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第1話

『テレパシー症候群』
──U16型ウイルス。
16歳以下の少年少女のみが、体のどこかに発症する症候群の総称をこう呼ぶようになってから、20年が過ぎたらしい。

ワクチン接種が義務化されたおかげで、発症する子どもは減ってきたものの、生まれつき抗体を持つ者には予防のしようがない。
手、足、体、脳など、症状が現れる箇所は人によって様々で、共通点は『発症すれば一生治らない』という。

私、水原桃華みずはらももかの場合は……──


女子A
水原さん来たぁ! お願い、助けてーっ!
水原桃華
水原桃華
はい、どうかした?
女子A
あのね、私これの提出忘れててね。水原さん、先生と仲良かったよね?
水原桃華
水原桃華
そっか……、分かった。待ってもらえるか聞いてみるね
女子A
嬉しい、助かる~!
授業三時間目直前の休み時間。
教室に入り、扉のすぐ近くにいたクラスメイトに手を合わせて頼み事をされ、いつものように笑顔で受け答えをする。
ユカ
ユカ
あっ、桃ちゃん待ってたの~! ねえねえ、ユカね、今日の数学当たるんだぁ。桃ちゃんなら予習くらいしてるよね?
間髪入れず、窓際の机で談笑していた女子のひとりが、私を見つけるなり駆け寄ってきて、上目遣いで「お願い」のポーズを作る。
水原桃華
水原桃華
(また……)
水原桃華
水原桃華
もちろんいいよ。授業が始まるまでは返してね
ユカ
ユカ
ありがとう~っ! 本当に助かる!
水原桃華
水原桃華
(ユカにノートを見せるの、もうこれで何回目だろう……。今、友達と笑っている暇があるのなら、自分の力で努力する時間にだって出来たはずなのに。絶対、最初から頼る気でいたんだ……)
水原桃華
水原桃華
(……なんて、口に出せたら苦労はしない)
ニコニコと笑顔の下にため息を隠して、私は自分のかばんから数学のノートを取り出した。
女子B
水原さんのノート、あたしも見せて欲しいなぁ
女子C
水原さん、あたしにはリーディングのノート見せてもらえないかな?
ひとりが寄ってきたのを合図に、私の机の周りはクラスメイトの女子で埋められた。
水原桃華
水原桃華
(人が多いから、気をつけなきゃ。誰かに触れたりしたら……──)
ユカ
ユカ
ねえ、桃ちゃん、これってさ
水原桃華
水原桃華
っ!
ユリがノートに伸ばしてきた指先に、私の手が触れそうになり、とっさに席を立つ。
水原桃華
水原桃華
あ、ご、ごめん。そういえば私、先生に呼び出されてたの。ノートは好きに見てて
慌てて嘘をつき、私は教室を飛び出した。
水原桃華
水原桃華
(さわりそうだった、危なかった……)
ドキドキとうるさい心音を抑えるように胸に手を当てて、うつむき加減に廊下を進むと、同じく廊下を歩いていた他のクラスの男子にぶつかってしまった。
水原桃華
水原桃華
(しまった……!)
男子
いって……、ごめん、大丈夫だった?
男子
(誰だよ、前見ろ。……あ、二組の水原だ。ラッキー。めっちゃ美人だよな、こいつ。喋ったこと、クラスのやつに自慢しよ)
水原桃華
水原桃華
男子の声と、その心の中の“本音”が同時に耳から流れ込んでくる。
瞬間、割れるように頭が痛くなって、それでも私は無理に笑った。
水原桃華
水原桃華
う、ううん、こっちこそ、前を見ていなくて……、ごめんなさい
私は、U16型ウイルスの発症者。
私は、触れるとその人の本音が聞こえてしまう、テレパシー症候群。
誰かの本心を聞くたびに頭が痛くなって、人の本当の心を聞くたびに、人の顔色を伺うようになってしまった。
水原桃華
水原桃華
(口に出した声と、心の声が同時に聞こえてくるの、いつになっても慣れないな……。気持ち悪くなる。頭も痛くなるし)