第12話

放課後、待ち合わせ
授業も終わり、帰りのホームルームも終わって、教室を飛び出す。
慌てていたせいで、よく前も見ておらず、向こう側の廊下から歩いてきた女子生徒とぶつかってしまい、彼女が抱えていた画用紙の束を落としてしまった。
水原桃華
水原桃華
あっ、ごめんなさい!
南野柑奈
南野柑奈
いえ、こちらこそ……
ふたりで慌てて拾い集める画用紙には、綺麗な風景や人物が描かれている。
水原桃華
水原桃華
(すごく上手。美術部なのかな)
水原桃華
水原桃華
(木が青で、もみじはピンク? 不思議な色使い……)
その時、ふたりで同じ画用紙に手を伸ばしてしまい、手と手が触れて……
南野柑奈
南野柑奈
(見られちゃったかな……。たぶん、変な色だって思われてるんだろうな)
南野柑奈
南野柑奈
(あれ? そういえばこの人、二年の水原先輩だ。凛ちゃんが言ってた通り、すごく綺麗な人)
全部拾い集め、彼女はペコッと頭を下げる。
南野柑奈
南野柑奈
ありがとうございました
北川大輝
北川大輝
柑奈、おまたせ。何してんの?
南野柑奈
南野柑奈
ちょっとぶつかっちゃって。拾うのも手伝ってもらってたの
男子生徒が合流して、彼女はもう一度こちらに頭を下げた。
水原桃華
水原桃華
あ、あの!
南野柑奈
南野柑奈
え?
水原桃華
水原桃華
その絵、すごく素敵だね
私がそう声をかけると、彼女は驚いた顔をして、次に嬉しそうに笑った。
ふたりの背中を見送り、自分が急いでいたことを思い出し、また廊下を駆け出した。
水原桃華
水原桃華
(もう帰っちゃったかな。いや、私が教室の前を通った時にはまだホームルームをやっていたはず)
水原桃華
水原桃華
(……ホームルームをサボってたらどうしよう)
そして、現在地は靴箱。
ソワソワと廊下を何度もチラ見しながら、私は“彼”が来るのを待っていた。
女子
あれー? 水原さん、帰らないの?
水原桃華
水原桃華
うん、ちょっと……待ち合わせというか……
女子
そうなんだ。彼氏とか?
水原桃華
水原桃華
えっ、違うよ、そういうのじゃなくて
女子
やだ、赤ーい。冗談だって
クラスメイトの女子に話しかけられ、「彼氏」というワードに動揺してしまい、注意散漫になってしまった。
彼女にパシッと背中を叩かれ、本音が流れ込んでくる。
女子
(まさか、山内くんじゃないでしょうね。ただでさえいつも近くにいて邪魔なんだから、手出ししないでよ)
ニコニコと人の良さそうな笑顔を見せながら、本当は私を批難している。
女子
どうしたの? 固まってない?
水原桃華
水原桃華
あ、ちょ、ちょっとボーッとしちゃったかな。あはは……。早く来ないかな。と、隣のクラスの友達待ってるんだよね
女子
なーんだ、そうなんだぁ。早く来るといいね? じゃあ、また明日ね
彼女に手を振って、見送る。
胸の騒ぎ方が異常に速い。
息を落ち着かせていると、待ち望んでいた姿が廊下の奥から歩いてきて、靴箱まで来るのを待ちきれず、私は駆け寄った。
水原桃華
水原桃華
火ノ宮くん……!
火ノ宮直央
火ノ宮直央
桃華
名前を呼ぶ声にドキッと胸が跳ねるけど、足は止まらない。
水原桃華
水原桃華
よかった。待ってたの……
火ノ宮直央
火ノ宮直央
なんで?
水原桃華
水原桃華
保健室から帰った時、失礼なこと言っちゃったから
たまらず火ノ宮くんの手に触れる。
やっぱり、何も聞こえない。
さっきとは全然違う。
水原桃華
水原桃華
(他人に触れるのは嫌だけど、火ノ宮くんに触れるのは好きだな……)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
失礼なこと? 別に、お前は何も言ってなかっただろ
水原桃華
水原桃華
そうだけど、でも、山内くん……あの男子、クラスメイトだから
怒っていないみたいで安心はしたけど、多分私を思っての行動だった山内くんのことは謝りたい。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
あ、「お前」って、やめるんだっけ
水原桃華
水原桃華
え?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
桃華
水原桃華
水原桃華
!!
ボンッと火がついたみたいに顔が熱くなる。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
おい、なんだ。また赤いぞ、顔
水原桃華
水原桃華
い、や、あの、お気になさらず……
水原桃華
水原桃華
(なに赤くなってるの、私! 謝るんでしょ、ほら早く……!)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
やっぱり、絶対熱あるだろ
水原桃華
水原桃華
ひえっ、だだ、大丈夫だから
また額に手を当てられて、赤面を止められそうにない。
水原桃華
水原桃華
そんなことより、火ノ宮くんって電車? 駅まで一緒に帰ってもいい?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
いいけど
これで、話が出来る。
その時の私はそれしか考えられなくて、周りの目に気配りをするのを忘れていた。