授業も終わり、帰りのホームルームも終わって、教室を飛び出す。
慌てていたせいで、よく前も見ておらず、向こう側の廊下から歩いてきた女子生徒とぶつかってしまい、彼女が抱えていた画用紙の束を落としてしまった。
ふたりで慌てて拾い集める画用紙には、綺麗な風景や人物が描かれている。
その時、ふたりで同じ画用紙に手を伸ばしてしまい、手と手が触れて……
全部拾い集め、彼女はペコッと頭を下げる。
男子生徒が合流して、彼女はもう一度こちらに頭を下げた。
私がそう声をかけると、彼女は驚いた顔をして、次に嬉しそうに笑った。
ふたりの背中を見送り、自分が急いでいたことを思い出し、また廊下を駆け出した。
そして、現在地は靴箱。
ソワソワと廊下を何度もチラ見しながら、私は“彼”が来るのを待っていた。
クラスメイトの女子に話しかけられ、「彼氏」というワードに動揺してしまい、注意散漫になってしまった。
彼女にパシッと背中を叩かれ、本音が流れ込んでくる。
ニコニコと人の良さそうな笑顔を見せながら、本当は私を批難している。
彼女に手を振って、見送る。
胸の騒ぎ方が異常に速い。
息を落ち着かせていると、待ち望んでいた姿が廊下の奥から歩いてきて、靴箱まで来るのを待ちきれず、私は駆け寄った。
名前を呼ぶ声にドキッと胸が跳ねるけど、足は止まらない。
たまらず火ノ宮くんの手に触れる。
やっぱり、何も聞こえない。
さっきとは全然違う。
怒っていないみたいで安心はしたけど、多分私を思っての行動だった山内くんのことは謝りたい。
ボンッと火がついたみたいに顔が熱くなる。
また額に手を当てられて、赤面を止められそうにない。
これで、話が出来る。
その時の私はそれしか考えられなくて、周りの目に気配りをするのを忘れていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!