、悲鳴を上げてしまう。
廊下にいる生徒が、私の声で何人か振り向いた。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
やっぱり、熱が
水原桃華
水原桃華
な、ない! ないから!
心配をしているのか、からかっているのか、私が手を離させようとしてもビクともしない。
山内
山内
え……、水原?
水原桃華
水原桃華
あ、山内くん
廊下の真ん中で、私の額に手を当てる火ノ宮くんと、必死で引き剥がそうとする私。変な場面を見られてしまった。
山内
山内
ちょっ、何してんの!?
水原桃華
水原桃華
え、え、あの
山内くんが焦った表情で、私たちの間に割って入る。
山内
山内
水原から離れて
水原桃華
水原桃華
山内くん、あの、違……
火ノ宮直央
火ノ宮直央
なんだよ、なんもしてねーだろーが
火ノ宮くんは「チッ」と舌打ちをして、山内くんを睨んで距離をとる。
そして、すぐにこちらに背を向けてしまった。
水原桃華
水原桃華
あ……
山内
山内
大丈夫!? 変なことされなかった!?
火ノ宮くんの背中に声をかけようとしたけど、山内くんに遮られてしまう。
女子1
うわ、やっぱり火ノ宮くんって怖いよね……
女子2
ちょっと前まで停学してたんでしょ……。他校の生徒半殺しにしたんだっけ? 何で退学にならないんだろう
廊下では、火ノ宮くんに対しての噂話をする生徒がいる。
私は、姿が見えなくなるまで背中を目で追いかけていた。

プリ小説オーディオドラマ