第3話

心の声は、聞こえない
水原桃華
水原桃華
(まさか……、でも、今確かに……)
水原桃華
水原桃華
火ノ宮くんも、具合が悪いの?
もう一度触れて確かめたくて、話しかけて気をそらそうとする。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
いや、別に。この時間、いつも先生いないの知ってるから
火ノ宮くんが、面倒くさそうにあくびをする。
水原桃華
水原桃華
(──今だ……!)
彼の腕に、手で触れる。
火ノ宮直央
火ノ宮直央
……何?
水原桃華
水原桃華
(やっぱり……聞こえない?)
偶然かもしれないから、火ノ宮くんが変な表情を向けるのも構わず、私は手を離さない。
だけど、いつまで待っていても、彼が口から発した言葉以外は何も聞こえてこない。
いつも襲ってくる、あの頭痛もない。
水原桃華
水原桃華
(こんなこと、初めて……。こんな人がいたなんて)
火ノ宮直央
火ノ宮直央
寝るから、もういい?
水原桃華
水原桃華
あ、うん、ごめんね
手を離すと、火ノ宮くんは掛け布団を自分の体に引き寄せた。
水原桃華
水原桃華
(なんて自由な人……)
水原桃華
水原桃華
(それに、話し方もゆったりしていて、皆が言うほど怖い人でもなさそう)
この時間は、養護教諭の先生がいないと言った。
水原桃華
水原桃華
(それなら……)
水原桃華
水原桃華
火ノ宮くん、ここでサボってるのが先生にバレたら困るよね?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
は?
水原桃華
水原桃華
困るでしょ?
火ノ宮直央
火ノ宮直央
何が言いたんだ、お前
眉をひそめてこちらを見る彼に、私は「待ってました」と言わんばかりに、口元に笑みを作る。
水原桃華
水原桃華
大丈夫、バラしたりしないから安心して。その代わり、明日からは私もここに来るのを許してくれない?
──見つけた。私が落ち着ける場所。



それから私は、毎日保健室に通った。
理由なく授業をサボるわけにもいかないから、三時間目の直前の休み時間の十分間だけ。
火ノ宮くんは居たり居なかったりで、彼には彼なりの周期があるらしい。
水原桃華
水原桃華
(普通に考えて、毎日三時間目だけサボるなんて、先生にマークされるようなことをするわけがないか)
私にとっては、ひとりでもふたりでも、どちらでも構わなかった。
いつ出くわしても、火ノ宮くんは、私がそこにいることに特に関心がないようだったし、仮に迷惑だと思われていようが、彼の心は聞こえない。
それが、こんなに心地いいことだったなんて。


ユカ
ユカ
桃ちゃん、最近楽しそうだね?
水原桃華
水原桃華
え?
今日も朝から宿題を見せていると、ユカが右手に持つペンの動きを止めて、上目遣いをしてきた。
ギクッと跳ねた胸に手を当てて、笑顔を返す。
水原桃華
水原桃華
そ、そう? 私、いつもこんな感じじゃない?
ユカ
ユカ
えー? 違うよう。なんかウキウキしてるもーん
水原桃華
水原桃華
(そんな、人のことを気にしているなら、先生がやってきてしまう前にさっさとノートを写し終わって欲しい)
水原桃華
水原桃華
(というか、いい加減、自分の力で宿題くらいやってきてくれないかな……)
そんな心の声を見せないように、私は適当にはぐらかす。
ユカ
ユカ
桃ちゃん、もしかしてユカに内緒で彼氏出来た?
水原桃華
水原桃華
ま、まさか……
彼氏だなんて、手を繋ごうものならずっと心の声が聞こえてしまうような存在は、絶対ごめんだ。
水原桃華
水原桃華
(私、一生ひとりかも)
山内
山内
話中にごめん。ちょっといいかな?
ユカ
ユカ
あっ、山内くんだあ! 何なにぃ? ユカに用?
水原桃華
水原桃華
(すごいな……。目がハートマークって、こういう時に使っていい言葉なんだろうな)
水原桃華
水原桃華
(今は触れなくても、ユカの心の声が分かる)