第7話

近づく距離と、手のひら②
水原桃華
水原桃華
(昨日、もしかしてとんでもないことを言っちゃったのかな。あの時は、火ノ宮くんの手に触る理由さえあれば何でもいいって思っていたけど)
顔色も表情も変えずに、私の手を握っている火ノ宮くんの心は読めない。
水原桃華
水原桃華
(あの言い方だと、わざわざ手を温めるために来てくれたってことだよね)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
何?
水原桃華
水原桃華
見すぎたのか、火ノ宮くんは相変わらず無表情で問いかけてくる。
水原桃華
水原桃華
い、いや、あの、火ノ宮くんって、いつも手が温かいんだね
昨日は、布団に入っていたからだと答えていたけど。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
お前が冷たすぎるだけだろ
水原桃華
水原桃華
っ……
指摘されたのは手の温度のはずなのに、心臓をギュッとつかまれたように感じたのは、いつも愛想笑いばかりをして、心の中では少しも笑っていない自分の本質を見抜かれたような気がしたから。
水原桃華
水原桃華
……だよね。私、冷たいよね
火ノ宮くんは沈んだ私の顔をチラッと見る。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
温めれば済む話だろ
水原桃華
水原桃華
……え?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
は?
ポカーンとする私に、眉を寄せて見返す火ノ宮くん。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
何聞き返してんだ。だから俺が今いるんだろーが。めんどくせえ
めんどくせえって言った。当然のように言われた。
水原桃華
水原桃華
(なんか、話が噛み合ってない気がするけど……)
水原桃華
水原桃華
(面倒くさいはずなのに、手は離さないでいてくれるんだ)
水原桃華
水原桃華
火ノ宮くんって、優しいよね
火ノ宮直央
火ノ宮直央
なんだそれ
水原桃華
水原桃華
見た目は、そんななのに
火ノ宮直央
火ノ宮直央
ケンカ売ってんのか、てめぇ
水原桃華
水原桃華
それ。口もいつも悪いのに
火ノ宮直央
火ノ宮直央
好きな言葉使って、何が悪い
水原桃華
水原桃華
そうだね
水原桃華
水原桃華
(ああ、やっぱりうらやましいな。ちゃんと“自分”で生きている感じがする)
水原桃華
水原桃華
(私とは、正反対……)
そこで、休み時間の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いて、私たちは同時に手を離した。
黙って扉の方へと向かう火ノ宮くんの背中に手を伸ばしかけて、直前でその手を引く。
今までの彼のパターンから見ると、明日も保健室にサボリには来ないだろう。
今日が特別だっただけ。
水原桃華
水原桃華
(今までは、それでも平気だったのに……)
水原桃華
水原桃華
(なんでだろう。すごく名残惜しい)
火ノ宮くんが先に保健室から廊下に出て、振り返ることなく二階へ続く階段を上がろうとする。
水原桃華
水原桃華
……ねえ
火ノ宮直央
火ノ宮直央
なに
自分で呼び止めたくせに、いざ振り向かれるとドキッと驚いてしまう。
水原桃華
水原桃華
あの……明日も来てくれる? 保健室に……
火ノ宮直央
火ノ宮直央
は?
火ノ宮くんは、怪訝そうな表情を見せる。
水原桃華
水原桃華
(あ、ダメっぽい……)
そしてまたこちらに背中を見せ、階段を上がりだした。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
お前に言われなくても、元々は俺の場所だし
水原桃華
水原桃華
……え?
火ノ宮くんは少しだけ振り向いて、またすぐに前方を向いた。
今のは多分、肯定の意味を持っていた。
私は階段を急ぎ足で上がって、火ノ宮くんに追いつく。
教室まで、ふたりで並んで歩いた。