「…あぁ!」
確かに三奈ちゃんとは普段からそういう冗談を話す。だけどそれで選ぶなんて…
どうやらこのクラスの男子には相当な注意が必要らしい。じゃなきゃ1人勝手に振り回されてしまう
「そうだよね!話したことなかったしそういう理由じゃなきゃ選ばないよね。び、びっくりした…!」
「え!…あ、ありがとぅ…」
轟くんの表情は何一つ変わらないのに私の頬はどうしようもなく赤く染まっていく
この人はどういうつもりでそういう発言をしているんだろう…
私は顔を見られないように遠くを見ている振りをした
応援席に戻ると三奈ちゃんと切島くんが待っていたかのように急いで駆け寄ってきた
瀬呂くんがからかうような目で私たち2人を見る
私はさっき聞いた話をそのままみんなに説明した
三奈ちゃんは少しがっかりしていたけれど、轟らしいな〜と言って笑っている
他のみんなも私たち2人の接点の無さを知っていたからか特に驚いてはいなかった
みんなの反応を見て自分もようやく冷静さを取り戻した。確かにありえない話だったと。
そのままの勢いでA組は次の競技会場へと向かった。私はこの時クラスの輪から離れて立っているかっちゃんを見つけた。今にも爆発しそうな怒りを感じたので、集団から離れないように移動した。
いよいよ次は自分の出番だ。
“みんな頑張れー”
“麗日頑張れー” “スタートダッシュから全力でかましていけー!”
みんなの応援が下まで届く。プレッシャーが再び襲いかかってきた
「いつも通り、、、そうすれば大丈夫」
上鳴くんから私と同じくらい、それ以上の緊張感を感じる
やっぱり練習の時から私たちだけ言われてたからなぁ…
「が、頑張ろう上鳴くん!いつも通りやれば大丈夫!今日はみんなが見てるけど、、、」
「轟くんってずるいよね、全然そういうことじゃなかった。1人で期待して恥ずかしい…」
「そうだよね?でも考えてみたら話したことなかったし、ないなって思った」
上鳴くんは会話の後半は全く耳に入っていないようだった。大きなため息をついて早く競技が始まるのを待っていた
よーい…
合図がなると他のクラスや歓声で自分たちの声がかき消された
ヤオモモちゃんはそれでも必死に私たちに指示を出していた。お茶子ちゃんも口田くんも響香ちゃんもそれに応えるように一生懸命押していた。今まで1番良い…!このままなら1位も狙える
しかし、練習ではいつも騒がしかった上鳴くんが静かに走っていることが少し気になった。多分ヤオモモちゃんたちは気づいていない。
私は競技に集中していて何もできなかった。
1位は他のクラスに奪われたがA組は上位でゴールすることができた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。