放課後、図書室で勉強していると外から運動部の声が聞こえてくる
高校の陸上大会はどんな感じなんだろう
わからない問題に直面すると自然と別のことを考えてしまう
私は勉強についていくのに精一杯で部活には入らなかったから全てを完璧にこなすかっちゃんを尊敬する
せめて大会だけはこれからも応援に行きたい
図書室の扉が開く音で私は再び机と向き合った
わからない問題は何度考えても意味がわからないままなのでわかるところをまず整理する
ひたすらにペンを動かしていると誰かにヒソヒソ声で名前を呼ばれる
顔を上げると私の正面に上鳴くんが座っていた
大袈裟に口を動かしながら「なんの勉強?」と聞いてくる
数学だと伝えるとわかりやすく嫌な顔をみせた
その表情はまるで無声映画の俳優のよう
私が声を潜めて笑うと上鳴くんはニヤニヤしながら口の前に人差し指を立てた
今日は部活が休みなので定期テストに向けて勉強するらしい
一通り会話が終わると上鳴くんも勉強を始める
やっぱりわかるところを書き出しても知りたい答えは導き出せない
諦めて模範解答を見ようと鞄を漁っていると上鳴くんが問題の用紙を取り上げる
解答を引っ張り出すと同時にそれは返ってきた
見ると私が書き込んだ数字の中に紛れて不思議な人の顔が描かれていた
なにこれと聞くとさっきの俺と言われた
そしてまた面白い顔を見せてくるので必死に耐えた
さすがに図書室の空気がざわつき始めたので上鳴くんは勉強しているふり、私は窓の外に目線を移した
そうだ、かっちゃんにこの問題を見て貰おう
わかる人に聞くのが一番だ
それに私は答えだけ知っても理屈が理解できないタイプだから
ちゃんと自分で解けるようにならないと意味がない
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!