「上鳴くんにばっかり負担かけてごめん、同じ左側として私もっと頑張る…」
私はだいぶ上鳴くんと仲良くなって気軽に話せるようになった。でもそれは彼がいつも声をかけてくれたからで私の課題はまだ克服できていない
体育祭前最後の練習日、私たちのチームはだいぶ整っていた
それは他のチームも同じで、いつからかA組は学年優勝を狙っていた
休憩中、遠くで代表リレーの4人が練習している姿が見える
私の視線の先を気にしてか上鳴くんは自然と隣に座ってきてそう言った
久しぶりにみるかっちゃんの走る姿はやっぱりかっこいい
まるでスーパーヒーローが現れたかのような高揚感が胸の奥から溢れてくる
「かっちゃんがいれば絶対勝てるよ」
私は目線を動かさずに言った。横から上鳴くんの視線を感じるが私はかっちゃんから目を離すことができなかった
いつもこの安心感に助けられてきた
彼の自信に満ち溢れた表情、力強い走りをみると何もかも本当に大丈夫な気がしてくる
上鳴くんが静かに言葉をこぼすと、それを聞き取ったのか響香ちゃん達と話していたはずのお茶子ちゃんが突然会話に登場した
「幼馴染なんだ」
「家が隣同士で…。私が引っ付くからかっちゃんは仕方なく仲良くしてるって感じだよ」
教室は席が遠いし、寮は男女で分かれているため入学式から全くと言っていいほど話していなかった
思えばいつも話しかけていたのは私からだった
かっちゃんは私のことを嫌がっていたのかな…
上鳴くんがまた小さい声でそう呟いたのが聞こえた
耳郎ちゃんの一言で気持ちを切り替え、練習に戻るために立ち上がる
みんなを追いかけて歩き出そうとした時、誰かに右腕を掴まれる
「綾瀬待って」
振り向くと上目遣いをした上鳴くんと目が合う。捨てられた子犬のようにどこか寂しそうに見える彼はじっとこちらを見つめて言った
そういうと私の返事も聞かずにみんなのもとへ走り去って行った
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!