第5話

ふたりきり、カーテンの中で②
水原桃華
水原桃華
えっ!?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
休み時間終わるまでだからな。授業始まったら、静かに寝かせろよ
水原桃華
水原桃華
えっ、えっ……
火ノ宮くんは、眉間にしわを寄せて、ダルそうな表情で私の両手を握り続ける。
水原桃華
水原桃華
(手が冷たいからって、握って温めて欲しいわけじゃないんだけど……)
相変わらず、彼の本音は聞こえない。
例え聞こえていたとしても、私の胸の音が騒がしすぎて、分からなかっただろう。
初めて握った男子の手は、想像以上に大きかった。
水原桃華
水原桃華
(他にも、いるのかな。火ノ宮くんみたいに、心の声が聞こえない人が)


三時間目が始まりそうになって、私はベッドを離れた。
手を離したとたん、火ノ宮くんがコロンと寝転び直したのが見えた。
水原桃華
水原桃華
(いいな、自由で……。うらやましい)
ドアノブに触れて、扉を開ける直前で振り返る。
カーテンが閉まっていて、ベッドは見えない。
水原桃華
水原桃華
また来てもいい?
返事はない。
水原桃華
水原桃華
(もう眠ったのかな。早すぎ)
ため息をついて、諦めて扉を開ける。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
いいけど、次はうるさくすんなよ
返ってきた私宛ての言葉に、口元が緩んだ。
水原桃華
水原桃華
うん! また来るね!
火ノ宮直央
火ノ宮直央
うるせえ……
保健室から教室に向かう足取りは軽やか。
火ノ宮くんとは、何も特別な話をしているわけじゃない。
それどころか、私がほとんど一方的に雑談をして終わっている。
それだけのことで、とても救われた気持ちになる。
それは、彼が“聞こえない人”だから。
水原桃華
水原桃華
(もし、火ノ宮くん以外にも聞こえない人がいるのなら……)
進む足が、ピタッと止まる。
水原桃華
水原桃華
(私は、火ノ宮くんにわざわざ会いに行くのかな?)
そんなことに気づいて振り向いてみても、廊下の先には誰もいなかった。



教室に入ったのは、先生が訪れるギリギリ前。
水原桃華
水原桃華
(危なかった……)
私がこうやって胸を撫で下ろしている間にも、火ノ宮くんは保健室のベッドでスヤスヤ眠っているのだろう。
先生に当てられた女子生徒が、ノートを持ちながら席を立って、答える。
先生
そう、正解だ。ちゃんと予習してきてえらいな
褒められた女子は、嬉しそうに口に手を当てる。
水原桃華
水原桃華
(その問題、やってきたのは私なのに。ノートを丸写ししただけじゃない……)
席に着く直前に彼女と目が合って、ピースサインを向けられた。
それに対して、私はとっさに愛想笑い作って返す。
黒板にチョークが当たる音を聞きながら、窓の外に目を向ける。
水原桃華
水原桃華
(今日は、いい天気……)
そして、全てを諦めるようにため息をついた。