第17話

オオカミ少女は嘘をつけない。①
3,927
2020/07/09 04:00
ユカ
ユカ
桃ちゃん、お願い!
放課後になり、ユカが私の目の前で手を合わせるのを見て、思う。
水原桃華
水原桃華
(また始まった……)
水原桃華
水原桃華
(さっさと帰り支度をして、すぐに教室を出れば良かった)
水原桃華
水原桃華
なに? どうしたの?
聞きたくはないけど、仕方なく笑顔で問いかけてみる。
ユカ
ユカ
あのねぇ、ユカこれから掃除当番なんだ。でもね、絶対絶対外せない約束があるの。ママに早く帰ってきなさいって言われてて
水原桃華
水原桃華
(嘘くさい……)
私は諦めてため息をつき、それでも笑顔は持続させた。
水原桃華
水原桃華
分かった。掃除代わればいいってことだよね?
ユカ
ユカ
ほんとぉ!?  埋め合わせは絶対するからね。桃ちゃん大好きーっ!
水原桃華
水原桃華
あっ……!
不意をつかれた。
ユカが両腕を広げて、正面から抱きついてきた。
今までに感じたことがないほどに、一際頭がズキッと痛くなって、ユカの本音が流れ込んでくる。
ユカ
ユカ
(ラッキー。桃ちゃんって断らないから、本当に使える。埋め合わせなんかするわけないじゃん。山内くんとのデート、駅でメイク直ししてから待ち合わせ場所に行かなきゃ)
ズキズキと痛む頭が、火ノ宮くんの顔を思い出させて、私の中で何かがプチッと切れた。
水原桃華
水原桃華
(……何で、自分の頭が痛くなってまで人の言うことを聞かなきゃいけないの?)
水原桃華
水原桃華
(心の中で文句を言われる? ……それが何? 別にいいじゃない。私だって、いつも本音では汚い言葉ばかりでしょ)
ユカ
ユカ
本当にありがとうねっ。ユカ、急がなきゃ
私から離れて、浮き足立った様子で自分のかばんを手にするユカを、今度は私がつかんで引き止める。
水原桃華
水原桃華
……いいね。今から、山内くんとデートなんだ?
ユカ
ユカ
えっ……? 違うよ、ユカはママとの用事で……
ユカの上がった口角は一瞬で引きつって、いびつな形を作る。
そんなことは構わず、私は続ける。
水原桃華
水原桃華
駅でメイク直しするんだっけ? 
ユカ
ユカ
な……、なんでそれ……
水原桃華
水原桃華
駅名も、待ち合わせ場所も、時間も言い当ててあげよっか?
ユカ
ユカ
……
ユカはすっかり顔から笑みを無くして、青ざめて私を見る。
ユカ
ユカ
あ、も、桃ちゃん……、やっぱりユカ、ちゃんと掃除してから行くね……?
水原桃華
水原桃華
そう……
慌てて掃除用具入れに向かうユカを横目に、教室の扉へ足を進める。
山内
山内
あっ、ごめん! 大丈夫? 水原
教室から出る直前に、廊下から教室に入ってきた山内くんとぶつかってしまい、同時に山内くんの本音も入り込んでくる。
山内
山内
(やべ、水原まだ残ってたのかよ。今日のデート、バレてないよな? 俺、こいつのことも狙ってんのに)
山内くんは真面目なふりをして、ユカどころか何人もの女の子に手を出している。
以前彼に触れてしまった時に、知ってしまった真実。
だから、いくら彼に優しくされようと、一線を画することに決めていた。
山内
山内
水原?
水原桃華
水原桃華
私の方こそ、前を見てなくてごめんね。ユカとのデート、楽しいといいね
山内
山内
え……
表情が固まる山内くんの横をすり抜けて、教室を出る。
水原桃華
水原桃華
(ついに、言った……!)
ドキドキと高揚する気持ちを胸に、廊下を駆ける。
水原桃華
水原桃華
(ふたり、すごい顔してたな。当然か。秘密にしていたはずのことを、目の前で言い当てられたら)
水原桃華
水原桃華
(不思議。いつも後を引く頭痛が、ピッタリと治まった)
足取りも軽い。
ずっと脳裏に浮かぶのは、“彼”の顔。
水原桃華
水原桃華
(会いたいな)

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